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ニートだけどハロワにいったら異世界につれてかれた【書籍12巻、コミック12巻まで発売中】  作者: 桂かすが
第六章

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109話 英雄譚の始まり

 静まり返ったホールの中。すべてのエルフが跪くことで、何一つ視界を遮るものもなくなり、突っ立ったままの俺たちに完全に視線が集中している。

 エルフたちが跪くのはわかる。里を救ったことにはそれだけの価値があるのだろう。

 だけど王様まで跪いて頭を下げるのはやり過ぎじゃないだろうか。イメージとしては俺たちが跪いて、王様によくやったって言われるほうだったんだが。

 あ……これ俺たちが何か言うの? みんな跪いたまま何かを待ち、立ち上がる様子もない。

 というか俺たちじゃなくて、俺なのか。この状況で俺に何か言えっていうの!?

 エリーが俺を見る。俺は首を振る。

 

「無理。頼む。もう加護のことはバレたからしょうがない」

 

 俺の小声の訴えでエリーは軽く深呼吸し、エルフが注視する中、話し始めた。


「皆様の感謝、しかと受け取りました。王と、そしてエルフの皆様お立ちくださいませ」


 エリーさんはこういう時にほんとに頼りになる!

 エリーの言葉で王やエルフたちが立ち上がる。リリ様は普通に立ったままだったな。


「ただ、一つだけは言っておかねばならないことがあります。我々は精霊の言葉の通り、神の加護は受けておりますが勇者ではないのです」


「なんと! 勇者ではないとすれば一体?」


 王様の言葉にエリーがちょっと詰まった。おい、しっかりしろ! まだ俺が勇者になることに未練があるのか!?


「勇者とは魔王を討つべく神に遣わされし者。長き歴史の中、英雄と呼ばれし者は数多あれど、勇者は唯一人のみ。未だ魔王の存在は示唆されてはいないし、我らの役目は別にある」


 すぐにティリカが引き継ぎ、冷静に告げた。


「その役目とは?」


 なんだろうか?


「それはこの場で語るべきことではない。皆も! 我らが神の加護を受けていることは誰にも言わないように。我らの役目に支障が出る」


 いいよー、いいよー。ティリカさんもその調子だ。

 加護だけは認めたが勇者ではないと断言。さらに口止めもした。

 口止めに関してはこれだけの人に知られたのだ。もうなるようにしかならないだろう。


「我々が里を救ったのも神の思し召しでしょう。神に感謝の祈りを捧げましょう」


 アンがそう締めくくり祈ると、エルフたちもその場で手を組み祈りを捧げた。

 これで終わりかな? なんとか乗り切れたような気がするが……


「そなたたちのために色々な謝礼の品が用意してあるのだが」


「それならばすでに見てもらっております、父上」


 王様とリリ様の言葉を受けて、エリーがエルフに貰った品へのお礼を、時間がなくて一部しか見れなかったのですがと前置きをしつつ、個別の品をあげて述べていく。

 先ほど念入りにチェックをしたのも無駄ではなかったようだ。好意的に解釈するならこうなるのも見越していたのかもしれない。

  

「その他の物や提案に関しては、必要ないと」


「ふうむ。皆が持ち寄った品に満足してもらったのは良いが、それだけというのも……」


 高級品ばかりで量も多く価値としては大した物だが、それもエルフ各人が持ち寄った手作り品がほとんどだ。

 それ以外の品が、結果として王家が提案した報酬ばかりだったのには他意はないのだが、さすがに頭を下げて終わりというわけにもいかないのだろう。


「我らエルフが貴方がた英雄に報いるにはどうすれば良いのだろうか?」


 リリ様が先ほども申し出たように、望みのものがあれば何でも言うといいってことなんだろうが、貰うもんはもう貰ってある。あとは開拓支援の話くらいだが、それはここでやるのには相応しくないだろう。

 俺が必要ない、そう言おうとした機先を制しリリ様が前に進み出た。


「ならば妾が! 彼らのパーティに入り、その役目とやらのために力を貸そうぞ!」


「おお、リリ様が!」

「エルフでも屈指の風の精霊魔法の使い手のリリ様ならば!」

「ついにリリ様が働く気に!」


「あ、そういうのはいいです。パーティメンバーは間に合ってるので」


 この場面で俺に注目が集まるのは好ましくはないが、ここできっぱりと断っておかないと後々面倒だ。とりあえずは眼前のリリ様だけを相手にしておけば、周りの目は無視できて割合平気である。


「なんと! リリ様があっさり断られたぞ」

「ああ! リリ様が泣きそうだ!」

「おいたわしや、リリ様!」


「な、何故じゃ。そなたらには敵わんが、妾も魔法には自信がある。きっと役に立つぞ!?」


 そういう問題ではないのだ。役に立つだけでいいなら、適当に拾ってきた子に加護を付けたほうが早い。

 エルフの王女が冒険者になるなど、戦力以前に面倒事にしかならない。どう考えてもデメリットのほうが多い。


「ええとですね。我らの役目はそれはもう危険なのです。それにリリ様が自分で言ったように、リリ様では力が足りません」


「じゃ、じゃが……」


「リリ様、報酬はもう十分に頂いております。それで十分です」


 たくさんのエルフの前であっさり断られ涙目のリリ様はかわいそうだが、こんなところで持ち出すほうが悪いのだ。


「贈り物に満足してもらったようだが、我らの感謝はそれだけでは到底表せないほどだ。里にいるすべてのエルフは、その数百年に及ぶ長き生涯に渡って、窮地に陥った時、そなたらが救いに現れてくれたことを記憶に留めることだろう。今後どのようなことがあろうとも、そなたたちは我らの恩人であり、友であるのを忘れないでほしい」


 こんなことは絶対に口に出せるような雰囲気ではないが、正直さっさと忘れてくれたほうが都合がいいのに。ほんとにこれってどうしたもんか……


「王よ、ありがとうございます。エルフの友誼、しかと心に留めましょう」


 そんな俺の思いをよそに、王の言葉を受けてエリーがちゃんと返答をしてくれる。


「あの、王様。くれぐれも我々のことはせめて外部には内密でお願いします。騒ぎになると色々とまずいんで」


 ティリカも言ったが、ここはもう一度念を押しておこうと思い俺も言っておくことにする。


「あいわかった。皆もよいな! この方たちのことは今後一切外部に漏らしてはならん!」


 その言葉を最後にして、やっと祝勝会は終わるのだろうか。こちらへと、元気のなくなったリリ様に変わってティトスさんに玉座の方へと誘導される。玉座の裏手に部屋があって、この後はそちらで王様とお話をということのようだ。


 だがそのまま退場とはならずに、玉座のある数段高い位置へと連れて行かれ、ホールにぎっしりのエルフたちと向き合う形で並ばされた。王様たちエルフは脇のほうに控えている。

 舞台とかの終わりにあるカーテンコールみたいなアレか。何か挨拶しろってことだろうか。

 まあ戦勝を祝うための集まりだ。一番の功労者が挨拶もなしにそのまま退場していいはずもない。二度しか会ったことのない王様が、俺がこんなシチュエーションを嫌ってるなどと知るはずもないし。

 というか何から何まで急なんだよ。もっと事前に段取りを説明なりしてほしかったが、たぶん一週間も顔を出さなかった俺が悪いんだろうな……


 エリーの後ろにでも隠れていたいが、俺をど真ん中に左手にエリーとアン、右手にサティとティリカの配置である。

 エリーは注目を浴び誇らしげで、アンは平然としている。サティはちょっと緊張している様子だが、ティリカはいつもどおりの表情だ。

 壇上で聞こえないがエルフたちがこっちを見て何か言ってるようだ。

 こうやって俺たちの功績を盛大に讃えようというのだろうが、俺からしたら見世物と変わらない気がするのだ。嬉しくない。ほんとに逃げればよかった。


「サティ、みんながなんて言ってるか聞こえる?」


「はい、マサル様のことが多いです。陸王亀を倒したこととか、メテオを何発も撃ったのとか。あと最後のドラゴンを剣一本で倒したこととか……わたしのことも少し……エリザベス様の風魔法のこととか、ティリカちゃんの召喚の話も」


 聴覚探知も便利だな。俺も次に取ってみようか。

 サティと話してるうちに王様の演説が始まった。俺たちの戦果を臨場感たっぷりにかなり詳細に述べていく。リリ様に雇われてエルフの里に降り立ち、王様との短い謁見。そのあとの陸王亀討伐から始まって、ずいぶん正確に把握されているようだ。

 まあ別に隠してたわけじゃないし、リリ様もずっと一緒にいたしな。ゲートや奇跡の光に関しては約束通り伏せてくれている。

 こうして聞いてみるとエルフの防衛線は各方面で本当にぎりぎりだったようだ。陸王亀を自力で排除できたとしても遠からず落ちていた可能性が高い。

 そこへリリ様に率いられて颯爽と現れ、大規模範囲魔法で魔物を駆逐していった神の加護を受けし英雄。

 改めてエルフ側からの視点からみると俺たち本当に大活躍だったな。


「城壁を突破したオークキングを含む軍団をたった一人で殲滅してのけ――」


 そんなこともあったな。倒したと思ったオークキングが出てきた時は結構びびらされた。


「魔力が切れたあとも弓を持ち、その弓が壊れてもエルフの弓に持ち替え戦線を支え――」


 そういえば矢の補充もしないと。それに安物の弓がぶっ壊れた時にエルフに借りた弓も持ち主がいたら返したほうがいいかな。


「伝説の召喚魔法によりドラゴンを呼び出し――」


 どらごはあっさり倒されちゃったな。あれから呼び出してないけどもう大丈夫だろうか。今度呼び出して運用ミスって倒されたことを謝っておこう。


「リリが言った。精霊を暴走させ身をもって大型土竜の突進を止めると。そこにマサル殿が、剣一本で城壁の下に降り立ち――」


 あれは結構がんばったな。一番やばかった場面だ。そのあと堀に落ちて風邪引いちゃうし。


「その時の折れし剣が――」


 ドラゴンを倒した時に折れて堀に落っことした剣をわざわざ回収してきてくれたらしい。脇から出てきたエルフが捧げ持ってきてくれたのを受け取ったが、これをどうしろっていうのだろう。記念品ってところか?

 五〇万円ほどした結構いい剣だったが、魔法剣にしたせいでボロボロで根元付近でぽっきりと折れている。

 修理などもう出来そうもないが、まあドラゴンと相打ちなら武器としても本望だろう。


「そうして彼らは報酬はいらぬ、自らで倒したドラゴンを持ち帰ればそれで十分だと言い残し――」


 ようやく王様の話が終わった。固唾を飲んで王様の話に引き込まれていたエルフが我にかえると拍手が始まり、ホールは歓声と万雷の拍手に包まれた。感動したのか涙を流しているエルフもたくさんいた。

 こうして聞いてみるとちょっとした英雄譚みたいに聞こえないこともないな。


「最後にもう一度、エルフすべての最大の感謝を捧げよう。それと彼らのことはくれぐれもエルフだけの秘密じゃ。皆の者、ゆめゆめエルフ以外に漏らすことはないように」


 ようやく拍手も収まり、王様がそう締めて今度こそ式典は終わった。




 俺は疲労困憊だったのだがそのまま解散、帰宅とはもちろんいかずに王様たちとの面談である。ホールの奥にある個室に通され、大きなテーブルを囲む。

 メンバーは王に王妃。リリ様に、席についたあとの二人はリリ様の兄弟だろう。

 ティトスさんや、王様側のお付のエルフたちは壁際に立って待機している。


「戦場での話を聞いて只者ではないと思ったが、まさか神の加護を受けておるとはな」


 それだよ。みんな精霊の言葉をかけらを疑ってもないようだが、精霊ってそもそもなんだろうな。

 どっから俺たちのことが漏れた? 最初に王に会った時から王の精霊が加護のことを言っていたが。


「精霊とは神がエルフに下された恩寵なのだ」


 王の説明によると、遠い過去にこの地に下り立ったエルフのご先祖様は魔力には秀でてはいるものの、魔法の使用法は今ほど発達してはおらず、他の種族に比べて肉体的にも虚弱で、寿命が長いくらいしかとりえがなかった。

 それを哀れに思った神がエルフに精霊との絆を与えたのだという。

 精霊はそのままではどこにでもいるあやふやで微小な魔法的存在であるが、エルフとの絆を得ることで長い年月を経て成長し多少の知能も得る。

 精霊を伴侶としたエルフは精霊に守られ、精霊と一体となって生きる。

 だが一番肝心の情報漏洩に関しては彼らもよくわからないようだった。

 ただ長年の経験上、精霊が告げることに間違いはないと。


「妾が生まれた時も精霊が祝福に集まり、将来妾が何か事を成すだろうと告げたそうじゃ。今回の出会いこそがそうなのかと……」

  

 将来、世界の危機に何か役割を果たす可能性はあるな。今回、俺と縁が出来たわけだし。だけど神様からの指示はあれから特にないし、パーティにもいれるつもりもない。


「神の使徒であるという情報が問題になるというのはよくわかる。この件に関しては万全の緘口令を敷くから安心をしてほしい」


 精霊に関しては話すどころか、独自の行動を示すことは滅多にないし、精霊使いの意志や指示は汲んでくれるのでまず心配はないだろうとのことだ。

 精霊の問題が片付いたら次は実務関連である。しょんぼりしているリリ様は放っておいて、ティトスさんがテキパキと俺たちとのリリ様の会談の様子を、的確に要点を絞って伝えていく。とてもわかりやすい。


「持ち寄った贈り物は受け取って貰ったようだが、それでも働きには釣り合わぬように思えるな。リリの申し出たもろもろは本当にいらぬのだろうか?」


 大規模な開拓の支援。エルフの宝物である魔力の腕輪。エルフの里での居住地や使徒に相応しい地位や報酬。エルフのメイド部隊。ティトスさんも。

 一部は魅力的な報酬ではあるが、今更撤回するほど欲しいってわけでもないし、あの宝物庫の山だけでも莫大な価値だし、ギルドからの報酬も十分にある。

 

「やはりどれも必要はありません」


「ならば妾が!」


 まだ諦めてないのか。


「この前の戦いでは魔力がほとんどなかった故、見せられなんだが、妾の力はあんなものじゃないのじゃ! パーティに加えればきっと役に立つはずなのじゃ!」


「リリよ、我儘を言うでない。マサル殿も困っておられるではないか」


「ですが父上。妾も成人してそろそろ外の世界を知ってもいい、王都に修行に行けと何度も仰ってたではないですか。これはいい機会だと思うのです」


 リリ様成人してたのか……いや、そもそもエルフの年齢ってよくわからないんだが。目の前の王様にしても二〇〇歳は超えてるらしいが、二〇代にしか見えないし。


「珍しくリリがやる気を……ふうむ。マサル殿、どうですかな、お試しということで短期間でも?」


 そういえばリリ様何にも仕事とか役職はないって言ってたな。成人してるのに。もしかしてリリ様ニートか!?

 まあお姫様が仕事をしてなくても不都合はないのだろうが、ニートが珍しくやる気を出したのだ。

 王様はいい案かもしれないと思ったようだが、押し付けられても困る。

 他のみんなはどう思ってんだろうと見ると、このあたりの判断は俺任せなようだ。まあ加護のことも考えるとそうせざるを得ないんだろうが……


「いくつか問題があります。まずは先ほども言ったとおり、我らの役目はとても危険です。エルフの姫を危険に晒すわけにもいきません」


 今回の一連のクエストのことを思えば、今後も神様が無理難題を押し付けてくる可能性は大きい。

 シオリイの町に送り込んだのもゴルバス砦の戦闘に参加させるためだろうし、王都に行こうとしたところにナーニアさんを助けろなんていうクエストでこちらに誘導したのもエルフの里を救わせるためだろう。

 こんな状況下で足手まといとまでは言わないが、気を使ったり手間がかかったりするような人をパーティに入れる余裕などない。

 というか危険以前に普段からそんな気を使いたくない。なるべく気楽に、地味に生きたいのだ。


「危険は覚悟の上じゃ。マサルたちがおらねばこの前の戦いで死んでおったかもしれぬのじゃ。死は恐れぬ」


 そもそも俺らがいなかったら、里にとんぼ返りはできなかったように思うのだが。


「二つ目は、リリ様なら知っていると思いますが、うちは後衛ばかりです。もしパーティに誰かをいれるとしても必要なのは前衛。それも盾役なのですよ」

 

「妾が精霊使いなのを忘れておらぬか? 精霊魔法は守りに特化しておる。盾役ももちろんこなせるぞ?」


 リリ様がドヤ顔だ。


「では試してみましょうか。サティ」


「はい!」


 アイテムボックスからサティの剣を出して渡す。

 そして大テーブルの脇で、リリ様と剣を構えたサティが相対する。


「サティの剣を防げたらってことで」


 サティには特に指示も出してはいないが、言わずとも俺の意図は汲んでくれるだろう。盾などぶちぬいてやれ!


「ふふん。そのような細い剣で妾の精霊の盾が貫けるものか」


 そう言ってリリ様が風の盾を展開させた。

 精霊魔法はほぼ無詠唱に近い速度で発動する。防御力次第では盾役として確かに悪くないかもしれない。

 だがリリ様、サティを完全に舐めていらっしゃる。それがどんなに危険なことかも知らずに。


「行きますね」


 サティが一歩踏み出し、剣を上段から振るう。かなりの剣速であったが、それはリリ様の頭上で風の盾に阻まれ寸前で止まった。


「ど、どうじゃ。無理じゃろう」


 思ったよりも剣が近くに迫ってきたのでびびったのだろう。ちょっと青い顔をしている。

 剣がせまった時、目をつむっていたし実戦経験はあまりなさそうだ。


 サティはすっと剣を引き、同じ位置に下がる。そしてもう一度構えた。先ほどとは違う、突きの構え。


「もう一度です」


 お、サティがちょっと本気だ。止められたのが不本意だったらしい。

 リリ様か精霊のどちらかはわからないが、サティの意図を察したのだろう。正面に魔力を、風の盾を集中させた。


「今のは少々油断しておったのじゃ。今度は近寄れもせぬぞ!」


 更に魔力が増大し、風の盾が分厚く濃密になる。

 リリ様の準備が出来るのを待ち、サティが前に踏み出しすばやい突きを繰り出した。

 そしてサティの剣はあっさりと風の盾を切り裂き、貫いた。


「ひっ」


 リリ様の声が漏れる。サティの剣はリリ様の首筋にピタリと当てられていた。サティがゆっくりと剣を引くのをリリ様が喉をごくりとならして見送る。


「最初の攻撃を防いだのはなかなかのものですが、やはり少々力が足りないようですね」


「うううう……」


 リリ様は完全に涙目である。

 だがそこでティトスさんからの横槍が入る。


「あの、もしかしてサティ様はものすごい達人ではないのでしょうか。私ではリリ様の盾は絶対に貫けません」


 おお、さすがティトスさんだ。いいところに気がつくね!


「そ、そうじゃ。サティは弓の腕も達人級であった。剣もそうなのじゃとしたら参考にならん。普通の攻撃ならすべて防げるのじゃ!」


 最初の攻撃は防いだし、十分に強力なのは間違いない。リリ様が自信を持つだけのことはある。

 だが俺たちが想定する敵のレベルは、ドラゴンやオークキングの一撃なのだ。今くらいの防御力では防げるかどうか非常に怪しい。加護が付けられるならともかく、いまのままでは盾役を務めるには少々厳しいだろう。


「だいたいですね、うちのパーティはご覧の通り全員俺の嫁です。家族で組んでるパーティなんです。今後も他人をパーティに入れる予定はありません」


 テストとかやっといてなんだが、結局はそういう話に落ち着くことになる。


「家族……」


 他人をいれるつもりはないと言われてリリ様もようやく諦めたようだ。

 とりあえずこの後はどうしたものか。昼食もまだだし疲れたし、そろそろ家に戻りたいのだが……


「パーティの準備をしておりますので、是非ご出席ください」とティトスさん。


 ですよねー。出来うる限りの歓待をするつもりなのだろう。


「ええ、もちろん出席させていただきますわ。ね、マサル」


 まあいいか。きっとごちそうとかも出るだろうし、目立たないようにして食べてよう。

 とりあえずは準備が出来るまではまだ時間があるので、もうちょっとここで歓談ということのようだ。

 お茶や軽食が運ばれてきた。


「そうじゃ!」


 お? リリ様どうしましたか?

 突然立ち上がったリリ様が、先ほどとは打って変わった明るい表情になっている。


「父上! 妾はマサルのところへ嫁に行きます!」


「「「えぇ!?」」」

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