王女の想い②
一瞬何を言われたのか分からなかったが、だがその言葉が私を解放すると思え安堵した。
この人を見なくてすむ。
この人の目に映らなくてすむ。
それはとてつもない喜びだと思えた。
だがその間に入った変わった人物。
顔の半分以上を真っ白な仮面で覆い。目元だけがくり抜かれ一切の感情が読み取れない。
青年と言うには若すぎるような背丈と声、だが少年と言うには落ち着きを払った行動
曖昧な人なのに何故だろう。目が離せない。
そして真っ向から王と向き合う強さに鼓動が高まった。
頭に周りの音も色も入ってこない。私の全ての五感が目の前に立つ仮面を付けた人に奪われてしまった。
惚けたように見ていると、その人が鳥かごの入り口を開けて私に向かって手を伸ばしていた。
指先が少し緑色に変色し切り傷が多く見られる。
仮面から垣間見える瞳は優しげにこちらを見ている。
「出てこられよ。そなたは我が客。我が客がこのような所ではおかしかろう?」
そう話しかけられ、ハッとした。
この人は私を人としてみている。
鳥かごに入れられ辱めを受けている私に手を伸ばしている。
混乱して傍にいる陽月に目を向けると彼からは一切の言葉はなかった。そしてもう一度仮面の人に目を向けると変わらずの優しげな目がこちらを見ていた。
するとすんなりと私の手は伸びて伸ばされた手に重なった。
大きな手だと思っていたのにそこまで大きくはなく、だがしっかりと手の皮が厚い手だった。
それにドキッとしてしまい転びそうになった私を仮面の方は助けてくださいました。
そして抱き上げて、歩き出されました。
このような無礼は極刑に値するものなのに宰相である陽月も、誰も咎めはしない。
それに怒るべき私が怒れないのだ。
胸が高鳴り、見つめていたいと思える。
それから四阿に連れられ食事をした。その時になって初めて彼が璉国の軍の総大将竜将軍である事を知った。ただ呆然と聞きながら笑いを含めて言う言い方についつい私も笑ってしまった。
本当に自然に出た笑みに、体の力が抜けた。
カチンコチンに固まっていた頭がやっと動き出した。
そして周りを見つめて初めて気づいた。私はこの竜将軍に恋をしている。
人として扱ってくださったこの方に思いを寄せている。
自覚すると想いはどんどん成長しました。部屋に案内された後、ぼぉっと竜将軍のことを考えておりました。
仮面越しに見える瞳に慈悲を感じ、物腰も柔らかく思い出すだけでも心臓を鷲掴みされたように鼓動が高鳴ります。
「姫よろしいでしょうか?」
「陽月。何用ですか?」
一緒に部屋に案内された陽月が音もなく近づいてきた。
怒られるのでしょうね。本当であれば璉王陛下を虜にしなければいけないのに、逆に私が璉国の将軍に惚れてしまうなんて、呆れているのでしょう。
沈痛な面持ち陽月の言葉を待っていました。
「このまま竜将軍を落としなさい。」
「えぇ?」
「この国は王よりも今は竜将軍の方が人気があります。ましてや将軍という地位のみで他の身分も何もありません。こちらが王族である以上優位に婚礼が勧められます。奥方がいるとも聞きませんので、彼を落とせば確実に我が国藍光は安泰です。」
「・・・そうですね。私が竜将軍の妻に・・・」
あの方の傍に横に立てる。そう思うだけで顔が熱くなる。
「えぇそうね。陽月。私あの方の竜将軍の妻になりたい。竜将軍の妻になれるよう協力してちょうだい。」
「御意」
私は決意しました。竜将軍のそばに立てるように一歩を踏み出そう。