狂った世界
閃視点です
その頃の王城では氷河期に突入していた
王都は暖かな日差しの元、竜将軍の行っていた政務が功をそうして経済が上向きになってきていた
王都には笑顔が溢れるようになり、人としての温かな町となってきていた
それが王城の門を一度潜ると体感温度マイナス10℃といえそうな程寒々しい
その原因を作っているのがこの国の王、閃王だ
外よりさらにマイナス5℃寒くなった朝議室ではどの文官も顔面を蒼白にしていた
「これはどういう事だ?」
閃の一言にまたさらに5度下がりました
言われたものは唇は紫を通り越して黒くなり、歯をガチガチと鳴らしている
「えっと・・・それにつきましては・・・その・・・えっと・・」
「答えられぬか・・・・。戸部は一体全体何の仕事をしているのだ?このような莫大な予算の計算間違えを起こして?」
俺が抱えた書簡には先日戸部からあがった予算見積書であった
予算削減を目指していた竜将軍はいらない年間予定を削減し、ある程度の目安予算を打ち出してから戦いに出て行っていた
竜将軍の予算見積書と戸部の予算見積書は歴然とした額の差があった
あまりの大きさに王として異議を唱えたら冷や汗どころか脂汗を出しながら戸部の担当は困惑していた
「竜将軍が残した見積書はこの額の3分の2だったはず。いかなる計算をすれば竜将軍の額より多くなると言うのだ?教えて貰いたいものだ。」
「それはその・・・竜将軍は未だ・・・この国内部につきましてはまだよくご存じ無い点がございまして、地方に回すお金や年間予定で少し予算がダンッッッ
「ひぃぃぃぃ!!!」
執務台を叩いた王の顔は冷笑を浮かべていた
(ふざけんな!!!この肉団子!!神楽は戦いに行く前からずっとこの国について調べていた!!睡眠時間という名の俺との触れあい時間を削ってまで、色々と年間行事や地方での災害についての報告書を読んでいた。唯一の俺の癒しの時間を削ってまで、俺のためにしてくれていたこと!!)
口元は笑みなのに目は全く笑っていない
蛇に睨まれた蛙のように脂汗を流す官吏に
「竜将軍はその様なことは知っていた。それをも考慮しての金額だったぞ。もし自分の懐に入れているようなら容赦はせんぞ。もう一度考察せよ!!」
放り投げられた書簡はカツンと音を立てて床に落ちた
「か、かしこまりました・・・・」
「はぁ~」
冷気を帯びた溜息が漏れる
ビクリと怯える官吏達はイライラする
神楽が戦いに出向いてから俺の中にいる獣が慟哭をあげて叫んでいる
神楽を求めて叫んでいる
全くと言っていいほど眠れず、食欲もない
時たま入る報告の書簡に神楽の字がある度に恋文を貰ったような嬉しさがこみ上げてくる
逢いたくて逢いたくて今すぐここを抜け出したくなる
だが、神楽との約束がある
あいつが出した約束を違えるようなことがあってはいけない
神楽を信じるといった時点で、こういう事は分かっていた
世界が色を無くし、極彩色豊かな王城が白黒に見える
ただ目の前に放す官吏達は能面のような人形
ただひたすらに色を与えてくれる、世界に光りを与えてくれる人を渇望する
ダーーーン・・・
広間のドアが開いた
転がり込むように入ってきた伝令兵は
「陛下申し上げます!!竜将軍が率いる璉国軍、三カ国を破りて降伏させたのこと!!!詳しいことはこちらを!!」
差し出した書簡を握った時点で色が生まれた
極彩色の宮殿に色が戻る
音が戻る
人の表情が戻る
神楽が戻る
バッと広げた書簡には流暢な文字で三カ国の同盟が成り立ったことと軍の損害状態と紗萄国の状態について書かれてあり、どうも何か雲行きがおかしい
さらに読み続けるとたった最後の一文に
「紗萄国の再興のために少し帰郷が遅れるので身辺にご注意なさいますように。」
書簡を持つ手が震えてくる
「ど、どういうことだ!!!」
雷のような怒声に誰もが息をのんだ
「何故竜将軍の帰郷が遅くなる!!!どういう訳だ!!」
詰め寄るように伝令兵の首根っこを掴んだ
自分の方が身長が高いために伝令兵は吊された状態で揺さぶられる
「・・あの・・あの・・」
「申さぬか!!」
「陛下それではその者は申せますまい。どうぞ落ち着いてください」
三老の凱長官の声にやっと青ざめている伝令兵が目に入った
「・・・報告を頼む・・」
サッと首元を離すと何度か咳き込んだ伝令兵に少しやり過ぎたと罪悪感を持つ
「・・は・・い。竜将軍におかれましては同盟国である紗萄国の状況があまりにも悲惨であるために復旧作業に当たられるとのことです。一週間の作業でやれることをするとのことです。」
「・・・・っぅ。わかった。」
玉座に座って周りを見回す
また色が失われた
極彩色が消え白と黒の世界が始まる
音もなくなり、世界に残されたような気がする
気が狂わんばかりに、叫び声を上げたい
逢いたい逢いたいと叫びたい
それを必死に押さえて
握りしめた手に力を入れて、人形達に言い放つ
「軍部はこの国のために命をかけて戦いに勝った。官吏は何をしておったと笑われること無いように命をかけてこの国のために働け。朝議はこれにて終わりとする。」
裾を翻して部屋から出て行く
誰もが自分を見つめる視線は畏怖だ
別にどうでも言い
どのような視線で見られても、何も感じない
俺に何かを与えるのは神楽、お前だけだ
早く戻ってこい
でなければ、俺は狂ってしまう
いや、既に狂っている
神楽お前に狂っている
お前が俺の存在意義であり、この世界を作っている
俺の世界に色を音を取り戻してくれ・・・・