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王の竜玉  作者: ito
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竜に恋した少女


背筋をゾッとするほどの寒気が襲った。


「な!!陛下!!どういう!!藍光との和睦は」


「我が妃はただ一人、神楽だけだ。他の者を娶るつもりはない。見とうもない!!さっさとさがれ!!失せ」


「それ以上は陛下ダメです!!」


閃の声を遮ったのは竜将軍だった。


「・・竜将軍・・どういうつもりだ・・・その女をすぐにこの城から」


「なりません!!陛下落ち着いてください!!」


「落ち着いておれるか!!この者達は妃を愚弄したのだぞ!!万死に値する!!」


「その様なことをなさったと神楽様が知れば悲しまれます!!」


「・・・ではどうしろと!!こいつらを!!」


今にも斬り捨てそうなほどの怒気に鳥かごに入っている少女は声もなくただ溢れ出す涙を流していた。


「陛下。どうぞお待ちください。この姫のこと私にお任せください。我が客として私が請け負いますので、どうぞお考え直しを・・・」


ただ頭を下げる竜将軍に閃は舌打ちをして、


「和睦については考える。されど、その女を見る気もない!!次ぎ視界に入れば斬る!!失せろ!!」


そう怒鳴りつけて強い酒をグイッと飲み込んだ。本当であれば今すぐにでも斬りたいが無用な殺生を嫌う神楽がそれを阻止した以上強くもいえない。

官吏共が声を潜めて言い合っているのが見える。馬鹿馬鹿しくて何も言う気はない。

興ざめのように藍光の者達か目を反らすと、陽月は頭を下げて鳥かごを運ぶために兵達に視線を送った。

その視線に気づいた兵達が鳥かごの周りを固めて持ち上げようとする。


「止めよ!!」


「竜将軍何か??」


退出しようとした陽月を呼び止めて、カツカツと宴の広場に出てきた竜将軍。軽装ではあるが、帯剣はしている。


「下ろせ」


「はぁ?」


「今すぐ下ろしなさい!!」


「はい!!」


蛇に睨まれたような声に兵達は鳥かごをゆっくりと下ろした。

次ぎに陽月へと目を移す。平伏してはいるが、ビクビクしている兵とは違い完璧な礼の姿勢をとっている。肝の据わった男に見えるが、本当に何を考えているのか分からない。


「陽月様だったか?この鳥かごを開けなさい。」


「ですが、陛下が・・」


「人を人として扱わぬ国は私は嫌いだ!!鳥かごは人のいるべき場所ではない!!今すぐ出しなさい!!」


ふと上げた顔はニヤリと弧を描き、徐に懐から出した鍵で鳥かごの入り口を開ける。

ガチャンと大きな音が響いて、ギィッと金属特有の音が響く。


腰の高さほどしかない入り口にかがみ込み手を伸ばした。


「出てこられよ。そなたは我が客。我が客がこのような所ではおかしかろう?」


怯えたような目で陽月と竜将軍を相互に見た少女はゆっくりとした手つきで手を伸ばしてきた。

カタカタと震える手を辛抱強く待ちながら、差し伸べた手に手が届くと、しっかりと握った。

指先は氷のように冷たく、傷一つ無い滑らかな手。

切れに整えられた爪は桜の花びらのように薄いピンク色。

髪に付けられている飾りに気をつけながらゆっくりと入り口から出て、足が付いた瞬間気が抜けたのか、腰が抜けガクンと少女の体が倒れた。

それを支えるように竜将軍は腰に手を当てて


「すいません。この方が早い」


壊れそうな細腰と膝当たりに手を当てて抱え上げた。

フワリと羽ように軽い体を抱き上げると微かに香る柑橘系の甘い香り。

白い顔がリンゴのように真っ赤に変わっていく。怖がらせいないようにニコリと仮面から出ている口に笑みを浮かべると、真っ赤になる勢いが勢いづいた。


「陛下、お客様は私がおもてなしをいたします。これにて失礼します。」


姫を腕に抱えたまま宴の広場から歩き去った。

陽月もそれに習うように付き従った。

残された者達は


「どうやら竜が人に恋したようだ。」


「王の女をさらったぞ。これは面白いことになりそうだ。」


「だが、奴の元に大国の王女が嫁いだら・・・」


扇で隠しながら王に聞こえるように話し合う。これで竜将軍と王との間に不仲の状態ができれば自分が次が王の傍に行けるかもしれないという野望からコソコソと会話は続く。


「・・・・宴は続けよ・・・」


王の声に鳴りやんでいた曲が始まり、踊り子達が踊り出す。

止まっていた時間が動き出すように談笑が始まり、お互いに酒を酌み交わしている。


それを見ながら閃の心は冷え切っていた。




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