人を引きつける者
数刻後は采駕国の完全降伏となった
璉国側は勝利に沸いた
軍に数名の犠牲者のみで采駕国との戦いに勝利
次から次に沸く勝利に陣中で祝賀会を開いた
「にしてもどうやって虎があんな場所に?」
「どうやって采駕国はあんなに混乱したんだ?」
将軍達は町の有力者達を集めて酒を交わしていた
酔いが回り無礼講のようになり将軍達はふと思った疑問を口にした
「ははははっ。それは、あの仮面の方のおかげでございます。」
「はい。あの方のおかげで助かりました。」
「あの方は璉国の兵の方ですか?」
町の者達は拝むような仕草で笑顔で話した
その答えに将軍達は顔を見合わせ、何とも表現しづらい顔をした
ガタン
一番上座に座っていた王が立ち上がった
その場にいた者達はすぐさま上座を向いて平伏した
王はカツカツと足音を立てて町の有力者に近づく
「その仮面のものは今どこにいる?」
いきなりこの国のトップに話しかけられ町の者は自分に話しかけられているとは全く思わず、ブルブルと震えていた
「聞こえておるのか・・・仮面の者は何処におるか知らぬのか?」
「は、は、は、え、ええっと・・・」
閃の圧倒的な覇気にうまくしゃべることが出来ない
一向にどもる有力者達に溜息をはき
「もうよい・・・自分で捜す・・後は勝手にやっておれ・・」
王はそれだけ言い残すとマントを翻して外へと出て行った
外に出ると所々に松明が夜を明るく照らし、月と星が空を支配していた
ふと目を向けると、一カ所に人だかりが出来ている
・・・あれは・・・治療場か?何故あのような場所が?・・
閃の足が進んだ
そこに引きつけられるように閃の足が一歩一歩前に出る
「痛い!痛い!痛い!」
「痛いと感じられることは生きてることだ!良かったな!生きてるぞ!!」
「あはははは!確かにそうだ!!」
治療現場といえば戦いの最後の戦場といってもいい
このような質素な場所で満足な治療が受けられるはずもなく、亡くなる者が多かった
ここに運ばれると言うことはもう自分は助からない、生きて故郷には戻れない、その様な思いがこの場所は暗く、陰気な場所で笑い声があがる場所ではない
この声は!!
閃はすぐさま治療現場に足を踏み入れた
治療にきていた者達は明らかに身につける者が違う存在に道を空けた
一歩一歩歩く王の纏う雰囲気にのみ込まれた
「痛い言ってるだろ!」
「死ねば痛いとも感じない!生きてるからいいだろう!少しぐらい我慢しろ!」
この言い争うは聞いたことがある
村にいた頃神楽が薬師として治療する患者との言い争いに似ている
中を見ると仮面の者はそこにいた
全身を血に染め、言い争いながら治療に励む姿
そこの治療室にいるのは兵士ばかりではない
町の子供達や女性達や老人達
「よし!これでいいよ!あまり無理に動かそうとするな!2,3日はおとなしくしていろ。あとはこの苦い薬を飲んでおけばいいだろう。」
「苦いのかよ・・」
「ガキじゃないんだ。少し苦いくらい我慢して飲め!」
またドッと笑いが出る
賑やかな雰囲気が仮面の者から作り出されている
「あっ!陛下!!」
閃に気づいた兵士の一人が声をあげ、慌てて礼をとった
それに続けとその場にいた者達は礼をとった
ただ一人仮面を被った神楽だけは立ったまま動こうとせず、閃を真っ直ぐに見つめてきた
「・・・何をしている?」
「治療中です。何かご用ですか?」
閃の瞳を真っ直ぐに受け止めた神楽は物怖じすることなく答えた
「・・・何故ここにいる・・・去るように命じたはずだが・・」
抑揚のない声は閃王の威圧感を与える
ガタガタと震え出す兵士や町の者まで現れる
「質問があるのなら後で答えます。今は治療中です。邪魔ですので出て行ってくさい。それとも何ですか?手伝ってくれるんですか?その陰気な雰囲気で!!」
ぎょっと多くの者が神楽を見つめた
この国の最高権力者にこのような無礼を働いてただで済むはずがない
この仮面の者がとった行為は反逆罪で今すぐ斬られてもしかたがないことだ
誰も何も言わない時間が過ぎた
ただ閃王は仮面を付けた者をただひたすらに見つめ
「・・・ついてこい、話がある・・」
「今は治療中だと申し上げたはずですけど。」
「王の命だとしてもか?」
「今すぐその言葉を取り消しなさい!!!」
いきなり仮面の者が勢いよく声を荒げた
「ふざけたことを抜かすな!!民あっての国で王であろう!その民を治療中だと言っている!あんたの民だ!その民の命を蔑ろにするな!!」
誰もが目が点になった
この者が言っているのは確かに正論のはずだが、誰に向かって言っている
確実にこの国のトップに向かってこの怪しき格好の者が無礼を働いている
誰もがこの仮面の人物は死に急いでいるのではと思った
「失言だった・・」
だがその思いと裏腹に王がいきなり謝った
誰もが目をこれ以上ないほど大きく開けた
「ご無礼をお許しください。治療が終わりしだい覗います。今はあなたの民を全力で救います。」
この時初めて仮面の人物は頭を下げた
閃は神楽の医術のすごさを知っていたからこそ
「頼んだぞ。」
「はい」
その返事を聞き終えるとマントを翻して自分の天幕へと足を向けた
王が去った治療室では
呼吸を取り戻した者達が少しずつ現状を把握しようと動き出した
「あんたスゲーなぁ~!あの王様に対してスゲ~物言い!」
「人であるなら正しいことが分かるだろう。あの方は王だ。私が認めた王だ。アレだけ言ってもきちんと分かってくださる。信じているから。」
「へぇ~なんか、昔から知り合いみたいな言い方だな。」
「知り合いではない。ただ、この国を立て直してくれるのはあの方だと思ったから、信じているんだ。」
「あんたが言うと、なんか信じたくなるなぁ」
「信じてやって欲しい。この国の民なら、この国の王を。さぁ!みんな、手を動かして!早く行かないと私の首が跳んでしまう。」
「そりゃ大変だ!何か手伝えることはないかい?怪我はしているが、動けるから手伝うぜ!」
「俺も俺も!!」
仮面の者は次々に指示を出してみんなを動かした
兵だけではない、町の者達が仮面の人物の指示に従っていた