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王の竜玉  作者: ito
17/87

私とあなたの距離


神楽は何度目かの脱走に成功し、城の廊下を柱に隠れながら進む

ここ何日かの楽しみは兵部尚書だ

ここでは多くの兵が武術の稽古に励んでいる

その場に紛れて神楽は武術を学んでいた

体を動かすことは嫌なことを考えなくてすむ

また、人と話す事で音のある世界を取り戻していた

だがここで神楽は思わぬ情報を得る


「オイ、聞いたか!またあの冷酷王が官吏を罷免したらしいぜ!」


「これで今月3人目だ!王座に就いてから20人以上罷免している!」


「ひぇぇ~!恐ろしい恐ろしい!!」


休憩中に話している兵達の声が聞こえた


冷酷王?王って閃の事よね?何故冷酷王など?


「それってどういう事?何故王はそんなに罷免しているの?」


話している兵達の後ろから声をかけた


「オッ!お前新人の確か・・・」


らくといいます」


神楽はここで練習するため楽とういう偽名を使った


「あぁそうだった、楽だったな!そうか新人なら知らないかもな!」


「教えといてやるぜ、新人君!もし王宮で王に会うようなことがあれば気をつけろ!今の王は・・・人を殺すのが好きらしい!!」


「なっ!!!」


「あぁ、多くの官吏が罷免されて、罷免された次の日には家は空っぽで、何処にもいないんだとよ!」


「王に殺されたらしいぜ!」


「そんなことを王がするはずはないのでは!!」


「オイオイ、これは噂だぜ!それに、楼閣にいるのだって死人だって話じゃないか!」


「死人?」


「だって誰にも顔を見せないんだろ?相当の不細工女か、死人だろう?」


「あぁ、いやな奴が王になったぜ」


神楽は愕然とした

閃が外でのことを一切話さないので私のことで誤解を受けているとは知らなかった

そんな・・また迷惑をかけている・・私は・・閃に何も出来ないの?

迷惑をかけることしかできないの?

頭の中でグルグルと自己嫌悪に陥っていく


「あぁそういえば今度戦場に行くんだろう?」


「あぁそうらしいな。王様自らの戦場だろう?」


「えっ!?」


「なんだ知らなかったのか?新人?今度戦があるんだよ。」


「隣国の王太子様自ら戦場に出てるらしいから、王自らが返り討ちにするらしいぜ?」


「だけどよ、知ってるか?」


「えっ、何だよ?」


「この間、ちょっと警護中だったんだけどよ・・・今度、王様の暗殺計画があるらしいぜ」


「なっ!お前それって!」


「この間の警護中に誰か分かんなかったがそう言う話がされてた」


神楽はそれからどうやって楼閣に戻ってきたか分からない

気がついたときは日が沈み、間もなくで閃が来る時間だ

閃が与えた服に袖を通し、ウエストを帯で締める


だが手に力が入らない

締めようとした帯が弱々しく床に落ちる

早く着替えなければ閃が部屋に来てしまうと思うのに、手がガタガタと震える

膝から崩れ落ちて着物の上に座り込んでしまう

頬を一筋の涙が伝う

何故何も出来ないの・・・その言葉だけが神楽の頭を駆けめぐる


「神楽?・・・神楽!!どうした?何があった?こんな所に座り込んで!!」


いつの間にかやってきた閃は座り込んで泣いている神楽に慌てて駆け寄った

傍に駆け寄って神楽を見ると大きく開いた黒い眼から溢れ出す涙

乱れた衣服に一つの考えが浮かんだ


「ま・・まさか・・・」


神楽の両肩に手を置き


「だっ、誰かに襲われたのか!!!」


そんなことがあるはずはない

そう思うが、俺がこの部屋にいない時間はあまりにも大きすぎる

それに、寵妃神楽は宮中一の噂の的である

死人であったり、最高の美姫であるという噂がいつも耳に入る

その噂を信じて誰かが神楽を襲ったのではないか!!

神楽の肩を掴む手に力が入る


「っいた」


小さく声を漏らす

その声に反応するように手の力が弱まる


「・・違うの閃・・ちょっと・・村のこと思い出して・・涙が出ただけ・・着物は着替えている途中だったの・・」


「あっ・・そうだったのか・・」


フゥと溜息をついて閃はよくよく神楽を見た

吊帯長裙だけを着た神楽は肩を丸見え裾がめくれ、太もも辺りまで見える


ゴクリと音がする

潤んだ瞳、ずっと惚れ続けた少女が女の色気を出している

知らず知らずに閃の手が神楽の頬に伸びた


「・・・閃?」


何も言わない閃を訝しげに思い声をかけた

ビクン!!!

手が途中で止まる

神楽に触れてしまう、自分から触れることは禁忌タブーとしているため自ら触るわけにはいけない

途中で止めた手を握りしめた


「夕飯にしよう・・・その前にきちんと着替えた方がいい。外にいるから終わったら声をかけてくれ」

すくっと立ち上がり扉から出て行ってしまった閃


「ダメなのね・・閃・・私では閃の役には立てない・・」


その後二人は気まずい夕食をした

お互いに目を合わせることが出来ない

ただガチャガチャと皿の鳴る音だけが響く


「神楽、・・・話がある」


フゥと息を吐いて閃が意を決したように話し出した

真剣みを帯びた声に神楽も真っ正面から閃を見た


「・・・言いづらいのだが・・・今度戦場に行ってくる」


ガッシャン

持っていた箸が落ち皿にぶつかる


席を立ち神楽の椅子の横に膝をついて神楽を少し仰ぎ見る形で見つめる


「・・・君をここにおいていくことは本意ではないが・・・君を戦場に連れて行くわけには「行く・・・」


閃の言葉を遮るように神楽が言葉を発する


「閃私も行く・・・傍にいると約束しました・・・一緒に行きます・・」


「・・・神楽・・・ダメだ・・戦場では君をずっと守ることは出来ない・・」


「守る必要はない!!私は守らなくていい!!あなたを守るために「ダメだということが分からないのか!!!」


ダンとテーブルを叩いた閃は勢いよく立ち上がり

神楽を見下した

その瞳は怒り、悲しみ、焦り様々な感情が入り交じった眼だった

見たことのない瞳に神楽は何も言えなくなった


「君は・・私の傍にいればいいんだ・・・何処にも行かないでくれ・・寵妃として俺の傍にいればいい・・」


静かになった神楽を閃は抱きしめる

抱きしめてくれる閃の腕が冷たく感じる

今まで近くにいた存在が遠くに感じる


なぜ・・・なぜなの・・・閃・・・あなたが・・遠い・・





その二日後閃は1万の軍を率いて城を出た

神楽は城の最奥の後宮の楼閣からそれを眺めていた


楼閣の一番上から見える世界は人がまるで米粒のように小さい

何重もの赤い塀の向こうに黒々と動く軍の姿

人一人を確認することも難しい

その中に閃がいる

自分から離れていってしまった閃がいる

変わってしまった閃がいる

窓の欄干を掴み、外を見つめる

欄干の木がギシギシと音を立てる

神楽の手が強く握りしめ手の骨が浮き彫りになる


何故何も出来ない・・・何のために・・何のためにここに私はいるの!!!ただ守られる為だけに私はいるの・・違う!!絶対に違う!!守ると決めたのよ!!絶対に守ると!!!

外を見ていた目を部屋へと移す


部屋の一角には村から持ってきた道具がある

その中には閃の母の形見である

劇の女優として活躍していたときの小道具も混ざっていた

その中に薄気味の悪い真っ白な仮面がある

顔半分を覆う真っ白な仮面

白以外の色がなく、目の部分だけがくり抜かれ

眉すらも描いてない表情のない仮面

最初見たときは怖くて触れもしなかったが

今なら触れる

閃を守るため全ての感情を捨て去ろう

感情を無にしてただ一つ閃を守ることだけに命をかけよう

腰まであった髪を短刀で肩まで切り捨て、前髪をオールバックにして後頭部に集めてお団子にして糸で止める

仮面をつけ、仮面の米神あたりから伸びる紫の紐をお団子の下辺りで結ぶ

吊帯長裙を脱ぎ捨て、脱走の時に使う服装に着替える

着替えが終わり、準備は出来た

そして、部屋をもう一度見渡した


「愛してるから・・・守ってみせる」


決意を新たに窓から外に飛び出した



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