運命の出会い④
「っは!!」
閃は文字通り飛び起きた
はぁはぁと荒い空気を吐き出す
周りを見渡すと悪夢の続きのようにつんとくる匂い
がたっと音の響いた
その音に反応して閃の肩がビクンと震えて音の方に目を向けると
つぎはぎの見える服を着た目尻のシワが印象的な70歳位のお婆さんが立っていた
「あぁあぁ、目が覚めたんだね。どうだい、もう体を動かしても傷まないかい?」
ニコニコと笑みを浮かべ、閃の寝ている布団の横に座り温かく見つめてくる
閃はぎこちなくなってはいたが、ふと思い出すと先ほどまだ指一本すら動かすことの出来なかった体が、腕を回しても、立ち上がっても痛まなかった
「な、なんで?」
立ち上がったまま呆然と零した閃の声にお婆さんの目尻のシワはさらに深くなる
「ふふっ、それはね。神楽のおかげだよ。あの子はね、今では私を抜いての薬師だよ。ただちょっと難点はかなり痛みを伴うと言うことなんだけどね。」
笑いながら、持ってきたお盆の上にあるおむすびを閃に差しむける
「お腹すいてるだろ?食べなさい。」
母から施しなど受けるなと強く教わっている閃は首を振ろうとするが
空腹を訴えるお腹はクゥーーとSOSを出してくる
「ふふっ。元気になるにはたくさん食べる必要があるよ。」
そう言われると閃の手は伸びていた
おにぎりを掴むと急いで口の中に入れた
閃の瞳からボロボロと涙が溢れてきた
初めて閃は温かな心に触れた
閃親子がこの村にきた頃、璉国は混乱していた
長い歴史により人口の増大、異常気象により作物の不足に伴う食糧難
また、他国の不穏な動き
そして相次ぐ王の死去である
閃の父親である70代目が死去した後、その嫡子が71代目を継いだ
されど、その数日後に何者かにより暗殺
第二太子がその後を継いだが、武力を好んだ王となり国の抱える問題は他国を滅ばせばよいと号令を出し戦争が始まった
その後は坂を下るように璉国は陰りを見せはじめた
いかに素晴らしい軍事力を持っていてもそれを操れる者がいなくては意味がない
その証拠に戦闘は連戦連敗
軍事の士気は下がる中、72代目は豪遊に走った
後宮に寵妃を100人以上抱え財務は一気に困窮した
そのツケは民に回った
一気に税率が上がり、冬を越すために溜めていた食料をことごとく奪い去られた
民の不満は一気に高まった
一人の将軍が反旗を翻し、この72代目皇帝を暗殺した
その後は血を血で洗う戦いが続いた
そして民は王家に対して失望を抱いた
村から多くの働き手である男達を奪い、作物を奪った
民達は自分たちが生きていくのが必死になり、誰かに優しくすると言うことを忘れてしまった
閃親子はこの村で白い目で見られてきた
そんな村で初めて優しくされた
色々な感情が入り交じって閃の瞳には涙が溢れた
「ぐっ、ごほっ・・ごほっ・・」
急いで詰め込んだため気管に入ってしまい咳き込んでしまう
「ほらほらゆっくり食べなさい。ご飯は逃げないわよ。」
お茶を用意し、閃の背中を撫でる
その笑みに閃はまた嬉しくなる