竜の誕生②
「待て!これ以上の待遇を望むのか?」
王の呼び止めに仮面の者は足を止めた
「陛下。誰がそんなものを望んでいると言いました。私はあなたこそが王だから守りたいと言っただけ。地位とかそんなものに興味はない。別の方を付けてください。軍に入隊したいだけです。それがダメなら、単独で動きます。」
「そなたを軍にいれるわけにはいかない。だがその力を発揮しないのはもったいない。どうだろう。私の傍で力を使わぬか?」
「使いません。分からないのですか?ここには多くの臣下がいるのですよ。王を支える臣下の意見を蔑ろにして、私を近衛兵に?誰が私の命令を聞くのです?あなたが勝手に決めた近衛兵などに!」
まるで幼子を叱る母のような言い方に誰もがぽかんと口を開けて見入った
「ふはははははは!!王に対してこの意気込みよう。まさに素晴らしい。王と対等に意見の言える存在。そなたに名をやろう。その強さまさに竜のごとき強さ。そなたは竜。竜将軍。近衛兵隊長として私を守って貰おう」
「何度言えばよろしいのですか!断ると「ならば采駕国の兵を治療するそなたは反逆罪で捕らえてもよいのだな?」
「なっ!!」
「そなたが虎で傷ついた采駕の兵を治療していると報告があった。この璉国に対する反逆罪ではないか?」
「ふざけることを言うな!!」
王の冷たい瞳が見つめる中仮面の者は怒りを含んだ声で反撃した
「他国であれば治療は許さぬと!さっきまで争っていたから?敵だから?ふざけるな!!!!敵だからこそ、解り合う努力をせねばならない!憎しみ続けてはこの国の繁栄などありはしない!!」
今にも王に掴みかかりそうな怒気に誰もが怯んでいた
「戦いに負けた国の民を蔑んでどうする。同じ自国の民のように慈悲を与えねば火種となろう。この璉国は大国だ。それくらい大きな器がなければ端から崩れ落ちて言ってしまう。土台である民をしっかりと結びつけ、この国を繁栄させていかねばならないのに、あなたはこの国を繁栄させたくはないのか!!!」
パチパチパチ
息を荒げて話した仮面の者に閃は両手を叩いて賞賛した
「誠にこの国を深く愛し、守ろうとしている者の言葉だ。だからこそ、そなたに、いや、竜将軍にこの国を一任して欲しい。そなたが民のとの交流を深め、他国とも友好を深め、この国の繁栄に一役買って欲しい。だからこそ、近衛兵隊長を任せるのだ。皆も異論はないな?」
王の見つめる瞳は異論は認めないという強い思いが込められていた
「・・・・・っ」
「お待ちください、陛下。」
仮面の者、竜将軍が声をあげようとしたとき
それを遮るように紅凱聯将軍が声を上げた
「陛下、確かにこの者は強うございます。しかしこの者に近衛兵隊長に命じれば兵が許すはずがありません。段階を踏まず、このような破格の昇格はお考え直しを」
軍最長の紅将軍が反論すると誰もが声を上げた
「そうです。近衛兵隊長は紅将軍がもっとも適任です!」
「このようなおかしな者にこの国の象徴である竜を名に与えるだけでも破格の恩賞だというのに!!」
「どうかお考え直しを!!!」
平伏して顔を下げる者達に
「一つだけお聞きしたいことがあります。」
仮面の者から声が上がる
「なんだ?」
「もし・・・もし私が・・ここでお引き受けしましたら、・・・他国といえど治療を施すことを許していただけますか?」
「約束しよう。」
「・・・では、お引き受けいたします。」
その場が水が打ったように静かになった
仮面の者、いや今この時をもって竜将軍となった者は王の前で右腕を胸に当て、左手は地面につき左片膝をたてた状態で頭を垂れ、璉国の正式な軍ならではの最上級の礼をとった
閃は苦々しい思いで、竜将軍の礼を見ていた
だが、ポーカーフェイスの閃の表情の変化など微々たるものだ
それに気づく者など誰一人としていなかった
「では、竜将軍として近衛兵隊長に任じる」
「いえ、お待ちください。近衛兵に命じられる前に一つ、お願いがございます。」
「なんだ?」
「このままでは多くの兵や民に示しがつかないでしょう。そこで私を試させて貰えないでしょうか?」
「試すどうやって?」
「武力、軍略、兵との友好など多くの点で私を試させてください。」
「そんなもの試すまでもない!!」
「そうだ!!お前などに軍を任せられるものか!!」
このままでは軍の最高位が奪われると焦った将軍達が次々と声を上げた
「でしたら、私を打ち負かしたものが次の近衛兵隊長になればよろしい。」
「「「「えっ」」」」
「私は自分の実力がどれほどかは知りません。ここにいる誰よりも弱いのかもしれません。されどこの国を守ろうという気持ちは誰にも負けません。武力、知識などで負けるようなことあれば、それは私以上にこの国を思うものだと思い、その方に近衛兵隊長をお譲りします。陛下それでよろしいでしょうか?」
「私がそなただと決めたのにか?」
凍てつくような目が将軍達を見つめる
「陛下。人が礼をとったり頭を下げようと思うのは、人の品格にあります。無理矢理頭ごなしに頭を下げさせても、反発を生むだけです。皆、人などです。私は無理矢理は嫌いです。皆に認めて貰ってこの地位を得たいと思います。大丈夫、陛下。私は負けません。信じてください。」
その言い方はどこか、村にいた頃の神楽と同じ言い方だった
卑怯だ・・・そんな言い方をしたら、認めざる得ないじゃないか・・・
握った拳が手に食い込み、血を滲ませる
「わかった、だが、必ず勝て。」
「心得ました。」
立ち上がり真っ向から閃を仮面越しに見える
閃が傷つき、苦しんでいる姿がありありと分かる
・・・ごめんなさい・・・私はあなたを最後には利用してしまうのね・・・
クルリ振り返った竜将軍は将軍達に
「では将軍方。腕に覚えがあるというのなら、どうぞいつでも勝負をお受けします。」
大胆不敵に戦線布告を出した
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