懇願のプロポーズ①
それから五年の時が過ぎた
十五で成人と認められる璉国では閃は成人を迎えた
昔はいじめられては泣いてるような大人しい子だったが
今では背も伸び、精悍な青年へと成長していた
その姿を閃の母はみることなく亡くなった
二年前に盗賊団が村を襲い、食料が奪われ村はさらなる貧困にみまわれた
そのせいで閃の母は餓死した
美しい寵妃であった面影など全くはないが
最後まで閃に食料を優先させて、眠るように逝き、満足そうな死に顔であった
その後の閃を引き取ったのが神楽の義母の柳燕である
神楽と同等に育て、慈しんできた
ある日の朝
「閃、そなたも大人の仲間入りじゃ。嫁さん探しもせねばねぇ。」
朝、顔を洗ってきた閃に向かって義母である柳燕が何気なしに言った
「な、何言ってるんだよ!柳燕さん!俺ここから出て行く気無いぜ!」
「何ってるんだい。いつか子供は親の元から巣立っていくもんだよ。」
「じゃ、じゃあ、柳燕さんは誰が面倒を見るんだ!ここに俺みたいな働き手がいた方がいい 痛っ!」
後ろから薪でゴンと叩かれた
叩かれた部分をさすりながら振り向くと
「なーに言ってるの!私に勝てない男が男手と言うな!」
片手に薪を抱え、もう片手に閃の後頭部を叩いた薪を抱え仁王立ちする神楽がいた
この時、神楽は13才を迎え、小さい頃はそんなに無かった身長差が閃より頭一つ分低い身長差になり、クリッとした眼、寒さに頬が赤くなり、愛らしい少女に育っていた
だが、この少女を舐めてはいけない
二年前の盗賊団以降、この村は何度か襲われたことがあった
しかし、その度神楽がまとめた自衛団により、村を救ってきた
神楽はこの村一の武術の達人となっていた
「な!痛いだろう、神楽!た、確かにお前よりは弱いけど、田畑を耕すのは俺の方が得意だろう。」
「そうじゃない、閃!そろそろ、官吏の試験を受けに行ったらどうだと言っているんだ。」
「な、何でそれを・・・」
「閃が一生懸命官吏の勉強をしているのは知ってる。」
「だけど俺は王宮から追い出された人間だ。受け入れられるはずがない」
「諦めるのか・・・、閃。」
見つめてくる神楽の目に閃は反らしたくなる
だが反らすことは難しい。無垢な瞳は、閃の真実を見抜こうとする
一触即発の雰囲気に
「ふふっ。そう言わないの神楽。閃も思うところがあってやっているんだよ。閃、お前のお母さんからお前を預かったときに頼まれているんだ。好きな道を進みなさい」
そこで救いの手を出すのは柳燕だ
二人の間にわって入り、優しくなだめる
「っっ、俺はここにいる」
それだけ言うと、閃は駆けだしていった
閃がいなくなった空間で柳燕の目が神楽に訴えてくる
「・・・・神楽。」
「分かってる・・・。迎えに行ってくるね。」
閃に持っている淡い恋心が育ての母である柳燕にはお見通しである
それが認めるのが嫌で
閃が駆け出しって行った方向に神楽も走り出した