表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王の竜玉  作者: ito
74/87

王女の想い③

その一歩は次の日から始まった。

朝早くに起きて、念入りに髪を整え、薄い化粧をして少しでも大人の女性に見えるように頑張りましたが、やはり鏡に映るのは何時もと変わらぬ私の顔。

それでも気合いを込めて、もう一度鏡を見て気合いを入れた。


「姫。竜将軍は今日はお休みのようですが、どうやら王城内に作られた施設の視察に行かれるようです。ここはお近づきになるチャンスです。参りましょう。」


珍しく長分を話す陽月に驚きはしたものの、コクンと頷き外へと足を向けた。

こんなに歩くのは久しぶりだったけど、きつくはなかった。

まるで羽が生えたかのように足が前々へと進んでいく。早くあの方に会いたいという気持ちが抑えられない。


「姫あちらに・・」


陽月の指さす方向に竜将軍がいた。

スラリと伸びた身長。朝日の下でのあの白い仮面は異様だが、私には胸を高鳴らせる要員でしかない。

傍のご老人と何処かに向かおうとされているのを引き留めたくて


「あ、あの・・りゅ、・・竜将軍!!」


必死になって口を動かした。

渇いた口はうまくしたが回らず途切れ途切れにしか話せず恥ずかしくて真っ赤になる。

そんな私を笑いもせず


「これは紫翠姫、陽月様。おはようございます。」


垣間見える瞳からまるで春の日射しのような暖かさを感じます。


「おは・・おは・・よう・・ござ・・ございます・・・」


やっと紡げた言葉は幼子のようで恥ずかしいが今の私はこれが精一杯。


「こんな朝早くにどうされたのですか?何かございましたか?」


閃王とは違い私たちを気遣ってくださるような言い方に、やはり心温まるモノがある。

何とか返事をしたいが視線が合うと鼓動が激しすぎて何を言えばいいのか分からなくなって必死になって首を振ることしかできなかった。

そんな私を心配してくださり、ほんの少しだけ心に余裕が出来た。

どうやこの阿宗医師という方と一緒に薬草畑に行こうとなされているようだ。

会ってすぐお別れとは寂しくて、かといってなんと言えばいいのかも分からない。

ふと横にいる陽月に目を向けると視線が合い、そしてゆっくりと竜将軍と変えた。


「!!!」


そうだったわ!!私は竜将軍とお近づきにならないといけない。

ここで怯んでしまってはいけない!!


「・・い、いえ!そんな必要はありません!!お・・お仕事を邪魔・・邪魔しませんので・・・わ、私も行きとうございます!!」


出てきた言葉は本心だった。破れかぶれのような捨て身の戦法は竜将軍も陽月も驚いていたようでが竜将軍は笑って許してくださった。


薬草畑は本当にたくさんの薬草が生えていた。

色とりどりの花があるような光景ではない。天日干しされた薬草や黒い物体の手足のある動物みたいなモノ(すぐに目を反らしたのでよく分かりません。)そんなモノがたくさんある場所は何とも異臭を漂わせていた。

扇で仰げば仰ぐほど自分にまとわりついているのではないかと思えるほど、臭い。

ゆっくり小さく呼吸を繰り返しているが、頭がクラクラしてくる。

それでも畑にいる竜将軍がたまにこちらに視線を投げかけてくださる度に、その視線を絶対に逃したくなくて一生懸命畑の傍で待っていた。

竜将軍はとても素晴らしい方でした。

たくさんの兵やたくさんの医師などに囲まれそのお姿が見えなくなることがありましたが、竜将軍はその人達を突き放すことなく丁寧に教え、指示しておりました。

薬草の知識から国の経済や救済について様々な問題が問われていても、突っぱねることなく何らかの答えを出して対応されていました。

その知識の深さに藍光国の頭脳といわれている陽月ですら、

「なるほど」

と感嘆の声を上げるほどでした。


天高く太陽が昇ったときに、竜将軍がこちらに向かって来られた。

これだけ広い畑を動き回っても息一つ乱さない彼が格好良くて、流れるような動きに目が奪われていた。

そしてお昼を共にどうかといわれて嬉しかったのに、王も一緒だといわれたときに背筋が凍った。

思い出すのは昨日の冷え切った視線。

見られているということだけで、呼吸も鼓動も凍てつき生きることを拒否しそうになるほどの恐怖がある。


断りたかったが竜将軍が

「守る。」

と一言言ってくださり、頷いてしまった。


竜将軍は気づいているのだろうか?

先ほどからこちらに向ける視線が殺気立っているのに。


お昼の暖かな日射しが降り注いでいるのに極寒の寒さが全身を襲う。

手に持つ箸がカタカタと震えて、うまく掴めない。

顔を上げることも呼吸をすることも出来ずにこのまま死んでしまうのかとも思えたが、


「陛下。昼食にそのような雰囲気を出さないでください。せっかくの料理がまずくなります。」


王を全く敬うことなく堂々と言った竜将軍にポカーンと見てしまった。

まるで幼子を叱るような叱責に王は何も言わずにさっさと席を立たれた


「あの・・・よろしかったのですか?」


怖々と竜将軍に尋ねると


「怖かったでしょう?でもあんな表現でしか自分を表現できない、あの方の可愛いところですよ全く・・・。だから怖がらないでくださいね。」


先ほどとは違う優しい声。

だけど何を言っているのか良く理解できない。

あの王が可愛い??

あの射殺すような視線が表現のしかた?

信じられないがそれを可愛いと言ってのけるこの方もまた化け物なんだと思えたが、やはり仮面から覗く瞳は何処までも優しかった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ