祝宴
王宮の一番大きな室にて宴は行われた。
勝利の宴と言っても質素で良いといったがやはり他国からの使者や情勢を知ろうとする間者などの配慮から豪華に行われた。
竜将軍の席は戦いの英雄と言うことで、王の席の隣という格別な席。
もちろん竜将軍が座るその反対側の王の横の王妃の席は空白のままである。もちろん寵妃である神楽にも宴への参加が求められたが、王によって却下された。
乾杯の宴と共に先ずは紗萄国の使者が宴の真ん中に躍り出た。
「陛下!!お初にお目にかかります。紗萄国の宰相の李俊と申します。」
恭しく頭を垂れた李俊は体格も大きいが、出っ張ったお腹でうまく拝礼が出来ていない。
「よく来られた。今日はゆるりとされよ。」
その返礼に王は玉座から見下ろすように応えた。
「この度は誠にありがとうございます。璉国竜将軍のおかげで我が国の民は多くの者が生き延び、助かりし者が多くおります。正に竜のような英知溢れるお方でございます。」
一度は紗萄国を滅ぼしかけた竜将軍にこのように褒められたとて、裏があるようで素直に喜べはしなかったが、他国との友好関係は狸と狐の化かし合い。相手に裏があるならこちらも裏で返すしかない。
「そうだな。竜将軍は正に竜だ。我が軍の牙は竜の牙と爪と思われた方がよいだろう。」
ニヤリと浮かぶ王はゾワリと凶器を含んでいる。
ひんやりとした冷や汗を浮かべながら李俊は
「かしこまりました。我が王にもその様にお伝えします。」
すすっと立ち去る李俊に閃は傍にいる神楽に聞こえる程度に
「狸だな・・・」
と呟いていた。次に出てきたのは采駕国、惷国、源国の3カ国の使者だった。
その中にいる若き一人の男は礼をしながらも竜将軍を見つめていた。
その男は礼音だった。
それぞれ3カ国とも和睦の書状を手に持っており、ほぼ全面降伏の文章が書かれていた。
それぞれ使者が差し出す書状を目にしながら、閃はむかむかとした感情に囚われていた。
頭は垂れているがこっそりとこちらを見つめてくる者がいる。
それが王を見てみたいという若者の恐れを知らぬ好奇心ならまだよい。だが明らかにその使者の視線は王には向かわず竜将軍を見つめていた。
そして何より驚いたのが、その視線に気づいているはずの神楽が全く相手にしていない。
いかなる理由があろうと神楽は真っ向から相手と向き合う人間だ。だが今回はその視線から逃げている。
ならばそれはこの使者と神楽に何かがあったということを示している。
確かにその使者は他の国の使者と違って端正な顔立ちをしており、身のこなし、動作も問題はなく、溢れ出す気品は優雅さを持っていた。
そして俺より少し上だろうか、という年齢が不快感を強くする。
「そうか。和睦の件はコレにて受け入れよう。使者達よ今日はゆるりとされよ。」
本当であれば使者達の紹介がされるはずであったが、閃にとっては見ていたくもない相手だった。
すぐさま視界から消したくてあるまじき行為だったが、勝利国という璉国が優位の立場から命令を出した。
璉国が優位である以上、広場に居座るわけにはいかなくて、三カ国の使者は躊躇いながらも、用意された席へと移動した。
すると本当に横にいたから分かるほどの神楽がホッと息を吐いたのを感じ、またムカムカとした思いが持ち上がる。
宴は続いた祝杯が何度となく挙げられては、竜将軍の武勇伝の話で盛り上がる。
「竜将軍は一人光りもない暗闇の中を駆けめぐり、敵陣に乗り込まれてあっという間に敵を山から引きづり下ろしたんだ」
「そうだそうだ!!あの手際の良さと強さと英知は正に竜の如し!!」
「そうだ!!そして暗闇に真っ赤な火の竜が現れた!!」
「あんなデカイ竜を俺は見たことねぇ!」
「竜がいるとこなんざ誰も見たことはないよ!!だけどあれは正に竜だった!!」
酒も入って大きな声で叫びはしゃぐ兵達
だが誰も止めようとはせずに、夢物語のような竜将軍の武勇伝に官吏達は聞き耳を立てていた。
笑い声がこだまし、手を叩く声がしながらふと扉が開いた
「陛下!!申し上げます!!藍光国の使者がまいっております!!」
それは驚きの一言だった。
藍光国それは今まだ他国と関わりを持とうとしなかった国である。
しかし、7カ国のうちの1つの国家である。それなりの大きさと人口数を持つ国ではあった。
その藍光国が呼んでもいないが、何故に来た。
その場にいた誰もが一瞬で仕事の顔になった。
そして誰もが玉座に目を向けた。
王がどう動くか、ただそれを楽しむかのような視線もあったが閃は真っ向から受けて
「通せ」
と一言言った。