竜の誕生①
「よく集まってくれた。早朝だというのに町の者にも感謝する。」
集まった者達は王の第一声に度肝を抜かれた
あの王が感謝の言葉を口にした
平伏して閃の表情を覗うことは出来ないが、声音は穏やかだ
これは何かあると王の怖さを知る将軍達は誰もが思った
「さて、集まってもらったのには訳がある。仮面の者に対する処遇を決めるためだ。まず一つ聞く。町の者達よ。どうやってそなた達はこの戦いに勝利したかだ。あの時、虎が采駕国を襲っていなければ采駕は混乱することはなかったであろう。タイミング良くあのようなことが起こるものだろうか?」
確かに王の声は穏やかであるがどこか確信めいたものが含まれる
だがそれの分かる者達はいない
「陛下。この件につきましては私から申し上げます。私、町の長をつとめております、主禅と申します。この度の戦では、仮面の者には多くの者が救われました。かの者は私たちを火から守るため風上に案内しました。そこには多くの者が集まりました。人が集まれば虎も集まります。あの時は、命を落とすのではないかと心底怯えました。ですが5頭もの虎をかの者は一人で相手をし、私たちに守りました。」
「5頭もの虎を一人で相手にだと!!そんなの無理だ!」
「化け物か!」
将軍達からあり得ぬと声が上がる
それを閃は手で制止、先を促す
「それだけではありません。私たちに、家の扉の木板や窓板を外させ、火を持つように命じました。そして北門から通じる大通りから横に伸びる横道を私たちで固めるように言ったのです。そうすることで北門に続く大きな一直線の道が出来たのです。通りの中央に仮面の者が立ちはだかることによって虎がそこから出ることを防ぎきました。そしてどんどんと北門に追いやりました。そして私たちも仮面の者の後ろに回り込み火で北門へと虎を追い込みました。そこで扉が開いたのです。虎は仮面の者に勝つことが出来ず開いた扉に駆けだして行ったのです。そこで仮面の者が虎だ!逃げろと叫び采駕国の混乱を引き起こしたのです」
だれもが、主禅の言葉が信じられなかった
ただ一人閃以外は・・
誰もが口を開けず、黙り込んでいると
「失礼します。こちらでよろしかったでしょうか?」
幕を捲り上げ話の中心人物が入ってきた
その姿はやっと成人を迎えたかと言うような幼さの残る身長
顔は見えぬが老けているようには見えない
だが幼いというような感じはしない
大人と子供の中間といった仮面の者
誰もが訝しげな視線を送る
「仕事は終わったのか?」
「ハイともイイエとも言いづらいです。治療は一段落を終えましたが、このあと包帯の付け替えや食事の配布ややるべき事は山積みですが、それではここに来るのが1週間以上先の話になると、阿宗医師に言われてきました。」
平伏もせず王と真っ向から対峙して話す仮面の者に誰もが興味惹かれた
「そうか・・よく来てくれた。そなたには二度にわたる我が軍の勝利を導いてくれたことに対する褒美と待遇を考えていた。」
将軍達は無礼だと分かっていても顔を上げて王を見た
「そなたを私の近衛兵隊長に命じる。」
静まりかえったテントの中で王の言葉だけが響く
王の近衛兵隊長といえばそれは軍の中で8つの将軍職と並び称される地位であった。
長年勤めた将軍でさえつくことは出来ず、強さ、知識、指導力多くの事を必要とされ、軍に入った者なら誰もがなりたいと憧れを持つポジション
それをこの一切の身元不明の者にその地位を与える
破格の昇格である
「なりませぬ!!何をお考えですか!!このような者にその様な地位を与えるなど!」
「そうです王!!確かにこの者によって勝利は得ましたが、このような者に与えるなど!」
将軍達や官吏の者達が声を荒げる
「黙れ」
王の一言に誰もが口を閉じるしかなかった
静かになった空間で渦中の人物が口を開いた
「お断りします。」
ただ一言言い放つと仮面の人物は天幕から出ようと入り口に足を向けた
長くなりましたので、二つに分けます。
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