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123話 王都アルムスとミスリル銀の短剣

 ウィルのことは気にしないことにした。加護もひっくるめてなるようにしかならないだろう。エリーは必要だと考えているようだし、リリアもウィルと友誼を結んでおくことは益になるかもしれないと思っているようだ。


「加護がなくとも10年後50年後、帝国で大きな力を持つやもしれんしの」 


 もし加護を得れば確実に帝国で大きな力を持てるだろうな。

 50年後はともかく、20年後までに起こる何かで助けになる可能性もある。男は嫌だと思ってたが、加護がついたからって別にパーティに入れる必要もないんだよな。こいつはこいつでパーティを組んでるんだし。


「風よ!」


 町の外へ出てリリアが【フライ】を発動させる。俺の召喚馬で馬車という案もあったが、速度が段違いだし、フライを使う魔法使い程度ならそう珍しくもないはずだ。


「おおおー、これが精霊魔法っすか!」


 全員をふんわりと風に包み、飛行を開始したフライにウィルは興奮気味だ。

 帝国にはあまりエルフはいないらしい。

 

「我らはかつて帝国では亜人とも呼ばれ迫害があっての」


 亜人と呼ばれ蔑まれたエルフ獣人ドワーフは、当時帝国の地方領に過ぎなかった王国の独立戦争に協力した。その功績でエルフは辺境であるが領地を認められ、今の繁栄がある。


「今はそんな話はぜんぜん聞かないっすけど……」


「我らは長命じゃ。ひどかった時期を実際に覚えている者もおる」


 そのせいでエルフは帝国にはあまり寄り付かず、国同士の交流もない。地理的に王国を間に挟み、必要が特にないということもあるが。


「なんかすんません」


「ま、古い世代の話で我らやウィルには関係のないことじゃ」


 退屈なんで雑談しながら飛ぶ。一応警戒はするが、街道沿いに治安のいい王都方面へと向かうので危険は少ない。

 街道もきちんと整備されているので、休憩や泊まる場所などにも事欠かない。

 夜を避ければ護衛なしでも、高確率で生きて王都にたどり着けるそうである。


「なあ、思ったんだけど」と、エリーに休憩中話してみる。 


「これって俺とリリアだけで行って、あとでゲートで迎えに行ったほうが楽じゃないか?」


 そうなるとウィルは連れていけなくなるが。


「何かあった時に揃ってたほうがいいでしょ」


 それもそうか。今回は完璧旅行気分だったわ。ここは危険な異世界。どこにいようと危険はあるんだと忘れないようにしないと。


「それに旅はみんなで行ったほうが楽しかろう?」


 リリアも旅行気分なようだ。そしてそれにみんなもうなずく。

 みんなも旅行気分だったようだ。まあちょっとした魔物程度でどうにかなるわけじゃないからなあ。一応油断だけはしないようにしておこう……


 急げばその日のうちに王都に着きそうだったが、たまには外泊もよかろうと予定通り途中で一泊することにした。

 

 しかしこの時期王都への人出は多く、宿はどこも満杯。ろくな部屋が取れなかった。ウィルは馬小屋にワラのベッドである。意地悪じゃなくて、ほんとに部屋がなかったのだ。

 俺たちも一部屋のみで、シングルベッドが二つ。狭くてボロい部屋にリリアは大喜びである。


「これぞ冒険者の生活というやつじゃな!」


 だけど夕食を宿で一番安い定食にしてやったら微妙な顔をしていた。

 薄いスープに固いパン。申し訳程度に肉と野菜が入った穀物のリゾット。量は十分だが美味しくもなく特にまずくもない。王子(ウィル)は大人しく食っていた。食えるだけマシっすよと、王子様もなかなか苦労をされているようだ。(リリア)も見習って残さずちゃんと食え。


 まあそんな感じで旅をそれなりに満喫しつつ、街道の人通りも増え、あれはなんだ!と空を指さされることも増えながら、二日目の昼前にはリシュラ王国最大の都市、王都アルムスに到着したのだった。

 今まで見たどこよりも広大な町に立派な城壁。内部にも幾層にも壁があるのは何度か増設して成長したのだろう。郊外には広い広い農地。大きな門には入場待ちの長い列ができている。


 もちろん普通に門から歩いて入る。三〇分ほども並ぶと順番が来て、チェックはカードを見るだけで、入場料を徴収するとすぐに通してくれた。俺のAランクのカードを見ても特に反応もなく慣れたものである。エルフも別に珍しくもないようだ。ただ、ティリカだけはどこでもガン見されるのは変わらない。

 門を入ってすぐのところは広場になっている。たくさんの人に屋台に露店。大道芸人や吟遊詩人なんかもいた。なるほどお祭りだ。

 王都が初めてのサティはキョロキョロとしている。リリアも初めてだがこっちは落ち着いたものだ。他は来たことがあるらしい。俺ももちろん初めてだが、何度か行ったことのあるどこぞの同人誌祭りや都会の喧騒に比べれば人混みもかわいいものだ。

 とりあえずサティが迷子にならないようにしっかりと手を繋いでおく。


「エルフの屋敷はどっちだ?」


 王都での滞在はエルフ邸、元々リリアが修行に来る予定だった所にお邪魔する予定だ。


「こっちの中心部のほうの、王宮もある貴族街ね」


 その貴族街だが、見物がてらかなりな距離を歩いて到着してみると通常エリアとは壁で分けられ、入り口には警備もいた。

 俺たちみたいなのは紹介状とか事前の申し入れがないと入り口でボディチェックされ、用件を根掘り葉掘り聞かれ、中の住人に連絡が行き、その許可がないと入れない。厳重である。

 が、今回は別にそんな面倒なことにはならなかった。エルフの屋敷に行きたいと言うと、すぐに通行の許可が下りた。


「エルフから連絡は受けております。エルフ一名に獣人一名。女性五名に男性二名? 連絡を受けた数よりも一人多いようですが……増えた? 祭り見物ですか。まあ問題ないでしょう。エルフ邸までは案内をお付けします」


 宿泊のお願いを手紙で知らせておいたので、手配してくれていたのだろう。実にスムーズである。一人増えたのも祭り見物だとよくある話のようだ。

 武器は装備したままで平気らしい。案内という名の監視も付くようだしさほど警戒厳重というわけでもなく、単に一般人の立ち入りを制限しているだけのようだ。

 貴族街は一般区画とは趣の違う、豪勢な邸宅の立ち並ぶ風情のある地域だった。綺麗な石畳の道。出歩いている人も少なく、その少ない人も上品な身なり。通りにあるお店も高級そうで洒落た感じ。開放したら観光客が押しかけそうだ。

 

 エルフ邸は貴族街の中でも広い敷地を持つ結構な豪邸だった。門を叩くと即座にエルフが出迎えてくれ、屋敷へと案内される。


「ようこそいらっしゃいました!」


 玄関では三〇名ほどのエルフが出てきて勢揃いして歓迎された。


「遠路はるばる、お疲れ様でした。お部屋へ案内致します。まずは旅の埃をお落としください」


 遠路ではあるが、はるばるでもないな。一泊二日の空の旅。日帰りで森に狩りで出るほうがよっぽど疲れる。まあそのあたりの事情はここのエルフさんは知る由もないが。


「うむ。じゃが此度は修行のために里から出てきておる。過剰な扱いは不要じゃ」


「もちろん心得ております」


 部屋はスイートルームを割り当てられた。寝室、居間、付き人などが泊まれるもう一部屋がセットになった、賓客用の豪勢な部屋である。

 決して贅沢ではなく、大人数がまとめて泊まれる部屋がここしかなかったと、そういう名目のようだ。


「ああ、こいつは別に部屋を割り当ててやってください。なければ馬小屋でも庭でもいいですから」


 一緒に部屋に入ろうとしたウィルの部屋をお願いする。


「え、あ、はい。泊まれれば贅沢は言わないっす……」


 今までどおり王子様扱いはしないと明言してある。有言実行だ。


「こちらは護衛の方でしょうか?」


 なんだろう? 友達じゃないし、弟子でもない。知り合いで済ますにも命を助けたり世話とかもして大きく関わってるし。こいつは何者なんだろう?


「マサルの友人で、一緒に王都見物に来た普通の冒険者じゃ。適当な部屋を宛てがってやってくれ」


「はっ、リリ様」


 なるほど。傍から見れば友人枠か。まあそのへんが無難だな。


 部屋に落ち着いたあとは王都のエルフたちと会議である。滞在するにあたっての注意事項、確認事項が結構ある。手紙では機密保持に不安があるので、リリアがこちらを訪ねるとしか教えていない。

 王都には祭りが終わるまで滞在する。ここのところ村作りで忙しかったから久しぶりのまとまった休暇だ。

 リリアは修行の旅だから過度な接待は必要ない。ただ、さすがに普通のエルフ扱いは厳しいと、王家の傍流、分家の子女ということにしておこうということになった。

 そして里の危機と俺たちの働き。リリアは結婚して修行の旅の途中に立ち寄ったこと。ゲート魔法。


「ゲートが使えるんですか!?」


「うむ。妾たちの滞在中、里帰りを希望する者は申し出るが良い」


 一時帰国だけでなく、人員の一部入れ替えもこの機会に里と協議してやるそうだ。


「それは非常にありがたいお申し出です」


「それと里の戦いに関連して魔族の動きがある」


 神の加護のこと。魔族によると思われる、Sランク火メイジの暗殺。神託は王様たちだけだが、加護はエルフの大多数が知っている話だ。


「なるほど。秘密保持に関しては万全に致しましょう。もし王都にいる間にそれらしい情報があれば、ご自分では決して動かず、必ずこちらにお知らせください」


 ここのエルフさんたちは王都との防衛協力の一環として来ている精鋭魔導部隊で、魔族の探索と狩りも仕事の一部だそうだ。


「あのウィルという冒険者は?」


「あいつはごく普通の冒険者でこの件にはまったく関わってません。ゲートも知りません。ほんとに遊びに来ただけなんで最低限の面倒だけで放置でいいですよ」


「わかりました。そのように」


 まずは昼食。エルフの歓待を受ける。

 そして午後からはさっそく王都に繰り出す。王都での用事がいくつかある。


 まずは鍛冶屋だ。首都だけあってドワーフの腕のいい鍛冶師がいるらしい。剣を作って貰うとなると時間がかかるので最初に見に行こうと考えたのだ。

 俺にはサティとリリアが同行した。アンとティリカ、エリーは別件、神殿や真偽院回りだそうである。ウィルはそっちに護衛兼雑用係として付けた。


「何かあったら体を張って守るんだぞ?」


「お任せくださいっす!」


 まあ嫁のが一〇〇倍強いんだけど、男手があるといらぬちょっかいは減るだろう。無事役目を果たしたらお小遣いをやることにしよう。


 さて、そのドワーフの鍛冶屋である。名をグアラム鍛冶工房。詳しい場所は聞いていたのですぐに見つけることができた。小さい工房で店舗がなく、武器が無造作に並べてあるだけで商売をしている様子はない。注文販売のみ。オルバさんの紹介だ。魔法剣用の剣も普通に買うより安く製作してくれるという。

 工房にはこの王都の人出にも関わらず客がいなかった。常連と紹介者の注文だけで、客を取らなくてもやっていけるということなのだろう。

 ドワーフは人間族に一番近い種族だ。多少人間より背が低く、横に大きく、力が強い。多少である。特徴的なヒゲを剃って普通に人間に混じってれば、町中で見てもほとんどわからない。

 だがこの鍛冶師は典型的なドワーフの容姿だった。立派なヒゲにずんぐりした体形。盛り上がった筋肉。


「ほう、オルバの紹介か。あいつは元気にしとるかね?」


「足をやられて冒険者は引退しました。今は故郷に帰って小さい村の代官、村長をやってますよ」


 続いて用件。魔法剣が欲しいことを伝える。


「ふむ。それじゃあ背中の剣を振ってみせろ」


 腕が見たいんだろう。言われるままに剣を抜き数度振るう。


「オルバの紹介だけはあるな。その剣はエルフのか。見せてみろ……うむ。線は細いがいい剣だ」

 

 エルフとドワーフが仲が悪いとかは、この世界じゃないようだ。エルフの里でもドワーフの技術者が防衛設備を作るのに協力してたし。


「これに魔力を込めてみろ。全力でな」


 次にミスリル銀の短剣を渡された。


「全力ですか……?」


「おう。全力じゃねーと力量がわからんだろう?」


 むう。魔法剣の全力とかやったことないけどどうなるんだ?

 とりあえず徐々に魔力を込める感じにしてみるか。ヤバそうなら止めればいいし。


 短剣に魔力を込めていく。ゆっくりと。

 短剣に炎が宿り、徐々に込める魔力に従って熱を上げていく。ミスった。火にするんじゃなかった。熱い。

 だが我慢して魔力を注いでいく。


「お、おい、まだ全力じゃねーのか?」


 一割も行ってないぞ。でもそろそろ熱がヤバイ。めっちゃ熱い。


「やめ! そこまででいい!」


 魔力を込めるのを止めて、魔法剣の発動を消す。


「あっつぅ」


 赤熱している短剣を大急ぎで床に置いて、手のひらを確認する。ちょっと火傷したか? 【ヒール】


「こりゃあ……」

 

 まだ熱い短剣を拾いチェックしたグアラム氏が呟く。


「ミスリル銀じゃ耐えられんな。それに柄もこの材質じゃ……今ので全力か?」


「あー、半分も行ってないです」


 一割以下だが、それでもメテオが撃てるくらいの魔力だ。


「むう。これはワシじゃ手に負えんな。見ろ」


 ミスリル銀の短剣は少し曲がり、先端も丸まっている。溶けたか。


「お前の魔力にミスリル銀では耐えきれん。剣の腕もいいから強度も足りん。強度も魔法耐性も最上級のオリハルコンが必要だな。柄も特別製が必要だ」


「普通に魔法剣が使えるくらいのでいいんですけど」


「ダメだ」


「そこをなんとか」


「使ってるうちに折れるような剣、渡すことはできん」

 

「なんじゃ、腕がいいと聞いてきたのに」


 まったくだ。


「生意気な口を聞くな、そこのエルフ! 専門が違うんだ。特殊な金属の加工には特殊な技術と素材がいる。ワシが扱えるのはミスリル銀だけって話だ」


「だからといってやりもせずに諦めるはどうなのじゃ。我らがこの忙しいなか――」


 でも魔力を込めすぎるとあんな感じになるのか。風とかならどうなるんだろう。

 やりあってるエルフとドワーフは放っておいて、机に置かれたミスリル銀の短剣を拾い、魔力を込めてみる。

 ふむ。風だと余計に魔力を込めてもそんなに変化はないな。もうちょっと――


「あっ」


 ヒビが入ったと思ったら、ビギンッと嫌な感じの金属音がして柄だけを残して砕けてしまった。

 エルフとドワーフが口論をやめ、驚いた顔でこっちを見てる。


「折れるような剣はダメですね」


「それ、弁償な」


 ですよね。

 結局魔法金属を専門にしているドワーフを紹介してもらえることになった。ただし帝国のほうまで行かないといけない。当分は普通の剣で我慢するしかないようだ。


「せめて剣の腕が並ならワシの打ったのでも悪くなかったんだが、そっちもいいときた。まあ普通の剣が良ければいつでも来な。どんな剣でも打ってやるよ」


 ちなみに王都の他の鍛冶屋にも魔法金属を扱えるものはいない。魔法金属の加工はドワーフの秘術らしい。

 もちろん王都なら探せば売ってる剣もあるだろうが、俺の壊したミスリル銀の短剣以上のものはそうそうないと言う。別に最低限使えればいいんだが、現状普通の剣を使い潰せばいいし、無理に探して買う必要もない。


「もしかしたらそろそろ移動しとるかもしれんが……まあ行けばわかるだろ」


「移動って?」


「鉱石が取れる場所じゃないと意味がないからな。鉱山が枯れたら次の場所を探して移動するのよ」


 もう三〇年以上戻ってないから、もしかするとすでにと。その時は頑張って探してくれと。


「まあ別に隠れ住んどるわけじゃないから、近隣の住人に聞けばわかろう」


 高い金を取られて得られたのは情報のみか。これ俺のお小遣いからでいいって言って出てきちゃったけど、エリーに言って経費(パーティ資金)で落とせないだろうか?

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