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王の竜玉  作者: ito
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戦う姿、まさに竜の如し

拙いですが、戦闘シーンがあります。血は流れませんが、惨いシーンがたくさんあります。自身の責任でお読みください。


戦場は都からすぐの場所であった

璉国に一番近い隣国、紗萄国しゃどうこくである

一番の隣国と言うこともあり長年にわたり璉国からの支配を受けてきた

璉国が傾いたことを知った紗萄国は積年の恨みのごとく璉国に攻め入った

その怒濤の勢いはどの国よりも激しく、最初に璉国から勝利を得たのもこの国である

その紗萄国の第一王太子がこの度王座に就くための国民へのアピールのため璉国との戦に出てきた

今まで連勝のため紗萄国も余裕を持ったのだろう


だが、これ以上舐められるわけにも行かない璉国としては朗報だった

ここで第一王太子を捕縛できたならば、紗萄国との和睦が出来るかもしれない

そのためにもこの戦には絶対に勝たなければいけない

両国の思いが様々に絡み合っていた


20メートル位ある大きな崖があり、その崖を伝うように流れ落ちる滝が作り出す川の対岸に両国は陣取り、お互いの動きを見張っていた

連日降り続いた雨によって川は濁りはしているものの、あまり増水してはいなかった

今も降り続く雨によってこの戦は長続きしそうだった


だが、それは両国にとっては不利であった

紗萄国は連勝によって勢いが付きすぎてなかなか戦が止められない状態であった

そろそろ止めるべきだという声を無視して国が疲弊しているにもかかわらず戦いをしていた

国民はからは不満の声が広がっていたため王太子の勝利をもって戦を少し中止しようと考えていた

璉国にとっては度重なる連敗によって兵は疲弊しきっており、士気は低すぎる

王が前線まで着たというのに見つめる目は恨みが込められている

そして王自らが持つ神楽という悩みがあった

戦に行く前の彼女の言動があまりにもおかしかった

すぐさまにでも終わらせて帰りたいがこの状況下では無理だ


何度目かの作戦会議が終わり、本部が置かれているテントの幕を脱ける

空は濁った色を浮かべ、雨と雷を地へと叩き付ける

太陽が拝めないので時間の感覚が鈍るが夜の時間帯であろう

村にいる頃と比べて質の良い着物を多く着込んでいるが肌寒く感じるからそうであろう

よどんだ空気は璉国の士気を象徴しているかのようだ

ピカッと雷が空を一瞬照らす

その後大きな音が地面を揺らす

その恐怖が兵士の士気をさらに低くさせている


早く終わらせなければ・・・焦りが閃の心を支配する

空を見つめこの同じ空の下にいる神楽のことを思う


だが、その思いは紗萄国の奇襲によって打ち消された

雨によりいつか川も増水する

増水してしまえばまた戦は長引いてしまう

これ以上長引かせるわけにはいかない紗萄国は今の璉国の士気の低さならすぐにでも勝敗は付くと考え夜襲をかけてきた


いきなりの夜襲に璉国の兵達はどうすることも出来ず

またこれ幸いと近くにある荷物を持って逃げ出す者が多い

どんなに隊長達が号令をかけようと一気に混乱した兵達はどんどんと後退していく


紗萄国の兵達は川幅20メートル、深さ腰ほどの川を武器を抱えて対岸目指して向かってくる


「陛下!!ここは危険にございます!いったん引きましょう!」


8将軍のうちの最長の将軍である朱の軍、こう凱聯がいれん将軍が馬を連れて閃の元にやってくる


「この雨で兵達は疲れ切っています。これ以上ここにいれば無駄に兵を減らすことになります。どうか、お引きください。」


閃は手のひらに爪が食い込むほど握りしめた

初戦でいい結果が残せなければ国民は王家にさらなる反感を持つであろう

そうなれば、国は一気に傾いていくだろう

何としても初戦は勝ちたかった

だがこれ以上、犠牲を増やすわけにはいかない


「・・・全軍に撤退を命じよ」


その言葉を発し閃も馬に跨る


「全軍一時撤退!!!」


将軍の声に兵の後退速度は速まる

紗萄国の数名が対岸に渡り着いたときだった



ダーーーン・・・ダーーーン・・・

空気を振動させる音が響いた


その直後だった大きな雷が空を割った


「お!オイあれを見ろ!!!!」


後退している璉国の兵が滝が流れる崖を見上げて叫んだ

璉国の兵達の目は一気に引きつけられた

崖の頂上で一頭の白い馬が前足を上げ嘶いている

後ろには雷が光り、馬の上に乗った人を不気味に映していた


馬の振り上げた足が地面に振り落とされた瞬間

崖が動き出した

いや、雨によって軟らかくなった土が馬が与える衝撃に耐えきれなくなり、崩れだした


一度崩れだした崖は止まることを知らず、すぐ真下にいる河を渡ろうとして腰まで水につかった身動きの出来ない紗萄国軍の兵達に襲いかかった


一瞬でのみ込まれる敵国の兵達

叫び声、木々の崩れる音

地面が全てを押し流す音


川から離れていたので璉国の兵達はのみ込まれずにすんだが、

あまりの地響きに兵達は腰を抜かし

馬に乗っていた者は馬の興奮を抑えられなかった者は振り落とされていた


「な、なんだこれは・・・」


閃は素直にそう呟いた

目の前の出来事が信じられなかった

数刻まで頭を悩ませていた兵達が一斉に土に飲まれていった

何が起きたのか誰も分からない

誰も動くことが出来ない


崖が崩れて数分も経たないうちに

地面がやっと落ち着いた


ダッダダッダッダッダダッダ・・・

馬の駆ける音がする

崩れた崖が急ではあるが斜面となり、崖の頂上にいた馬がその斜面を駆けている


そしてそのまま紗萄国の呆然とした本陣まで一気に駆けていく

本陣まで土は流れ込みそこにたどり着くのはたやすかった

混乱した本陣は守る者もおらず

逃げまどうばかりであった

その中に一人上等なマントを纏い、傷一つ付いていない鎧を着けた青年が腰を抜かして座り込んでいる

誰もその者を守ろうとはしていない

自分自身を守ろうと必死で、侵入者が入ってきているのにも気づかない

一気にその青年の元に馬を駆けさせ


「御身もらい受ける」


青年の腕を掴み引き上げて本陣から立ち去った

気づいた者もいたが気づいたときには璉国側へと走り去っていた


川はすでになくなり、土が流れている

その上を一気に白い馬が駆けていく

その馬の背には二人の影がある

璉国は近づいてくる馬に怯える


「陛下にお目通りを!!!敵の大将をお連れした!!」


まるで雷のように通る声だ

璉国の兵に全て伝わるような声だった

見ているものは怯えた

雷の雷光によって映し出される姿は不気味だ

真っ白な仮面が怪しく闇に浮かび、身なりはボロボロの衣服である

腰には剣を差しており、背には2メートルほどの棒が右肩から見えている

馬の背から降りたた不気味な存在は青年を右腕を捻り上げ背で押さえている


「歩きなさい・・・抵抗しなければ危害は加えません・・」


「ひぃぃぃ」


青年は180cmはあるがそれより頭一つ分ほど小さい者に怯えている

多くの璉国の兵が呆然としている

仮面をつけた者が紗萄国の青年を前々へと押し出す


二人を導くように兵達が避ける

雨音と雷鳴、二人の歩く音と兵の避ける音が静寂の中響く


黒の軍馬に跨った閃王の前にたどり着くと

仮面を被った者は青年を引っ張るように雨にぬかるんだ土の上に座らせる

そして自分も片膝を付いて頭を下げた


「お初にお目にかかります。私名も無き者にございますが、陛下の軍の一兵として志願したく参上いたしました。」


閃は身も凍るような思いだった

この声は聞き間違うはずがない

もっとも愛しい人の声だ・・・神楽だ・・・

馬の綱を持つ手がギリリと音を立てる

名を呼びたいが、呼ぶわけにはいかない

この戦場に女がいるということがバレるならば彼女の身に何が起きるか分からない

守ると決めた者がこんな危険な場所にいる

なんとか冷静さを保ちながら


「・・・名はないというが、一体何者だ・・・」


震えてはいないが神楽は閃の声の違いを気づいていた

ごめんなさい・・・閃・・私はこんな事でしかあなたを守れない・・


「・・・産まれたときより、名など持ちません。生まれも育ちも山の中。一人で生きて参りました。この世に命をかけてもよい方を捜していました。我が御前にいる方こそ我が命をとしてでも守るべき方だと思い、微力ながら戦いに参加させていただきました。」


神楽の嘘が閃を拒絶しているかのように聞こえてくる


「微力どころか、そなたのおかげでこの戦いは終わった。礼を言う。されど、そなたのような身元の分からぬものを軍には置くことは出来ない自分のあるべき場所へと帰れ。」


閃は何とかして神楽をこの場所から遠ざけたくてわざと冷たい態度をとる

凍るようなまなざしで神楽を見つめる

いつもの閃王を知っている臣下達は背筋が凍る思いだった

だがそんな冷たい視線を全く気にしないかのように


「はっ。心得ました。では次の戦場でお会いしましょう」


そう言って、連れてきた青年をそのままに置き去りにし、馬に跨った


「それでは、御免」


雷鳴が鳴り響く中、閃に背を向けて神楽は馬でかけた


呼び止めることもなく、その姿が小さくなるまで閃はその姿を見続けた



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