竜の試練~竜の武を見せつけよ~③
静かになった空間で二人の足音が響く
そしてピタリと二人の足が止まった
そこが二人の限界地点
そこから少しでも動くならお互いの居合いの距離に入る
ピリリとした空気が広場全体を包む
重々しい空気がどれだけ続いただろう
ただ一滴の竜将軍の手から落ちた血が地面を跳ねた瞬間
二人は動いた
李将軍の跳躍は素晴らしかった
たった一度の跳躍で竜将軍の眼前に迫った
突き出される大刀を体を後ろに仰け反る事で避ける
そのままバク宙をして、振り上げた足で李将軍の顎を蹴り上げる
二度バク宙をして李将軍と距離を開ける
もろに食らった蹴りは口の中を切ったようで口角から血が滲む
プッと滲み出た血を吐き出した李将軍は笑みを浮かべる
「お前強いな。それでこそ倒しがいがある。だが怪我した奴と戦っても面白くない。その血どうにかならないか?」
棒を伝って落ちる血に李将軍は眉をひそめる
「これくらい大丈夫です。と言っても、ご心配のようなら、少しお待ちを」
棒を地面に突き刺し、血が流れている左手の袖を思いっきり破いて、手にグルグルと巻いた
結び目を作ると布の片方を口に含みもう片方を右手で引っ張る
とれないことを確認すると棒を握る
布を巻いた分だけ握りづらくなっている
「どなたか剣を貸して貰えないだろうか?棒では戦いづらくなったので剣を貸して欲しい!」
だが誰も動こうとはしない
近衛兵隊長が言っているのだからこの場合すぐさまにでも剣を貸さなければいけないが、未だ信頼の無い近衛兵隊長である。だれが大切な武器を貸せようか
ましてや戦っている相手は将軍だ。李将軍に睨まれるようなことがあっては軍ではやっていけない
そんな思いがあって誰も動こうとしない
ただ一人を除いて・・・・
「では、私の剣を貸そう。剣を持て!」
高見台の中央に座りことの成り行きを必死になって思いとどめていた閃王が動いた
「早くせぬか!剣を持て!」
王が言う剣。それはもちろん王剣だ。この国で最も最上の剣と言われる宝剣を持ってこいと言われている
王以外扱うことを許されぬ剣。それを貸そうと言っている。
もってこいと言われた兵士は他の将軍達に助けを求めようとしたが、二度目の王の声に剣をとりに行った
とりに行っている間、広場は騒然とした
「オイオイ王に剣を借りるのかよ?傷つけられないじゃないかよ。」
「だったらあんたが使え。その代わりあんたの剣を貸してくれ。」
「そりゃ、乗れねぇ相談だ。これは愛剣だ。誰にも使わせねぇ」
大刀を抱きしめる男など見ていて気持ちいいものではないが、竜将軍の口角があがる
「お!!あんた笑えるのか!?」
「俺も人間です。喜怒哀楽はあります」
「竜は人ではないはずだぞ?」
「人を化け物のように言わないで欲しい。俺は人だ」
「だったら、人らしく堂々と戦おうぜ!!」
ニヤリと笑う李将軍は人を引きつける魅力があった
恭しく王に差し出すと、王は柄の部分を握りしめた
「竜将軍!!これを使え!」
竜将軍は高見台に近づき下から仰ぎ見る
閃は膝をつき王自ら剣を手渡した
「必ず勝て。良いな。」
渡す際に小声で竜将軍、神楽だけに聞こえる声でささやいた
竜将軍はしっかりと頷いて李将軍へと振り返った
柄を握り、鞘からスルリと刀を抜いた
それは見事な太刀だった
刃が光り、刃紋薄く浮かび上がり、峰は見事に反り返り宝剣と言うより妖刀と言った方がいいくらいなほど魅せる刀だ
二、三度素振りをすると嫌なほど手に馴染む
「おいおい、もういいかい?」
大刀を肩に当てて暇そうに立つ李将軍に向き直る
「待たせた。いざ勝負。」
鞘を地面に突き立て、右手だけで太刀を構える
おどけた雰囲気が一瞬で消えた
またピリリとした張り詰めた雰囲気になる
「はっ!!」
李将軍が先に動いた
また同じ突きを繰り出した
だが今度は後ろには逃げない
太刀の刃に当て突きの軌道を変えた
そして竜将軍は一歩踏み出し、向かってくる李将軍の右頭部に思いっきり左肘を打ち付けた
そのまま吹っ飛んだ李将軍は何とか受け身をとって立ち上がろうとする
だが一歩を踏み出すたびに膝に力が入らない
ぐらりと倒れて地面に倒れ込む
「動くな。軽い脳震盪を起こしている。無理に動こうとすると、吐き気に襲われる。休めば治る。動くな。」
いつの間にかそばに来た竜将軍は李将軍の脈をとって呟く
「ちっ。負けちまった・・」
それだけ言って李将軍は意識を失った
「誰か、救護班を呼べ!!李将軍を休ませろ!!」
「将軍!!!」
李将軍のマントを受け取った副官達が現れ、剣を抜いた
「将軍に何をした!!」
「離れろ!!」
怒気がものすごく何も聞き入れようとしない副官達に、その場を任せ竜将軍は立ち上がった
「待て!!李将軍に何をした!!返答次第ではただでは済まんさぞ!!」
「殺してやる!!」
「やめないか!!李将軍はただ気絶しているだけだ!!」
一触即発の雰囲気を破ったのは聞き慣れた声だ
「阿宗医師。」
「阿宗将軍!!こいつは!!」
「将軍?」
「すまないねぇ。竜将軍。君には言おうと思っていたのだが遅くなってしまった。これでも将軍なのだよ。」
好々爺のような笑みで笑いかけてくる阿宗将軍
「君たち、何をやっているんだい。李将軍は本気で戦ったのだよ。堂々と戦ってそれにケチを付けるとは何事だ!勝者を貶すことは敗者を侮辱することだ。それすらも分からないとは、それでも副官か!!」
あの温厚を人で表したような人物が声を張り上げた
誰もが唖然とした
「ということで、陛下。これ以上彼を、竜将軍を見せ物のように扱うことをお止めください。この者は強い。将軍にも勝る力を持っております。ですが怪我をして、左手が使い物にならなくなってしまうことを今すぐにでも止めたい。竜将軍をお借りします。」
「誰か!!!大変だ!!虎が!!!」
阿宗医師が竜将軍の手を掴もうとした瞬間、遠くから叫び声が聞こえた
「陛下!!申し上げます!!と、虎が、町で捕らえた虎が脱走いたしました!!」
「何!見張りはどうした!」
「それが見張り場にも兵はおりません!!何処に行ったのか分かりません!」
「もうよい!虎を撃ち取れ!」
王の号令と共に走り出した者がいた
人垣に走り出し、剣を地面に刺して途中にあった自分の棒を掴む
人垣の一歩手前で棒の先端を地面に突き立て、棒高跳びの要領で体を宙に浮かせた
人の高さより高く飛んだ竜将軍は未だ固まっている兵の肩などに着地して飛び石が代わりに人垣を跳んでいった
肩を使われた者は叫び声はあげる
「スマン!肩借りた!」
そう叫んで、人垣を抜け地面に着地した
そして叫び声と虎の唸り声が聞こえる方に走り出した
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