互いの利害③
「借りている部屋ですがどうぞ。」
扉を開けて中へと促す礼音に
「失礼する」
一応の礼儀で断りを入れて扉を潜った。
やはり一国の王子に用意された部屋ということあってそれなりの調度品が配置されている。
されど何というか、生活感が全くない。
部屋に置いていたら邪魔だろうと思えるような剥製や古めかしい大きな壺の骨董品。
それが塵一つ落ちていない生活感の皆無の空間で何とも息苦しく感じる。
城仕えの者達が掃除しているのは分かっているが、何とも落ち着かない空間で閃ではない男と一つの空間にいるのはさらに落ち着かなくなる
それに気づかれないように
「早速だが露国のことをお聞きしたい」
平素を装いながら聞いてみた。
「まぁまぁ。そう焦らずに今お茶を入れます。どうぞ座ってお寛ぎください。」
何処からか茶器を出しながら茶を用意し始め、何とも肩すかしを食らう。
さっさと終わらせこの部屋から出たかったが、簡単に終わる話でもないなと思い直し勧められるままに席へと座った。
コトンと置かれた茶器からはスッとした香りが広がり、匂いに誘われるままに手を取ってコクリと一口口に含む。
意外と緊張していたのか渇いた口の中に広がった温かな茶は、緊張していた体に染み渡りほっと溜息をついた。
「疑われないのか?」
ほっと溜息をついた神楽を驚いた表情で見つめる礼音に
「何だ?毒でも入れたのですか?」
飲んだ感じではピリリとした刺激も嫌な匂いもなかった普通の茶だと思って飲んだが毒で入れたのかと思って残っている茶に視線を落とすと
「ぷっくくくくく!!!」
礼音が腹を抱えて笑い出した。
「一体何だ?」
「あはははは!!イヤイヤすみません。あはは。貴方は本当に飽きない方だ。普通敵国の出した者を何の躊躇いもなしに口に含んだりはしませんよ。それなのに貴方は何の躊躇いもなく含んだ。そればかりか毒が入っていたのかと聞き返してきた!!これ以上面白い方はいませんよ!!」
目尻に涙を浮かべながら笑う礼音に本当に一国の王子かと疑いたくなったが
まぁ確かにそうだ。
敵国の者が出してきたものを私はためらいなく口にした。本当であれば毒味や何らかの対処をすべき所なのだろうが、私はそんなことが嫌いだ。
相手を信じるには誠心誠意こちらも答えなければ、相手は私を信じてくれない。それに毒ならいくらかの耐性が出来ているし怖いものもなかった。
虎穴の中にわざわざ入ったのだ、毒一つに怖がる理由なんて無い。
「失礼、竜将軍。貴方は本当に面白い方だ。本当に興味惹かれる存在だ。」
「そんなことより露国のことを」
「まぁまぁそういわずに先ずはお互いのことを知り合いましょう。先ずはきちん自己紹介を。私は惷国第2王子、宗礼音。兄が王位を継いだので私は気ままな将軍生活です。」
「・・・私は竜だ。それ以上それ以下の名はない。」
「おや?神楽という名ではないのですか?」
今ほど反応しなかった自分を褒めてやりたい。
その名が聞こえた瞬間、ドクンと心臓が高鳴った。
息を呑みそうになったが何時も道理の呼吸が出来た。
茶器を掴んだままの手は震えてもいない。
「・・・それは側室様の名です。私の名ではありません。」
「それでも貴方は神楽様でしょう?」
礼音の瞳は何もかもを見通しているように淀みなく仮面越しに覗いてくる。
真っ向からその瞳を見返すことが何だかとても恐ろしいことのように思えて、震えそうになる手を必死に誤魔化して席から立ち上がろうとした。
だが、
「失礼。竜将軍でしたね。すいませんどうも私は人を不快にさせるのが得意のようなので」
ニコリと笑った表情は口角があがっているのに全く笑みには見えない。
胡散臭さが倍増している笑みに
「話し合いに来たのです。それ以上の話をする気はない。」
釘を刺した。
「ハイもちろん。それでは露国について話しましょうか?」
そう言って話し出した礼音に上から見下ろす形では失礼と思い、席に座り直してその話に耳を傾けた。