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119話 加護と新しいメイドさん

 屋敷づくりは順調に進み、予定通り3日目には仕上がった。それも家財道具込みで、即入居可でのお引き渡しである。

 俺が持ち帰った家具は俺たちの生活するスペースに入れられ、もちろんそれだけじゃ大きな屋敷にはまったく足りないので、エルフの里から追加された家具が屋敷中隈なく豪勢に配置された。もちろんエルフ側の好意なので支払いなど気にしなくていいとのことである。

 まあ払えって言われても、市場で見たエルフ産製品の価格を考えると、この前の報酬を全部使っても足りないかもしれない。

 実際どれくらいかは概算でも怖くて計算はしなかった。


 屋敷が終わったら次は外回りである。こちらは敷地がそれなりに広いのでもうちょっと時間がかかる。

 しかしそれで話は終わらなくて、村作りのほうもお手伝いを申し出てくれた。最初は自分一人でやるとは言っていたが、引き続きでそのままという話なら断る理由もない。それにこの道100年の親方の申し出である。素人の俺がやるとはとてもいえない。趣味の日曜大工じゃない、みんなが住む村なのだ。

 そういうことで屋敷の残りの作業と村作りは並行してやっている。それに伴ってガテン系エルフさんの増員もした。


 手伝いと称してはいるが、当然ながら俺は親方の指示にて穴や壁や家を作っていくだけである。

 指示に従っていればいいので楽ではある。屋敷と同じく細かいところはプロの皆さんがやってくれ、仕上がりも万全だ。

 村をまるごと作るのだ。小さい村だし俺一人でやればいいとの当初の計画はずいぶんと無謀だったようだ。作業が想像してたのより大量で多岐にわたり、しかも複雑だ。

 もっとも村の規模もなんだか50人程度の住民じゃ済まないサイズになってるようなのだが……

 

 まあ村のほうは俺が領主とはいえ、オルバさんたち住人の意見を重視した結果だし、なるようにしかならないので置いておいて、家の中のことである。

 さすがに屋敷がでかくなって、今の面子ではまともにやろうと思えば負担がとんでもないことになる。豪華な屋敷は、維持にもそれなりの手間が必要である。

 なし崩しにティトスパトスの両名は居座ることが確定したのだが、元々このエルフたちはリリアの護衛がメインで、身の回りの世話もするのだが家事は担当外。パトスさんは家事全般そこそこ出来て手伝ってくれているのだが、たった一人では当然足りない。


 人を増やす必要がある。当然奴隷だ。

 エルフから人材派遣のオファーもあったのだが、一旦保留にしておいた。

 奴隷化による加護のテストをしなければならない。

 生き残るための戦力増強は最優先事項である。もし奴隷化が加護の条件なら話は簡単になる。


「まずはどう見ても俺に懐きそうにない感じの娘を購入してみて、様子を見ようと思ってる」


 加護が付かなければ屋敷で普通に働いてもらえばいい。

 もし加護が付くようなら冒険者としてパーティに入ってもいいし、そのまま家事のエキスパートになってもらってもいい。

 一人目次第で二人目を考える。

 加護が付くなら戦力重視で選ぶ。奴隷化で加護が付かないなら、俺に簡単に惚れてくれそうな人材をどうにか見つけないといけない。難易度高い。

 ここ数日何度か里に行っていて、エルフの中には今のところ加護が付いた人材はいないようだが、俺たちに恩義を感じている者が多数いるので、そちらを当たってみてもいいかもしれない。


 で、本日は朝からこの地方最大の都市、ミヤガの奴隷商に一人でやってきている。

 仲間になるかもしれない人材の選定である。みんな来たがったが、加護のことがあるので俺だけでやらないと意味がない。

 

「本日はどのような奴隷をお探しでしょうか?」

 

 今日は服装にも気を使っているので応対も丁寧である。これ見よがしにつけているエルフの装飾品一個でも、奴隷を何人か買えてしまうのだ。


「うむ。見た目が悪くない女性で、家事が出来ることが条件だ。問題があってもいいから値が張らないのが見たい」


「そういうことでしたらいい娘がおりますよ。歳は15で容姿も極上。家事ももちろんこなせます」


 ですが男性恐怖症なんですと奴隷商は言う。 

 元々は男性がちょっと苦手という程度だったらしい。見た目がいいからすぐに買われていったのだが、無理矢理手篭めにされそうになり暴れたところ、たまたま主人の急所を直撃。治癒術師が必要なくらいの大惨事で、即座に返品されてきたそうである。

 もちろんそういうことも含めて本人も納得して買われたのだが、男性恐怖症が本人が思っていた以上に重かったのか、買っていったやつがよっぽどアレで嫌だったのか。前の購入者についてはぼやかされた。たぶん両方なんだろう。

 それで完全に男性がダメになり、家事は問題ないが夜のほうは諦めてくれということである。

 

 説明後、部屋に連れて来られたのはなかなかの美少女である。奴隷用の薄い貫頭衣に大きな胸が目の毒だ。襲いかかりたくなる気持ちもわかる。

 こちらではあまりみない東洋系の顔立ちに黒い髪。ちょっとおどおどした感じがまたそそる。

 仕事もこなせ、若く見た目もよかったから仕入れ値もそれなりで、出戻りで問題を抱えたとはいえ、赤字覚悟でもなければそうそう値段も下げられなく、売れなくて困っていたそうな。客としても同じくらいの値段で条件のいいのはいくらでもいるから、問題児を買う理由もない。


「スタイルはいいな」


 そう言って手をのばすと、ひっと言って一歩後退してしまった。重症だな。


「お客様それは」


 奴隷商の人に窘められた。


「ちょっと試しただけだ。おいお前! うちは広いし仕事はキツイぞ?」


「は、はい。体力には自信があります、旦那さま」


 おや。結構前向きだな。サティの時みたいに売れ残ったら鉱山送りとでも言われてるのかね。娼婦なんかにはなれそうもないし。

 このまま買ったら普通に感謝されかねない。不本意であるが、少し虐めてみるか。


「本当か? 口先だけならいくらでも言えるからな。前の主人に怪我をさせて出戻ったんだろう?」


 この程度の俺のセリフに涙目になってぷるぷるしている。メンタルは余り強くないようだ。


「家事能力に関しては私めが保証いたします」


「ふうん。じゃあ体を見せてみろ。脱げ」


 視線をいやらしく体に這わせながら言う。これなら確実に嫌われるだろう。もちろんこれは演技である。

 案の定、さらに涙目になって脱ぐのを躊躇している。

 

「お客様……」


 実際のところ服はペラペラで脇やら足やらむき出しで、わざわざ脱がす意味はほとんどない。


「わかったわかった。脱ぐのはいい。それでこいつはいくらだ?」


「○○ゴルドです」

 

 サティより高い。


「なに? それはちょっと高くないか?」


「ですが見た目も良いですし、仕事はできますので」


「出戻りで中古なんだろう? それに手を出せんなら見た目なんぞ意味がないだろう。もう少し――」


 本人の前での値引き交渉。さぞかし気分が悪かろう。我ながら下種だなあ。

 俺としても普通に購入して仲良くしたいところだが、それでは目的にそぐわないし、どうせこの娘には手は出せない。

 結局それほど値引きはできなかったが、予算は問題ないし購入することにした。仕事はちゃんとするようだし、見た目がいいのが気に入った。触れないにしてもメイド服を着せて眺めるくらいはできるだろう。


「ま、その値段でよかろう。おい、お前。名前は?」


「ル、ルフトナです」


「よしルフトナ。与える仕事は大きい屋敷の家事全般だ。さっきも言ったが広いからきつい。覚悟しておけよ?」


「よ、よろしくお願いします」


 もちろん買われることが決まっても、全然嬉しそうじゃない。今にも泣き出しそうだ。必要に迫られてやってみたが、金輪際こんなことはしたくないな。帰ったらやさしくしてやろう。


 すでに奴隷を購入したことがあるのは知らせてあるので、説明などは大幅に省略。もし上手くやっていけそうにないなら買い戻しをするのも、サティの時に言われたのと同じである。

 ギルドカードを見せお金を支払い、身柄の譲渡となった。


「ではここに血を一滴」


 針を受け取り親指に。ルフトナの腕の奴隷紋に血を垂らす。ルフトナはすっかり諦めたような表情だ。夜の仕事はないなどと言った所で、これはただの口約束。さっきの行いを見ていれば信用など皆無だろう。俺も男性恐怖症が改善するならそのうち手を出せないだろうかと、ちょっとは考えたのが正直なところだ。


 加護は……つかないか。

 まあ当然だな。こんな嫌われた状態で加護がついたとしても、スキルなんか怖くて与えられない。

 とにかく嫌われる演技はこれで終了である。

 これを着てと用意してあった靴と服、下着や分厚いコートも含めて一式、出して与える。サティを買った時と違い真冬だし、きちんとした服が必要だ。少しでも好感度を戻すためのいい人キャンペーンでもある。


「俺は嫁がいるから君に手を出すつもりはないから安心していいし、家に男は俺だけだから嫁について仕事をすれば問題ないだろう」


「は、はい。ご主人さま」


「家は広いから大変だろうけど、まあぼちぼちやってくれたらいいから」


 俺の豹変に戸惑っているようだが、多少は安心したようだ。


 だが連れて帰ろうとして気がついた。行きはフライだったのだが、抱いて飛ぶのは無理そうだ。

 いきなりゲートを見せるのも怖いし歩けばいいか。2,3時間くらいだしな。

 町を出て馬車が通りすぎるのを見て、マツカゼを出して俺はフライでいいと気がついたが後の祭り。突然馬を調達してくるのも不自然だ。

 まあポツポツと話しながら歩くのも悪くない。ルフトナの事情も聞けたし多少なりとも好感度を取り戻せただろう。

 

 ルフトナはよくある、家が貧乏で売られたパターンだ。

 貧乏と一言で言ってもこの世界だと生死に関わるレベルである。家族揃って餓死するかどうかの瀬戸際で、止むに止まれず子供を売る。

 ルフトナの場合、家だけでなく同じ村に住む一族揃って仲良く共倒れしそうな勢いだった。農家が生業で不作だとそんなこともある。

 それで代表として売られてしまった。

 まあ売られるほうも必ずしも不幸になるとは限らない。奴隷を買えるくらい裕福な人間に貰われるから、少なくとも飢える心配はしないで済む。

 

「うちに来れば毎日お腹いっぱい食べられるよ」


 奴隷商では食事はきちんと貰えるものの、あまりいいものは食べさせてもらえないので、道中街道脇で休憩して餌付けもしてみることにした。常備してあるお弁当に果物だ。


「ご主人さまは魔法使いですか?」


 何もないところから現れたお弁当を見てルフトナは驚いたようだ。さっきも服とかをアイテムボックスから出したのだがその時は気が付かなかったらしい。


「うん。魔法使いで冒険者」


 ほら、とギルドカードを出して、離れて座っているルフトナに見えるように示す。なるべくなら離れていたいらしい。


「すごい、Bランク……」


 ルフトナの食事を眺めながら、我が家の事情も話す。一家全員冒険者で最近家を建てた。冒険者稼業もあるので家事が回らなくてうんうんかんぬん。

 ルフトナを見ているとサティを思い出すな。歳も境遇も似てるしサティなら仲良くできるだろう。


 そんなこんなで相変わらず1m以内には絶対に近寄ろうともしないのだが、普通に話してくれるくらいにはなった。

 そして歩くことしばし、村予定地に到着である。

 途中ショートカットのため森を突っ切ったりそこそこ強行軍だったのだが、速度を落とさなくてもちゃんとついてくるあたり体力があるのは本当なようだ。村が稼働し始めたらミヤガ方面への道を作る計画なのだが、今のところメイン街道と村を繋げて人目を引くのも嬉しくない。

 

「ここ……ですか?」


 疑問符が付くのも無理はない。今はまだ午前中で作業のエルフさんも来ていない。

 壁は真っ先に作ったのだが、門番はもちろん中にも人っ子ひとりいないゴーストタウンである。伐採もまだ途中。作りかけの建物がいくつか。

 村人には農地のほうの伐採をやってもらってる。農地のほうが面積が広いし、春までに確実に開拓を終わらせないと作物が作れない。

 毎日見ていると気がつかないが、客観的に見ればちょっとしたホラーの舞台だろうか? 夜に怖いのは間違いないのだが。


「新しい村でね。建設中なんだ。今は無人だけど昼くらいから作業が始まるんだよ」


「はあ」


「あれが俺の家」


 村の大通りを歩いているうちに見えてきた、丘の上の屋敷と塔を指さす。


「ご主人さまは領主さまのご一族の方ですか?」


「俺が当主だよ。まあ見ての通り開拓し始めたばかりの村で、領民もいないし領主なんて名乗れたもんじゃないけどね」 


 村を抜け門の通用口から入り、家への階段を登る。

 

「おかえりなさい、マサル様!」


 登り切る前にサティが迎えに出てきてくれた。サティに遅れてリリアが走ってきて飛びついてきた。


「遅かったのじゃ!」


 首にかじりついてそう言う。リリアはアレ以来、何かとベタベタするようになった。いい傾向である。


「うん、歩いて帰ってきたんだ。あとで説明するよ。ほら、この娘が新しいメイドさん。名前はルフトナ」


「ほほう。嫁候補にはせんかったのか?」


 リリアがルフトナを見ながら小声でささやく。


「ダメダメ。それも後で説明するよ。寒いし中に入ろう」


「おおそうじゃな。ルフトナとやら、我が家へようこそ。さっ、遠慮せずに入ると良いぞ」


「エルフ!?」


 その後も驚きの連続だったようだ。豪華な屋敷。紹介されたエルフを含む5人の嫁。ティトスパトスは……改めて考えるとどういう位置づけなんだろう? なんとなく居着いて色々と働いてくれてるのだが。


「私はティトスで、こちらがパトス。リリア様個人の付き人ですが、家の中のことも手伝っております」


 おお、そうだったのか。率先して仕事を手伝ってくれてるけど、変わらずリリア個人の付き人ってことなのね。

 ちなみにティトスパトスは今は呼び捨てである。結構な年上のはずだが、主君リリアが呼び捨てて、自分らがさん付けはないだろうと。


 こうして新しいメイド、ルフトナちゃんを我が家に迎えたわけだが、この後は完全に俺の手から離れることになる。

 第一印象の最悪さは簡単には払拭できなかったらしく俺のことはひどく苦手なままのようで、アンからはなるべく接触は控えるようにと通達された。

 アフターフォローは女の子たちでやってくれるという。なんで買う時あんなことやったんだって、加護の話抜きでは上手い言い訳もなかなかできないし、俺が出向くよりいいだろう。

 屋敷は広いから避けようと思えば滅多に出会うこともないし、俺のほうは探知でいくらでも回避もできる。ちゃんと働いててくれればそれで文句はないから、無用な負担をかける気はない。

 たまに遠くから見かけるくらいで、ルフトナちゃんは俺の見えないところで毎日元気に働いているという話だ。

 ただ一つ、俺選定によるメイド服姿を滅多に拝めないことだけが残念である。



 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■



 ルフトナを迎えた翌日の夕方。エリーのゲートでこっそりシオリイの町に戻った。こちらにも加護が付きそうな人材が2名ほどいるので一度確認する必要がある。

 ウィルに加護がついてたらどうしようかと思ったが、俺が地下室に帰還した時は在宅で、メニューが開かないところをみると加護は付いてないようだ。まあ付き合い自体は短いしな。

 というかまだ庭で犬小屋生活してんのか。というか無事に生きてることを喜ぶべきか。

 とりあえずやつは無視でいいだろう。見つかると色々面倒くさそうだし。


 エリーには先に帰ってもらってこっそりと家から抜け出す。司祭様はこの時間はまだ神殿にいるはずだ。

 本当なら軍曹殿にも会って最近の話を聞いてもらいたいところだが、教えた時の軍曹殿の反応が読めない。判断がつかない。味方になってくれれば心強いと思うが当分は保留だな。

 すでにこれだけ沢山に知られているのに軍曹殿に黙ってるってのが気になるのだが。


 夕闇が迫る中、フードで顔を隠し気配を薄くしておけば、知り合いがいてもまず気が付かないだろう。神殿の中はさすがに知り合いだらけだから外で気配を殺して待つ。アンに聞いた勤務パターンが変わってなければ、そのうち司祭様が出てくるはずだ。


「司祭様、お久しぶりです」


 すっかり暗くなった頃、仕事を終えて出てきた司祭様に声をかける。これ、まるでストーカーみたいだな。


「お、おお! マサル殿!」


「あ、今日はこっそりこっちに来てるのでお静かに」


 内密で話があると言うと、近くの個室のある食堂に案内してくれた。


「アンジェラは元気にやっておりますか?」


「ええ、もちろんです。そのことも含めて近況報告がてら、ちょっと話は長くなるんですが、まずは――」


 最初のクエストは無事終わったこと。このクエストに関してはアンが教えていた。

 向こうに着いて一時的に住むための家を森の中に建てたこと。

 そしてエルフの里の戦い。


「その話は聞き及んでおります。ですがその日のうちに戦いは終わったとか」


 転移での情報伝達があるので、ニュースが伝わるのは割合早い。


「戦いは本当にぎりぎりだったんです。エルフの里の救援をせよというクエストが出まして――」


 陸王亀。陥落しそうなエルフの里。厳しい戦い。そして最後は救援の冒険者の急襲で魔物が撤退。

 その後、領主にならないかという話が出て、今はそのための開拓を進めていること。


「おお、それは素晴らしいお話ですね」


「ここまでは近況報告で、今からする話に司祭様のご意見が聞きたいと思いまして、今日は来たんです」


 リリアの加護。新しいメイドさんに加護がつかなかったこと。ウィルと司祭様に加護が付いてないかの確認。


「なるほど、加護の条件ですか……」


「はい。それでどうすれば加護持ちを増やせるだろうかと」


 正直、奴隷がダメなら手詰まりである。空から落ちてきたり、タイミングよく盗賊に襲われている妙齢の女性などそうそういないのだ。魔物に襲われているのを助けてみればウィルみたいな冒険者だし。


「奴隷を買うのは間違ってないと思います。奴隷化と親愛度は密接な関係があると思うんですよ」


「つまり意地悪しないで普通に買えば、加護がつくと?」


「そこまで簡単でもないとは思いますが……奴隷化というのはその奴隷が主人に好意を持った状態であれば、結婚と非常に近しい心理状態だと思うのです」


 一生この人に尽くすという心理状態。ある種の依存。確かにサティは奴隷だった時も今も態度は変わってない。


「そうだとすれば私には加護は無理でしょうね。私の心の忠誠は神と神殿、そして妻に向いております。どれほどマサル殿に敬意をもっても、それだけに依存することはできそうもありません」


「恋愛感情が重要だとすれば、男には加護が無理だと?」


「ハードルは高くなるでしょうが、私のようにしがらみが多くなくて、ウィル君のように大きな恩など受ければあるいは」


 やっぱりウィルは条件に合うのか……


 女性なら恋愛状態から肉体関係を結んでしまえば手っ取り早い。男性なら相当に恩や敬意がなければ難しいだろう。

 そして両性どちらにせよ若いほうがいい。余計なしがらみがないから。

 たとえば孤児院の子供をじっくりと可愛がってみれば加護が付くかもしれない。

 うん、まるで洗脳するみたいだな。それならここはいっそ新興宗教でも起こして……いや、使徒だってぶちまければいいのか。そして俺個人に信仰を集める。神託と俺の持つ絶大な力、それに加護の実例は大変な説得力があるだろう。

 エルフの時は功績を俺たち全員の手柄として分散した。もし俺がもっと目立つように行動していたら、リリア以外のエルフの誰かにも加護が生じただろうか? 今更後の祭であるが。

 まあこの案はにっちもさっちもいかなかった時の最終手段だな。


「ありがとうございます、司祭様。色々と考えがまとまりました」


「マサル殿のお役に立てたようなら幸いです」


 どうにかして俺に惚れる女性を捕まえる。

 サティのように好意を持ってくれそうな奴隷を見つけて買う。

 小さい頃から俺を尊敬するように仕込む。

 ウィル。

 使徒だとおおっぴらに宣伝する。


 加護持ちを増やす案はこの5つくらいか。中でもやはり奴隷が手っ取り早い。

 そしてウィルも。忘れかけてた矢先に存在感を増す。なんて面倒なやつなんだ。


 ちなみにイナゴの時に差し出された女性も条件に合うんじゃないかと戻ってからみんなに聞いてみたんだが、何か下心でもあったのか覚悟がなかったのか。真偽官のティリカを見るとあっさり退散してしまったそうである。まああれは直接助けたわけじゃないからね。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] ジーナさん(目を治した鍛冶屋の娘さん)なら条件クリアしてる気がする。
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