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王の竜玉  作者: ito
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壊れだした歯車④

5つめは本当に大きく変わってしまった。

私と閃との関係だ。

本当にこの一ヶ月寝る間を惜しんで仕事に明け暮れた。

文字通り寝る間を惜しんでだ。

仮面で顔が隠れていて本当に良かったとここまで思ったことはない。

仮面を取ったときの私の顔は最悪だ。

両目の下に黒々と出来た隈はここ最近の睡眠不足を象徴している。

仮面のせいで誰も気づいてはいないようだ。

唯一顔を合わす閃にはばれそうなのだが、ばれてはいない。

何故なら後宮では夜を過ごしていないからだ。


執務室では警護や会議などには竜将軍として毎日顔を合わせいるが、寵妃神楽としては顔を合わせてはいない。

後宮に一応毎日は行っている。風呂と着替えのために。


それ以外の食事や仮眠は執務室で取っている。

それに対して閃は何も言ってこない。

イヤ言えないのだと思う。


私と閃の関係が壊れたのは彼の一言だった。

ある日のことだった。その頃はまだきちんと後宮に戻っていた。

礼音の部屋で露国のことで日付の変わる時間帯まで討論していた。

のらりくらりと話をする礼音に何度部屋を退室しようとしたか分からないが、最終的にはついつい話が白熱したのも事実だ。

話が終わり早足に後宮へと急ぎ戻ってきた。

真っ暗闇の中楼閣の一番上から零れる光は閃が戻っていることを示しており、遅くなったことを申し訳にと思いながら足を速めた。


部屋の扉を開けて、一番最初に目に入ったのは机の上に置かれた冷め切った夕ご飯。

一口も口が付けられた様子はなく、綺麗にもられたままの状態。

忘れたようにお腹がクゥーと鳴いた。

待たせてしまったと罪悪感を感じながら、部屋を一回り見渡すと椅子に座りこちらに背を向けて座る閃がいた。


「閃遅く」

「今まで何処にいた?」


静寂を破るような低い声がする。氷のように冷たい声にヒヤリとした物を感じる。


「せ、閃?あの、その、ちょっと惷国の」


「惷国だと!!あの男のもとにいたのか!!」


ダンと椅子の手置きの部分に閃が拳をぶつけた。

あまりの音に


「閃!何をするの?手は大丈夫!?」


近づいてその手が無事かを確認するため手を取った。

閃の手は強く握られていたのか爪が刺さり、血が滲んでいた。


「ちょ!閃!?!?」


手を握って閃の顔を見て固まってしまった。

無表情で閃が私を見ていた。

仮面越しに初めて見るその顔に恐ろしくなり、閃の手を放してしまった。

閃の手は重力によって下に落ちるはずが、私の後頭部へと向かい一瞬影がよぎると一気にクリアな視界へとなる。

もぎ取られた仮面は床で何度か跳ねてコロコロと転がった。


拾いに行くべき所なのだが、それ許さないとばかりに閃の手が頬へと伸びてゆっくりと輪郭をなぞり始めた。

男性の手にしては細い指が唇の形をなぞる。

甘い愛撫のような仕草に動くことが出来ない。

身動きも考えることも息をすることも忘れてその動作に囚われる。

そして閃の目が如実に語るのは欲望だった。

あるのは明らかな男が女を求める情欲そのものが閃の目に宿っている。


ゴクンと息を呑むと同時に首筋を閃が撫でていく。

甘い痺れが背筋をかけて、膝から力が抜けて倒れそうだ。


ゆっくりとしかし確実に降りていく手が服の裾に沿って中へと侵入してこようとしている。

逃げたいのに閃の瞳に吸い込まれて体が囚われている。

イヤ違う。

私が望んでいるのだ。


閃に抱かれたいと。

誰のものにもしたくない。自分だけのものにしたい。

この体を奪って欲しいと望んでいるのだ。

その欲望に理性が負けて体を縛る。


ジリジリと蝋燭の燃える音が大きく響く。

動いているものが閃の手だけだと思えた瞬間パチンと蝋燭の日に近づきすぎた虫の焼ける音が響いた。


その音に理性が戻ってきた。

バッと閃の手を払いのけて身を守るように両手を交差させる。

閃の瞳から目を反らして高鳴る鼓動を一生懸命落ち着かせる。

全力疾走したかのような疲労感の後、閃との間に出来た空間を見つめる。

開いた空間は底知れぬ溝があるように感じられた。


「・・・・神楽・・・それが答えか?」


静まりかえった空間で閃が囁いた。

本当に小さな声だったが静まりかえった空間では大きく響いた。


閃が何を求めているのか分かっている。

だが、それを私が答えてはいけない。

境界線を引かなくてはいけない。

どんなに愛していても、私は彼に何も出来ない。

閃は王なのだ。この国の王なのだ。

私とは本当であれば関わり合うことのなかった運命で偶然的に出会ってしまい、間違って夫婦になった間柄なのだ。

ここで間違えてはいけない。

間違えてはいけないのだ。


伏せていた顔を上げて閃と目を会わせる。

悲しみを帯びた瞳は何処までも暗く、淀んでいた。

ゆっくりと笑みを浮かべて、


「・・閃、これが私の答えだよ・・・」


そう言った。


私は笑みをきちんと浮かべていたと思う。

ただ頬を伝う熱いものは一体何だったのかは分からない。




あと2~3話掲載して2週間ほど休止します。

ここまでお読みくださりありがとうございます。

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