鳥かごの少女
通された藍光国の使者はひょろりと背の高いやせ形の男だが、年は30ほどの若さだろう。
身に纏う衣服は絹が使われ、それなりの地位のある者だと伺える。
だがそれより気になるのはその男の後ろにある2メートル以上ある高さの物体に布が掛けられた物だ。
6人の兵達に運ばされてこの物体が何だと奇異的な視線が集まる。
「お初にお目にかかります。閃王陛下。我ら藍国の主より命を受けました宰相の楊華月と申します。」
「遠いところからよう来られた。して藍光が我が国に何用だ?藍光国は他国との友好はなかったはずだが?」
ピリリとした空気が張り詰めた。
だがそんな空気も関係ないとばかりに藍光の使者は堂々としている。
本当によく分からない空気を醸し出している。能面のような顔立ちが一切の感情を隠して、悪意があるわけも、好意があるわけでもない空気に神楽も腰にある剣に手が伸びた。いつでも閃の前に飛び出せるようにほんの僅かに腰を上げる。
華月はおもむろに手を懐に忍ばせた
武官達はピクリと反応したが、飛び出すような者はいなかった。
そしてその張り詰めた空気を解き放つように
「・・我が藍光国は璉国との友好を望みます。我が主からの書状にございます。」
華月は仰々しく書状を掲げた。
「な!!藍光国との友好だと!?」
「あり得ぬ!!あれほどまでに他国との干渉を嫌う国が!?」
「どういうことだ??」
華月の持ち込んだ爆弾発言に広間では騒がしくなる。
扇で隠しながら話し合っていた者達は隠すのも忘れて、大声で言い合っている。
「・・・・竜将軍そなたはどう思う?」
その騒ぎの中で王の声はよく響いた。
しーんと静まりかえった中で多くの視線が竜将軍へと向かう。
「・・・陛下。先ずは書状を見てみないことには何とも言えません。」
「そうか。書状をこちらに」
官吏が震えながら華月から書状を受け取り、王へと渡した。
書状を開いた閃は驚いた。
その内容は藍光国の完全敗亡ともとれる書状だった。
「ど、どういうことだ?藍光が我が国の傘下にはいると書かれてあるがそなたの国は何を考えておる?」
「書状の通りにございます。」
眉一つ動かすことなく喋る華月に、竜将軍は王の傍に行き、書状に目を通す。
きちんと王の御名も御璽も入り、疑われるような場所はない。
だが何故にという疑問が浮かぶ。藍光は国内に有数の資源を持つ国だ。鎖国状態でもやっていけるほどの国力を持つ国が何故?
「・・はっ!?まさか・・・」
竜将軍の出した小さな声に華月はピクリと初めて反応した。
「何かあるのか?竜将軍。」
「・・・憶測ですが、露国が動き出したのだと思います。」
「さすがに、竜将軍。万物を見渡す目をお持ちのようだ。」
「ではやはり、噂は本当だったのか?ならばこの書状の意味もよく分かる。」
書状を見つめながら呟く声に広間はざわつき始める。
露国は7カ国のうち最も軍事国家といっていい。
王はちょくちょく変わり、最も内乱が多く他国を侵略して利益を生んでいる国だ。だがそれ故に他国から総スカンをくらって、最も貧困な国でもあった。すでに国と言える状況でもなかった。
その露国がこの書状とどういう関係があるのか、閃は口を開いた。
「?どういうことだ?」
「陛下。お話しするか迷ったのですが、時期尚早と思い話してはおりませんでしたが、露国に不穏な気配があります。先の戦いで露国の語源を使う民を多く治療してきました。それに・・・武器もです。」
「!!!!!」
「露国の大量虐殺が出来る武器が多く戦場にありました。そうですよね?みなさん?」
竜将軍が向ける視線に源、采駕、惷国の者達は視線を反らした。
「紗萄国が3カ国とはいえ、数日で敗れるはずがないと思い、調べました。あれほどの武器を取りそろえるとなると、露国以外あり得ません。露国が動いています。そして、おそらく藍光に侵略を始めたのでしょう。」
「さすがにございます。竜将軍。我が国は露国に侵略を受けております。他国に応援を求めましたが、源、采駕、惷の国は一切の無視を決め込み、動きませんでした。」
冷えた目で他国の使者を見つめる目にやっと少しだけ感情が垣間見えた。だがそれも一瞬で伏せられた顔に、何を思うのかよく分からない。
「して、そちらにあるのは一体何だ?」
閃の声に誰もが陽月の後ろに隠された大きな物体に目がいく。
先ほどから異様な雰囲気を出す物体に誰もが興味をそそられた。
「これは我が国の降伏の証。我が国最大の秘宝でございます。」
バサリと剥がされた布。
大きな布が剥がされて、露わになったのは巨大な鳥かご。
太い湾曲した鉄のアームが正に小さな鳥かごをそのまま大きくしたような状態であった。
そして中にいる鳥は少女だった。
真っ白な衣服を纏った神楽よりも少し幼い少女は鳥かごの片隅で震えるように膝を抱えて縮こまっていた。
衣服も白いがその肌も白かった。紫水晶のような瞳がフルフルと涙で揺れて、今にも泣き出しそうだが必死に噛んでいる唇で涙を抑えている。
「・・・・な!!これは!!」
「我が藍光国第一王女紫翠様です。まだ王妃を娶られていないと聞き、是非とも我が藍光の王女を閃王の妻に・・」
誰もがしまったと思えた。
閃は確かに正妃を娶ってはいない。それなりに話は上がった。上がったが、それは王を傀儡にしようと思った者達だった。その後その者達は今この王宮にはいない。すべて悪事がばれて王宮から追放された。
それにこれといって閃は信頼度があまりなかったために、他国からの正妃にと娘を出されることもなかったが、今は違う。6カ国中4カ国と和平を結びまた新たに1カ国をうちに込めようとしている。
これほどの大国を治める王が正妃がいない。どれ程のチャンスであろう。確かに寵妃がいるが、ほとんど表舞台に出ることはない。ましてや、他国の王女が嫁いできたとなると一夜ぐらい共にせねばならない。だが、その一夜で良いのだ。既成事実さえあれば、例え誰の子を孕んだとしても、男児を産みさえすれば聖母してこの国に降臨できる。
それを藍光は先の一手をしてきた。友好として差し出せば王として受け取らねば、戦を招くことになる。
静まりかえった空間で注目の人物は動かない。ただ静かに鳥かごの王女を見て、
「・・・・斬り捨てて・・国へ返せ・・」
ただ一言静かな空間にその声が響いた。