117話 家族会議
屋敷の方はそのまま進めてもらうとして、外回りも考える必要がある。門や庭、屋敷への通路なんかも、ちゃんとしたお屋敷を目指すなら作らないといけない。
門も入り口も何もない、飛ぶかゲートで移動するから問題ないよねってわけにもいかないのである。
エルフさんたちは明日も昼からの出勤で、俺がそれまでに道や門の基礎をあらかじめ作っておくことになった。魔力の消費がきつい部分を俺がやっておけば後の工程が捗る。昼出勤なのは魔力の回復待ちだ。
ちなみにこの親方、見た目は20代にしか見えなく、制服でも着せたら女子高校生で通りそうな外見なのに、御年120歳だそうである。
これでも親方衆の中では若手の方なそうなのだが、この仕事100年はやってますので腕は確かです!って言われてしまった。
冗談か本気かよくわからない。
親方エルフさんと門構えの相談をしていると、お昼ごはんが出来たとサティが呼びに来た。すでにおやつの時間くらいになってしまっていたが、みんなも屋敷作りの見学をしていたので結構遅くなってしまった。
必要な相談はだいたいまとまってたので、また後ほどと食事に向かう。
サティと一緒にちゃんと一階から塔に入る。やっぱり入り口は下にあったほうが、至極当然のことであるのだが楽でいい。
「お腹も空いたことだし、まずは食べようか」
「今日の糧を与え給うた神に感謝致します。いただきます」
「「いただきます」」
俺が席につくと、アンの簡単な食前の祈りを合図に食事を始めた。
本日のメニューはドラゴンステーキにオークのカツ、野ウサギの唐揚げ、具だくさんのスープにサラダにパン。唐揚げにタルタルソース、サラダにはマヨネーズ。どれも山盛りで部屋中に揚げ物のいい匂いが充満していた。
時間も遅かったし弁当か簡単なもので済ませてもよかったのだが、今日はリリ様を歓迎するため、あえて定番メニューだ。
「それはオーク肉のカツ。そのまま食べるかそこのソースを付けて。これは野ウサギの唐揚げで――」
アンの説明を受け、食べ始めたみんなに倣ってリリ様も目の前の料理に手を伸ばしぱくついている。戦場でも一度提供して普通に食べていたが、特に好き嫌いもないようで、美味しそうに食べている。
ここまで見た感じエルフもエルフの王族も、調味料や調理法に多少レパートリーがある程度で食べるものはそう違いはないようだし、食事のマナーに関してもあまりうるさくはないみたいだ。
あとで聞いた話によると、食料の一部は輸入に頼っており、エルフの食生活も俺たちとそう違いはないようだ。むしろ砦のほうが色々種類があって、たまに買い食いに出てくるとのこと。
我が家の食卓はちょっと変わってるので、今後のことを考えると気に入ってもらって本当によかった。食生活が合わないとなると面倒が増える。
「食べながらだけど、改めて我が家に歓迎するよ、リリアーネ様」
食卓が落ち着いたのを見計らって話を切り出した。
「うむ、ありがとう」
「それでいつまでも敬語と様付けもアレなんで、ここらで切り替えていこうと思うんだけど……」
このままお姫様扱いもそれはそれで悪くないんだが、冒険に出て共に戦うことを考えるともっと気軽に話し合えるようになっておいたほうがいいだろう。
「それは妾も気になっておった。此度は修行も兼ねておるのじゃ。もっと砕けた感じで良い」
「そうね。リリアーネ、それかリリって呼んだほうがいいのかな?」
「リリアとかどうかしら?」
「それいいな。リリア、リリア」
エリーの出した案がなかなかにかわいい響きだ。それに普段呼ばれているリリという略称とも多少なりとも違っているのは都合がいい。
「うむ、それでよい。気安くリリアと呼んで、なんでも言い付けて欲しい」
「まあうちはみんな平等で、助け合う感じでやっていってるんだ。得意不得意があるから、できることから少しずつやっていけばいいよ」
「正直、そなたらに比べ妾の力は劣っておる。どれほどの力になれるかわからんが……」
家事的な意味も含まれてるんだが、リリ様はそっち方面はまったく考えてなさそうだ。まあそこら辺の分担や仕込みはアンが考えるだろう。
「じゃあリリ様……リリアのスキルどうするか考えないとな」
俺の担当はこっちである。
「それはちょっと気が早いんじゃないかしら?」
「レベル8で40ポイントあるからとりあえずいくつか振っちゃってもいいと思うが」
「え?」
エリーを含めみんながびっくりした顔をしている。
「あれ? リリアに加護が付いたの言って……なかったっけ……?」
「聞いてないわよ!」
指輪を渡した時に加護がついて、そのあとすぐ会食になって……後でゆっくり話そうと思ってたら、パーティとかも始まって……そのまま寝て……
「言うのすっかり忘れてた!?」
「言い忘れるとか、どういうことなのかしら」
「ほんとよ……すごく大事なことなのに」
「ほら、魔力の指輪をリリアに渡しただろ。あの時に加護がついたんだよ。そのあとは王様との食事会とかパーティでバタバタしてて……申し訳ない」
加護の詳細に関しては王様たちもあまり突っ込んで聞いて来なかったから、説明をほとんどしてなかった。たぶん秘密にしろしろうるさかったんで気を使ったんだろう。
「なるほど、あの時ね」
「マサル様のプロポーズ、カッコ良かったです!」
思い返すとかなり恥ずかしいが、確かに効果はあったし、サティには好評だったようだ。まあサティはだいたいいつも俺を褒めてくれるんだが。
「妾にも加護が? 何にも変わってる気はせんが」
「まずは加護のことを説明しておこうか。スキルというのがあって――」
食事をしながらみんなで、代わる代わるスキルシステムについて解説していくのを、リリ様改めリリアは食べるのも忘れて聞き入り質問をしていく。
「なんとまあ」
解説も質問も終わり、プリンが供された頃、ノートにメモされている俺のスキルリストを見てリリアがそう呟いた。
山野マサル ヒューマン 魔法剣士
【称号】エルフの里を救いし英雄
旅の仮面神官
ドラゴンスレイヤー
野ウサギハンター
野ウサギと死闘を繰り広げた男
ギルドランクB
レベル43
HP 1582/1582 [452+1130(肉体強化+250%)]
MP 13475/13475 [3850+9625(魔力増強+250%)]
力 343 [98+245(肉体強化+250%)]
体力 332 [95+237(肉体強化+250%)]
敏捷 248 [71+177(敏捷増加+250%)]
器用 346 [99+247(器用増加+250%)]
魔力 253
スキル 0P
スキルリセット ラズグラドワールド標準語 時計
体力回復強化 根性 鷹の目 暗視 頑丈
肉体強化Lv5 敏捷増加Lv5 器用増加Lv5 料理Lv2
隠密Lv5 忍び足Lv5 気配察知Lv5 心眼
盾Lv5 回避Lv5 格闘術Lv3
弓術Lv5 投擲術Lv2 剣術Lv5
魔力感知Lv5 高速詠唱Lv5 魔力増強Lv5 MP回復力アップLv5
MP消費量減少Lv5 コモン魔法 生活魔法
回復魔法Lv5 空間魔法Lv4 召喚魔法Lv4
火魔法Lv5 水魔法Lv3 風魔法Lv3 土魔法Lv5
リリアーネ・ドーラ・ベティコート エルフ 精霊魔法使い
【称号】精霊の祝福を受けしエルフの姫君
ギルドランクE
レベル8
HP 11
MP 412 [206+206(魔力の指輪+100%)]
力 3
体力 4
敏捷 5
器用 11
魔力 41
スキル 40P
魔力感知Lv2
精霊魔法Lv2 風魔法Lv4
リリアのもメニュー見ながら書き写していく。ちなみにリリアの忠誠値は51。忠誠値は非公開だ。愛情に差があるのを見せるのは色々と問題がある。
その数値を俺のと比べればその差は一目瞭然。
エリート街道を歩んで来たであろうリリアーネ様には、この格差はショッキングかもしれない。
「妾の30倍の魔力量……ずば抜けておるとは思っておったが……」
魔力の指輪でリリアの魔力は倍になってるから実質六〇倍か。
リリアも防衛戦で後半は戦っていたはずだが、案外レベルが低い。加護の有り無しでの効率差か、討伐数の差か。ギルドカードもなしで討伐数がわからないし、どの程度変わってくるのか確かめる方法はないのだが。
それでも初期の俺どころかエリーやアンよりも優秀なMP量に魔力値ではある。鍛え上げればさぞかし強力な魔法使いになるだろう。
うん、またしても後衛である。
やはり前衛メンバーのスカウトも考えないとダメだろうな。
「こんな……これほどの……」
「あー、リリアさん?」
「これが妾の旦那か! なんと素晴らしい力じゃ!」
リリアのメニューを開いていたのだが、いきなり忠誠が4も上がった。
本当に嬉しいらしい。
まあ凹んだわけじゃなくて大変結構だ。
「加護というのはこれ程の力をもたらすのか!」
「さっきも説明したと思うけど、全部神様にもらった力で元の俺自身はぜんぜん弱いんだけどね」
そこら辺は強調しとかないと多少尊敬されるくらいならいいが、家でまで英雄扱いされても困る。等身大の俺を見て欲しい。
「何を言っておる。そんなことを言えばそもそも精霊も神が下されたものであるし、遡れば魔法も、それどころかこの世界そのものですら神の作りたもうたものじゃ」
「わたしの魔眼もそう」
「別にただ座っていて加護が手に入ったわけではあるまい?」
「んー、まあそうだな。運が悪ければどこで死んでもおかしくなかった」
思い返せば野ウサギに始まって、大イノシシにドラゴンにハーピーにオークキング。そして今回のエルフの里の戦い。生命の危機は何度もあった。
軍曹殿の修行もきつかった。
なるべく危険は回避しようとしてるはずなのに、こっちに来てからわずか半年足らずで、死にそうになったのが6回。ほぼ毎月である。酷いものだ。
「そうじゃろう。大事なのはその力で何を為すかということじゃ」
俺はなるべくなら自分の安全と幸福のためだけに活用したいと思ってるので、何を為すかと言われればとても辛いんだが。
「ま、まあそれは置いといて、リリアのスキルはどうしようか」
「うむ。精霊魔法は上げるとして、あとは……魔力値の横の数値はどういう意味じゃ?」
「ああ、魔力量は魔力の指輪で二倍になってるんだよ」
%記号はこちらでは馴染みがないらしい。
「二倍……?」
「指輪のことも当然説明してないのよね?」
「昨日今日と忙しかったから仕方ないじゃないか……」
面倒なことは後回しにしようとしてたのは認めよう。アウェイの地からなるべく早く撤退したかった。
「魔力量は元の数値が206で魔力の指輪で倍になってるってことだよ」
「これか! この指輪」
「魔力の指輪。魔力量と魔力の回復速度を倍にする効果。クエストのご褒美に貰ったんだ」
「神様に直接授かった本物の神器よ。すごいでしょう!」
何故かエリーが誇らしげである。エリーがリリアに見せている野うさぎ産の指輪、元は俺ので貸すだけだって言ったのも、もうなかったことになってんだろうなあ。俺も今更返せとか言わないけどさ。
「神器……そうか。エルフの至宝が必要ないわけじゃ」
「一応つけて確認してみたんだけど、指輪と効果が重複しないみたいで」
「ふむ。じゃがこの指輪、妾が取ってしまったから後で腕輪も貰ってこようかの? 魔力は多いほうがよいじゃろう?」
それもそうだな。腕輪の50%増加があればメテオの数発分にはなる。
まあ指輪のことはいいとして、スキルである。急ぐ必要はないが、考えておいてもらわないと。落ち着いたらなるべく早く狩りにでたいし。
「やはり盾役は必要じゃ。妾がやろう」
「いやまあ、そういう話だったけど、本当にやるの? このスキルとステータスなら素直に後衛にまわったほうがいいと思うんだけど」
「精霊魔法は防御が得意であるし、防御に回ったとて攻撃力が減じるわけでもない。攻防一体なのが精霊魔法使いの最大の強みなのじゃ」
確かに同時に魔法が使えるのは便利だろう。防御魔法を使いつつ、攻撃魔法。フライを使いつつ、攻撃魔法。単純に二倍とはいえない戦闘力の強化になる。
それでもサティに防御を抜かれたように、防御力には不安が残る。
「見てもわかる通り、妾の精霊魔法はレベル2じゃ。まだまだ未熟、伸び代はある」
それでまずは精霊魔法のレベルを上げてみて再度サティと対決してみることになった。
食事の後片付けをして、居間に移動する。
「神に祈ろう。この者リリアに我が持つ加護の一端を分け与えんことを。望みしは精霊の力――さあリリア、目を閉じて――」
俺の前に跪いたリリアの頭の上にそっと手を乗せ、メニューを操作した。
「代償を支払い、今ここにリリアの精霊の力を強化せん」
「お、おお……わかる、わかるぞ! 精霊の力が漲っておる!」
こんなことをしているのにも、ちゃんとした訳がある。忠誠値アップのためだ。儀式っぽく演出することで、簡単操作のスキル取得にもありがたみが増そうというもの。
案の定、忠誠がまた3ポイントも上昇した。素晴らしい効果だ。
「「おめでとう! おめでとう!」」
その後はみんなで祝福である。
「おお、ありがとう!」
こうやって仲間との絆も深めることもできる。実に効率がいい。
まあ毎回こんなことをして上げるのも面倒くさいが、最初くらいはいいだろう。
「秘密にしたがる訳じゃ。このような力が明るみにでれば……どれほどの騒ぎになるのか」
わかっていただけて嬉しい。
「しかしじゃ。なぜもっと人を増やさん? 秘密保持のためか?」
「ほいほい増やせるなら楽なんだけどね。加護を与えるにも条件があるんだ」
奴隷に関しては保留だ。よくよく考えればサティが俺の奴隷になった瞬間加護がついたからって、奴隷化が加護の条件と考えるのは早計だった。テストが必要だ。
「愛よ。マサルを心から愛してないと加護は授からないの」
と、アン。そうストレートに言われると恥ずかしい。
「うん、まあ、俺に対しての信頼っていうか親愛度っていうか、そういうのが一定以上じゃないと加護が付かないんだよ」
「それであの時……確かに妾はあの時あの瞬間、マサルに心からの忠誠を誓った。それまでもかなりの好意があったはずじゃがそれでは足らんかったということか……恐らく人生を、命を預けるに足るほどの信頼が必要なのじゃな」
サティは俺のモノになった瞬間、とても嬉しかったという。
みんなの加護がついたのは初めての後だった。
「そうよ。わたしたちはみんな自らマサルを選んだからこそ、ここにいるの。逆じゃないのよ?」
サティには選択権はなかったが、それでも最初から信頼を、好意を示してくれた。
「これほどの力の持ち主となればいくらでも……いや、違うのか。スキルで能力を伸ばした。元は普通の人間……」
「そうそう。最初に会った頃はちょっと優秀なくらいのどこにでもいるレベルのメイジだったわね」
出会った頃はエリーと同格くらいだったのかな。
「えー? わたしはかなり優秀だと思ったけど。回復魔法は二日で覚えたし、水も風もすぐに習得したじゃない」
「マサル様は最初からすごかったですよ」
「野うさぎに……」
ティリカ、それはいけない。
「いつまでもこうやってても話が進まないし! 精霊魔法がどれくらい強くなったのか調べてみよう」
そしてかなり広いスペースがある屋上の茶室に移動してのテストの結果、サティの剣を見事に防いで見せた。
「どうじゃ!」
「かなり堅くなってます。風の盾を抜くのは難しいと思います」
「そうじゃろう……って難しい!?」
「はい。盾を切り裂いたあと、修復するのにタイムラグがあるので、連続で攻撃すれば……」
「例えば俺たちみんなで一斉に魔法を撃てば、盾は消える?」
「耐え切れないと思います」
十分に強くなったがそれでもまだ不安があるな。広範囲に展開できる風の精霊の盾は優秀だが、風な分、どうしても強度が足りない。
「むう……では鎧を着て大きな盾を持てばどうじゃ?」
それならなんとかなるか? 盾が修復するまでの短い時間耐えられればいいし。
体力にも不安があるが、肉体強化を取ってレベルを上げれば重くてふらつくこともなくなるだろう。冒険者をする上で肉体強化は無駄にはならないだろうし。
完璧ではないにせよ、盾役は十分にこなせるし、うちのパーティに必要なのも確かだ。本人の希望でもある。
暫定で盾役をやってもらうことがとりあえず決まった。
これで本日予定していたお仕事は、大工エルフさんたちを里に送り届けて終了。あとは夜のお楽しみタイムである。
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