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王の竜玉  作者: ito
26/87

多くの敵に多くの味方

それから一刻もしないうちにその噂は広まった

誰もが竜将軍に戦いを挑み、勝てば近衛兵隊長になれるという


この噂を聞きつけたものは、我先にと竜将軍のもとに急いだ

ほぼ璉国軍の全体の人数が治療室の天幕の前に並んだ


「オイ!!ここに竜将軍って奴がいるんだろう!!」


「さっさと出しやがれ!!」


「そいつ倒してオレ様が近衛兵隊長だ!!」


天幕はそれほど大きくないため多くのものに押し合いへし合い競れ、中央を支える柱や周りの柱がギシギシと音を立て、今にも倒れそうだ


バサッ

天幕がめくられ真っ白な仮面に血みどろの格好

あきらかに少年のような背格好の者が現れた


「あんたが「うるさい!!ここを何処だと思っている!!ここでは未だに治療たたかいが続いているんだ!!騒ぐんだったら別の所にいけ!!!」


まるで雷が落ちたかのように大声に先頭に立っていた者達は耳をふさいだ


「戦いを挑む者は昼からにしな!!今は治療中だ!!」


圧倒的な覇気に誰も文句は言えず、オドオドしていると竜将軍はまた治療室に戻っていった


「よろしいのですか?竜将軍」


「嫌みですかそれは!!阿宗医師敬語などいりませんよ!!明らかに私はあなたより若いです!!」


「イヤイヤ分かりませんよ。もしかしたら私の方が若いかもしれませんよ。」


髭を生やして好々爺のような阿宗医師が少年のような竜将軍より年が若いなどあり得ないがどうこの阿宗医師は竜将軍をからかう癖があるようだ

だがそのからかいが竜将軍を穏やかにさせてくれる

変わらぬ態度に竜将軍はホッとする


「それよりよろしいのですか?王の傍にいなくて?」


「いいのです。王には許しを得ています。今はここにいる者達の治療が優先しなければいけません。」


「そう言っていただければ嬉しいのですねぇ~。猫の手も欲しいと思っていたのに竜の手がやってくるなんて。」


「このような無骨な手ですがよろしいですか?」


二人で顔を見合わせ笑いが起きる


「誠に王は良き方を将軍に迎えた。あの恐ろしさはいただけないが、人を見る目はあるようだ。」


「買い被りです。私はそんな凄い人間ではありません。」


「では何故、将軍などに?あなたが地位などに興味があるとは思いませんが?」


竜将軍はどこか儚げに口元に笑みを浮かべて


「昔・・両親が言ったんです・・・。すでに他界してこの世にはいませんが、良き両親でした。両親から治療のしかた、薬草などを学びました。」


どこか遠くを見ながら話す竜将軍に阿宗医師は黙って聞き入った


「両親は多くの者を救おうと、山から下りて戦場に行きました。戦場では負けた璉国軍の者達が傷を負っていた。しかし、勝利した敵国は、璉国の民を奴隷のように扱い、死に至らしめる光景を見てきました。戦場で傷つかなくても、人として扱って貰えず奴隷として扱われ、死んでいく者が多かったです。いくら治療の知識があっても死んだ者を生き返らせることは出来ない。生きていればいいんだ。同じ土の上に立ち、帰りを待つ家族、友人その人には生きてきた歴史があり、人である。何処の国に生まれようと、人として生まれてきた以上、人として活かしたい。だからこそ治療をさせて貰えるなら将軍でも何でもしてやる。」


「やはり王は良き方を将軍にされた。」


今まで黙って聞いていた阿宗医師が口を開いた


「?何処がですか?」


「命の尊厳を知るものこそ、人の上に立つべきだ。あなたはよく、人を理解している。あなたが竜将軍としてやっていけるよう、微力ではありますが、私は竜将軍を応援させていただきます。」


「オレもオレも!!」


「阿宗医師抜け駆けはダメッスよ!!」


いつの間にか聞いていた治療を受けている者や医師達は竜将軍の治療に尊敬を抱いていた


「最初は胡散臭かったんだけど・・・すんげぇー怒って生きるようにいってくれたからオレは今ここにいる!!アンタにはホント感謝してる!!」


「オイオイアンタって!こちらは竜将軍様だぜ!そんなタメ口いいのかよ!!」


「おっといけねぇ!!えっと大変失礼いた・・しま・・した?」


「なんだよその片言は!!」


「かまわない。好きに言え」


治療室は笑いが日が空高く昇るまで絶えなかった


この時竜将軍は気づいていなかった

この阿宗医師、別名白の将軍。歴とした将軍職に就いた武人である。だが、戦う場所は治療室という戦場だ。

多くの者に慕われ、兵以外に民にも慕われている。

その白の将軍が竜将軍に敬意を払った

これはかなりの後ろ盾だ


それは人伝いに伝わり多くの者に知れ渡った

阿宗医師が付くなら俺たちもと続くものが多くいた



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