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144話 王都の休日その3

 軍曹殿と話していると、シラーちゃんがやってきた。何やら困った顔でウィルがどうかしたとか言うので、席を外して様子を見に行くことにした。

 居間に行くと、エリーとリリア、そしてウィルがいた。


「何? どうしたの?」


「兄貴ぃ~」


 俺に気がついたウィルが泣きついてきた。


「どうした? シラーにぼっこぼこにでもされたか?」


 ほんとになんだ? ガチ泣きしてるようだが。


「パーティから追い出されちゃったみたいなのよ」と、エリーが言う。


「仲直りしたんじゃないのか?」


「したっすよ~」


 話を整理するとこうだ。

 そもそものケンカの原因は、こいつが金になる危険な任務を受けたがるせいで、メンバーの一人が怪我をしたことらしい。

 俺に金をもらったにせよ一文無しだったし、それにこいつはなんのかんの言って、新人の中では抜きん出て腕がいい。それで仲間に無理をさせてしまったようだ。

 ていうか無茶をしてオーガに殺されかけたのに、やってることが進歩しとらんな。

 それで休養中は別行動をしてたのを、王都で仲直りしたはずなんだが。


 シラーちゃんとウィルが勝負をしている時に、パーティに招かれたウィルの仲間たちがやってきた。

 超絶パワーアップしたウィルの予期せぬお披露目である。

 ウィルはこんなに強くなかったよな? ずっと実力を隠してたのか? そのせいで怪我人が!

 こんな感じで難詰されたようだ。

 だが加護でいきなり強くなったとは言えない。

 同情的だったメンバーも、ウィルと自分たちでは実力が違いすぎる。この先一緒にやっていけそうにないと、その場でパーティ全員の総意で追い出されてしまった。

 

「あー、なんていうか、タイミングが悪かったな?」


 実力が上がったのをいきなり見せてしまったのは失敗だったが、結局早いか遅いかだけだったかもしれない。

 急速な実力のアップを隠して、どうにか上手く徐々に強くなったようにみせかけたところで、すぐにウィルか仲間のどちらかに不満が出ただろう。


「うっうっ……俺……生まれがこんなだから、友達も少なくて……やっと出来た仲間だったのに……」


 俺も友達少ないから気持ちはすごくよくわかる。なんとかしてやりたいが、そいつらもう帰っちゃったみたいだし、決裂も二回めともなれば、説得も簡単じゃないだろうな。

 何より加護のことは話せないから、突然の強化を説明できない。

  

「いい機会だし家に帰ったらどうだ? 魔法も覚えたんだし、もう冒険者みたいな危ない仕事はしないでもいいだろう?」


 魔法を使えないコンプレックスで家を出てきたんだし、今なら魔法に加えて、剣の腕も並の者では相手にならないくらいある。

 実家でも立派にやっていけるだろう。

 

「でも加護のことがバレないかしら?」と、エリー。


 こいつが家をでて今で半年くらいらしい。微妙なラインだな。半年もまじめに鍛えれば、それなりに強くなったり魔法を覚えたりもできるだろう。普通は加護だとかは思いつきもしないから、サティも天才だってことで問題なかったし。


「それこそ適当にごまかせばいいだろう。旅の経験は人を強くするんだ。お前、家には戻りたくないのか?」


「俺は兄貴の覇業を助けたいんすよ!」


 覇業って、俺のことをなんだと思ってるんだ。

 そういえばこいつには俺がこっちにきた事情はまだ話してなかったか? 

 加護や神託絡みの話は必ず俺がすることになっているし、加護を与えた時に少し話しただけで、すぐ大会が始まっちゃったし、放置してる間に一体どんな妄想を膨らませてたんだろう?

 

「うちのパーティに入れてやればいいじゃない」と、エリー。


「妾もそれがいいと思うがな」と、リリア。


 確かにそれが一番いいし、連れて行けば役に立つんだろうが……


「でもうちのパーティに入るとすぐに帝国に戻ることになるけど、それはどうするよ? 家の人に見つかったとして、冒険者は続けられるのか?」


「さすがに許してくれないと思うっす……」


「フルヘルムで顔をずっと隠しておけばいいのでは?」と、シラーちゃんが言う。


 それでいけるか? そんな簡単でいいのか? ギルドカードに関しては本名のウィルフレッドじゃなくて、ウィルで作ってあるから、そこから足がつくってこともなさそうだが、国境で人相書きでも配布されてればアウトだろう。

 いや飛んで行くから、検問の有りそうな場所はスルーでいいのか。

 そもそもこいつの親は捜索とかしているのだろうか? ちゃんと家族には言ってあるとはいえ、家出は家出だ。

 まあこいつが見つかったところで、別に攫ってきたわけじゃないし、単に引き渡せば問題はないと思うが……

 

 さてどうするか?

 ぶっちゃけこいつをパーティに入れない理由は特にない。俺がパーティに男は嫌だって駄々をこねてるだけで、それはほんとに単なる我が儘だ。

 嫁ともうまくやっているし、危険なクエストを受注した後の戦力増強は渡りに船とさえ言える。


「俺は家族以外はパーティに加えないことにしてるんだが……特別だぞ? パーティに入れてやる」


 家族しかいれないって話もリリアの時にでっち上げたみたいなもんで、特にそう決めてたわけでもないしな。


「それって、俺も兄貴の家族(ファミリー)の一員に……?」


 なんでそうなる。

 反論しそうになったが、何か喜んでるし、忠誠をチェックしたら上がってる。

 だがこいつからの好感度が上がっても虚しいだけだな……


「調子に乗るな。お前にはうちのパーティの盾をやってもらうぞ」


 いいや。こいつはこれまで通りに扱おう。忠誠度を稼いだり維持するのにこいつの顔色を伺うとか気を使うとか御免こうむる。

 ウィルにも盾役をやらせてシラーちゃんの負担を減らそう。


「あと、お前の実家のことで余計な迷惑はかけるなよ?」


「もちろん迷惑なんて、かけらもかけないっすよ!」


 こいつが保証してくれたところでどうしようもない気がするが……いっそ実家に無事なことを手紙でも書かせるか? でもそこから辿られて見つかりそうだし、余計なことはしないほうがいいのかね。

 当座は帝都にも寄らないで帝国でも辺境方面をハシゴする予定だし、見つかる確率もたぶん低いだろう。


「とりあえずウィルも腕に見合った装備を揃えないとな」


 人間用ならもう一度エルフの里に行くより、王都のほうが品揃えはいいか? どっちにしろ専用装備を誂えてもらいにエルフの鍛冶屋は行っといたほうがいいだろう。

 ウィルもパーティに出るような気分じゃないということで、すぐにフルプレートを買いに行った。


「これが予定調和というものではないか?」


「そうそう。勇者の下には人材が集うものよ」


 勇者か。ウィルならその役目にぴったりじゃないだろうか?

 身分を隠した王子様が、滅亡した国を救う。うん、実にドラマティックだ。



 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■



 ウィルの相手をしているうちにパーティの時間がきていた。


「本日はサティの優勝記念パーティにお集まりいただきありがとうございます」


 エリーの挨拶でパーティを始めるようだ。


「マサルは残念なことに本戦決勝の一回戦で敗北してしまいましたが、その仇を見事にサティが――」


 エリーは機嫌よく挨拶を続けている。


「――功績を認められAランクに上がることが内定し、今後も」


「長い」


 ほっといたら一時間でもしゃべってそうだ。それにちゃんとした挨拶をやってみたところで、部外者的な人間は軍曹殿とラザードさんのところのパーティだけ。これにウィルのところのパーティも来るはずだったんだが……

 まあ王都には来たばかりで知り合いとかいないしね? エルフさんがたくさん来てくれたしね?

 シオリイの町や俺の村に戻れば盛大にできたんだろうが、まあ俺としてはこれで十分だ。エリーの希望する、エルフの伝での貴族の招待とかはやりたくないし。


「あら、そう? ではサティ、優勝おめでとう!」


「「おめでとう!」」と、皆で唱和する。


 さっそくラザードさんがサティに絡んで、フランチェスカ戦とボルゾーラ戦の感想戦が、軍曹殿を交えて始まった。あの場面ではこうしたほうがよかった。あの動きは素晴らしかった。あの技はどうすれば防げたのか?

 シラーちゃんやエルフの中でも戦闘好きが集まって、喧々囂々興味津々である。

 しかし段々細かい話になって退屈になってきたし、食事がそっちのけだったので、クルックとシルバーを引っ張って、輪から離れ、部屋の隅っこで顔を突き合わせる。


「ありがとう、マサル!」


 クルックにいきなり礼を言われた。ウィルの相手でパーティにはぎりぎりで来たから、こいつらと話すのは大会前以来だ。


「おお? どうした?」


「お前の言うとおりサティちゃんに賭けて、すげー儲かった!」


「ほほう。アレが買えるくらいか?」


 タマラちゃんは自分を買い戻せたし、がっつり賭けてれば安い奴隷なら余裕で買えるくらいにはなったはずだ。


「買えちゃうくらいだ」


 クルックの言葉にシルバーも真剣に頷いている。


「それだけお金があったら、冒険者を引退できるんじゃないか?」


「出来ないこともないけど……まだ不安がある額だな」


「引退後は農家か? なんならタダで農地を分けてやろうか?」


「余ってるのか?」


「開墾した分はもうないけど、土地自体はまだまだ余裕があるからな」


「開墾からかあ。それに遠いだろ」


「遠いのはともかく、開墾はみんなで一気にやるからそんなに手間じゃないぞ。シルバーはどうだ?」


「まだ引退を考えるような年じゃないし、当分は続ける」


 クルックは興味ありげだが、シルバーは食いつきが悪いな。お金があるからって無条件に引退したいわけでもないのか?


「まだ冒険者になって一年も経ってないんだぞ? それに賭けで儲けたお金でっていうのもちょっとな」と、クルック。


 そんなに気にするようなものかと思うが、体面というのはかなり大事なようだ。

 この世界では田舎では特に、人が寄り集まって助けあって生きているからわからないでもないが。


「せめてお嫁さんを連れて帰るとか理由がないとな。マサル、若い娘の知り合いとかいないのか?」


「うちの村は開拓の最中だし、夫婦者を除けば男ばっかだな」


 二、三年して農地が安定したら集団見合いでもして、近隣から嫁を見繕ってやるらしい。俺が。じゃないと独身男性だらけの村になって、将来困ることになる。

 まあ俺じゃなく、村長代理のオルバさんがやってくれるんだろうけど。


「マサルはいいな。五人も美人の嫁さんがいて」


 すまんな。昨日六人になったんだ。でもこれは黙っておいたほうがいいだろう。まだ正式に嫁にしたわけでもないし、こいつらに言うのは時期尚早だ。


「どうすればそんなにモテるんだ?」


 どうすればモテるんだろう?

 死にそうな目に会うと、嫁が増えるケースが多い気がする。


「エリーは二人でドラゴンに特攻した時に、俺を意識しだしたそうだ。リリアも俺がドラゴンに特攻した時に惚れたみたいだぞ」


「難易度が高すぎるわ!」


「あとは村の全滅を害獣から救ったり、目の見えない人を治したりしても、嫁が増えそうになったな。そん時は貰わなかったけど」


「もっと普通の出会いはないのかよ」


 普通の出会いじゃ加護は付かないだろうしなあ。


 とりあえずモテるためには何が必要か話し合った結果、俺みたいに強くなれば文句なしにモテるという結論が出たのだが、それは無理があるので、魔法使いになればモテるのではということになった。そう言えばいつぞや依頼で一緒だった時に練習していたことがあったが、全然モノにはならなかったようだ。


「エリーが言うには魔法を覚えるには、魔法に長時間接して、まずは魔力を感じれるようにならないといけないそうだ」


 だから魔法学校のような専門機関はとても有効だし、エルフみたいに全員が魔法使いな環境だと、自然に魔法を覚える。


「うちのパーティ、魔法使いはいないし絶望的じゃないか」


 そもそもこいつらに魔法の才能があるのだろうか?


「ちょっと調べてやろう」


 体に直接触れて魔力を探ってみる。


「魔力は……あるな」


 魔力は感じる。だがよく考えればこういうのを試すの初めてで、見たところで多いのか少ないのかさっぱりわからんかった。

 そこでアンジェラ先生のご登場を願ってみた。


「魔力は……あるわね」


 アンは二人をペタペタとひとしきり触ると、まるっきり俺と同じことを言った。


「ええっとね。魔力があるのはわかるんだけど、内にある魔力って、表に出ないからわからないのよ。マサルくらい強ければはっきりわかるんだけどね」


「つまり?」


「二人とも普通くらいの魔力はあるから、あとは努力次第ね」


 ただし、努力が報われるかどうかは生まれ持った魔力次第。

 まずは魔力を感知できるようにする。次に魔力の操作を覚える。そこでやっと魔法が使えるようになる。

 といっても、まだ火を熾せたり、水がちょろちょろと出せる程度。そこからさらに実戦で使えるくらいまで鍛える必要がある。

 ちょっと使える程度じゃ魔法使いとは名乗れない。


「剣も魔物を倒せるくらいじゃないと、子供の遊びと変わらないでしょ?」と、アン。


 それで半年や一年、あるいはもっと長期間修行に費やしたあげく、ウィルのようにさっぱり才能がないことが判明するかもしれない。

 報われるかどうかわからない努力に時間をかけられるほど、この世界の人、普通の人には余裕がない。

 それなら最初から剣や弓の修行したほうが確実だ。こっちは体付きを見れば限界はだいたい推し量れるし、鍛えた筋肉は期待を裏切らない。

 たとえ力が弱くとも、鋭い剣があれば魔物を斬り裂くことが出来る。


「なるほどー。ありがとうございました、アンジェラ先生」


「いえいえ、どういたしまして」


 アンジェラ先生にはご退場願う。クルックとシルバーは名残惜しそうだが、あれは俺の嫁だ。あまりじろじろ見るのも許さん。鑑賞するならエルフさんにしておけ。


「やっぱり魔法使いはモテるだけのことはあるんだな……」


 そもそも最初に必要な魔法感知が、魔法を使える人がいないことには学ぶことすらできない。

 魔法使いが希少なわけだ。

 

「ラザードさんはどうやって魔力感知を覚えたんだろう?」


「わからん」と、クルック。


 はい、では次のゲストにラザードさんをお呼びしました。


「そりゃあ実戦だな。何度も魔法を食らって痛い目をみりゃ、自然に見えるようになるぜ?」


 ありがとうございました。


「今日と明日なら時間があるし、試してみるか?」


「おお、そいつはいいな。ぜひやってもらえ!」


「やる」と、シルバーがやる気をみせた。


「マジか」と、クルックは顔を引きつらせている。


「もちろんクルックもだ。こんな機会滅多にないぞ?」


「はい……」


「あとシルバーは防具なしだ」


「ええっ!?」


「当たり前だろう。ガチガチに守ってちゃ修行にならん。マサル、遠慮無くぶちあててやってくれ」


「お任せを」


 友人を傷つけるのは心苦しいが、これも修行だ。


「あの、ラザードさん。俺たち祭りが終わったらすぐに依頼に出るんですよね?」


「お前ら二人が役立たずでも仕事は問題ない。気兼ねなくやられてこい」


「さ、訓練場に行くか? 大丈夫だって。最初はもちろん当てないから、そこで見極められれば怪我なんかしないし」


「そ、そうだな」




 ズドン。

 二人が注視する中、試射のエアハンマーが大岩の表面を大きく砕いた。

 おっと、威力の調整を忘れてた。これじゃ一撃で全身バキバキ、再起不能だ。対人用に弱く、弱く。

 ドンッ、ドンッと大岩にエアハンマーが命中し、堅いはずの岩がごりごりと削れていく。我ながらなかなかの威力だ。

 

「おい、ほんとに大丈夫なんだろうな!?」


「調整はこれで大丈夫だ。シルバー、試しに盾で受け止めてくれ」


「ああ」


 【エアハンマー(弱)】発動!

 シルバーが盾でがっしりと受け止めた。もういっちょ、【エアハンマー(弱)】発動。これも問題なく受け止められた。


「な? 普通の威力だろ」


 シルバーが頷く。盾でしっかりと受け止めれば、通常のエアハンマーはさほど脅威じゃない。俺の場合、威力を弱めたエアハンマー(弱)だが。

 このエアハンマー(弱)、威力を弱くした分、発動が多少だが早くなってる。使う魔力が半分だからといって、発動時間が単純に半分になるわけでもないが、連打スピードはかなり上げられそうだ。


 もう一度大岩に向けて、今度はエアハンマー(弱)を連打してみると、連打に耐え切れなかったのか、ついに大岩が崩壊してしまった。


「おいいいいい!?」

 

「ちゃんと見てなくてもいいのか? そろそろ本番行くぞ」


「マジか」


「マジだ」


 だってラザードさんがそろそろいけって合図してるんだもの。


 訓練方法は並んだ二人のどちらかにエアハンマー(弱)で攻撃をする。盾は持つが、来ると思った時しかガードしてはいけない。上下にも打ち分けるから運では防げない。


「いいか、魔力を見るには、目にぐーっと力を入れる感じでだな――」


 クルックは食べたものを吐いたが、シルバーはさすが盾役。最後まで耐え切った。

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