表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王の竜玉  作者: ito
16/87

すれ違う思い


それから、閃は甲斐甲斐しく神楽の世話を行った

朝は共に起き、楼閣の入り口に置かれる朝食御膳を閃自身が運び、朝食を共に食べ、閃は後ろ髪が引かれる思いで執務に向かう、だが、昼になるとどんなに執務がたて込んでいても、目処のいい所までは何が何でも終わらせて後宮にいる神楽の元に急ぐ

共に昼食を食べ終わるとまた閃は執務に戻るが、夜食も共に食べる

そしてそのまま、夜を共に過ごす


そのあまりの甲斐甲斐しい世話に誰もが開いた口がふさがらなかった


また女にだらしない王だよ・・・

はぁ、あの王もすぐにダメになるだろうね・・・

未だに顔を見せない姫様ってどんな人だろねぇ・・・


陰口をたたかれても、官吏達から忠告を受けても


「きちんと仕事はした。寵妃の元に行くだけだ・・」


この言葉の通り、閃はきちんと仕事をする

中途半端な状態で仕事を投げ出すようなことはない

また少しずつではあるが閃の政策は着実に実を結んでいた


そのため、官吏達は強く言えなかった

王にして欲しいことはたくさんあるが、もし後宮に行く道を妨げるようなことがあれば、閃の冷気を真っ向から受けなければならない

その冷気は身も凍るような冷気である

呼吸のしかたをすら忘れるような冷たい視線

全身から噴き出すような冷や汗

ガタガタと体中が震える

王が通り過ぎてもその冷気は体にまとわりつき寝込むことになる者も多い

文官ならまだしも歴戦の武官までこのざまでは誰一人として文句は言えなかった


そんな事があっているとは知らない神楽は起き上がるようになり少しずつ食べたり、動くようになった

もちろん動ける場所は限られてくる

楼閣の一番上の部屋のみであった

1回外に出ようとドアに手をかけたが鍵がかけられ出ることが出来なかった

少しぞっとした神楽は閃に頼み込んだ

だが、まだ体調が良くない、仕事が忙しいから案内が出来ないからなど色々な言い訳で外に出ることが有耶無耶にされた

外のことを知ることが出来るのは、部屋にある円い窓から見える景色だけだ


だが、これに黙っている神楽ではない

綺麗な衣服を脱ぎ捨て、乱雑ではあったが簡易の男性用の衣服を作り、腰まであった髪を大きめのお団子にまとめ、窓から抜け出した


赤い瓦に足を付け、身を乗り出した

見える風景に神楽は震撼した

楼閣の一番上から見える景色は

何処までも続く赤い瓦

青い空に全てを照らす太陽と雲

人は小さく見え、全ての大きさに息をのむ

ゆっくりと一歩一歩瓦の縁に移動する

縁から下を覗くと鎧を着た者たちが見える


音を立てないように瓦の上を歩き

下を覗き込む

下に兵がいないことを確認すると

瓦の縁に手を下の階の瓦に足を伸ばした

トンっと足が付いたことを確認すると縁から手を放し

下の階に移動する


1階1階降りるたびに周りを確認する

誰にも見られないように細心の注意を払った

地面に足が付くとすぐさま植木などに身を隠した

周りを確認するとここは兵がいないのか、静かだ

誰もいないことを確認して近くの建物に小走りで向かった

運がいいのか分からないが近くの建物には誰一人としていない

あまりの静けさに神楽も不審に思ったが

周りを把握したくて全神経を使って周りの気配を感じた

楼閣の見える範囲でだいぶ回ったが楼閣の入り口を守る兵以外全くと言っていいほど気配がない



ある程度見回ると神楽は楼閣へと戻った

そろそろ閃が部屋に来る時間帯だ

もしこれで部屋にいなかったら今度こそ鎖か何かで繋がれるかもしれない

急ぎ戻るといつもの空間音のない空間が広がる

ふわふわの布団が敷いてある寝台と色彩豊かな柄のテーブル

様々な調度品

色はあるが音がない

いや音がし始めた

ガチャガチャと下の階から鍵を回す音と足音と階段を上る音が聞こえる

神楽が心の中で数え出す

あと10,9,8,7,6,5,4,3,2,1扉の前

ガチャ

最後の扉が開いた


「ただいま!神楽!!」


満面の笑みで王族としてのふさわしい質素ではあるが質はいい着物を着た閃が現れた

閃は村にいたときより日に日に王らしくなってきていた


「お帰り閃。」


その閃を変わらず神楽は笑顔で迎える

閃は手に持っていた昼食を机に置くと神楽の手を引き、ふかふかのクッションが敷き詰められた長いすに神楽を導く


神楽を椅子に座らせると閃も座りゴロンと横になる

神楽の膝に頭を置き猫のように伸びーっと背を伸ばす


「う~~~ん!!疲れた!!神楽疲れたよ!」


疲れを見せない笑顔で疲れたと連呼する閃は神楽を促している


「ふふっ、お疲れ様」


そう言って神楽は閃の頭を撫でる

神楽と閃は身長差があまりにも大きいため

昔はよくしていた頭撫で撫でが神楽は出来なくなっている

それがつまらない閃はこうやって膝枕をねだり、神楽の太ももに置いた頭を撫でて貰う

こうするとどんな疲れさえ一瞬で取れてしまう

閃がどんなに神楽にこれを力説しても、神楽は絶対信用しない


だけどこうでもしないと神楽は閃に触れなくなってしまった

どこか一歩引いた状態で閃を見ていた

村にいた頃は全く態度が違う神楽に傷つきはしたものの閃は自分のせいで起きた村での出来事に強くは言えなかった

だからこうやって無理矢理にでも神楽に触れて欲しいため

こうやって膝枕を要求する


「神楽、ありがとう・・」


頭を撫でられていることに気をよくした閃はうららかな日差しと心地よい空気に睡魔が襲う


「寝てていいわよ・・少ししたら起こすから・・」


「でも・・ご飯を・・」


「大丈夫・・待ってるから・・起きるのを待ってますから・・」


神楽の手が優しく閃の目を覆った

すると、閃は夢の中へと誘われていった


太ももにある愛しい重みと温もり

ゆっくりと胸元が上下する

村にいた頃でもモテていた閃が日を追うごとにこの格好良さを増しているような気がする

小さい頃から閃を好きな贔屓目関係なく、目に力強さが増し、威厳が増していった

何度神楽が閃に心奪われてきたことか・・

惚れている相手だからこそ、何度も恋してきた

その度に自分の身が辛かった

自分は何も持っていない

何も閃にすることが出来ない

こうやって閃が頭を撫でる機会を与えてくれないと

閃は神楽に触れてくれない

村の頃は共に武術、学問を共に切磋琢磨してきて中で、触れ合うことがいつも当たり前だったのに、それがここにきて一切なくなった


夜を共にするといっても、男女の営みがあるわけでは全くない

ただ夜食を食べ、眠くなったら閃が神楽を包み込むようにして寝台に横になる

人の温もりがあると落ち着いて眠れる

一度閃が遅くなって神楽が一人で寝ていた

その時神楽は悪夢に襲われた

村が焼かれる光景が広がり、神楽に縋り付いて助けを求める村人達

助けたくても助けることが出来ない光景に悲鳴をあげた


その悲鳴を聞いて閃が駆け込んできた

ビッショリと汗を掻き尋常ではない荒い呼吸を繰り返す神楽は泣きながら閃にしがみついた

その日から閃は神楽を一人で眠らせないようにした


「ごめんなさい・・・閃・・あなたに迷惑ばかりかけて・・ごめんなさい・・」


閃の頭を撫でながら神楽はポツリポツリと本音を漏らす

何も出来ない自分を守ってくれる閃に何かしたいけど何もすることが出来ない

だがら、こうやって閃がして欲しいことを少しでもしよう

彼の疲れが取れるなら何でもしよう

ただ優しく閃の頭を撫でつける

眠りを妨げないように・・・


「ごめんなさい・・・」


神楽が泣いている

それだけで意識が浮上する

こうやって頭を撫でて貰って少し眠りにつくのは何度かある

その度に自分から触れることが出来ない神楽が触れてくれる

それだけで閃の心は救われた

自分のせいで神楽の家族を1度、いや2度奪っている


あの村の時から神楽を触れることはしなくなった

触る権利など俺には持っていないと思う

だからこうやって神楽から触ってくるようにし向けている

何度考えても俺ほど極悪な人間はいないだろう

神楽をこんな楼閣ばしょに閉じこめ神楽の自由の全てを奪っている

だがそれを文句一つ言わない神楽に俺はつけあがる

神楽を独占できる

これほど甘美な事実はない

俺の帰りを待ち、笑って迎え、こうやって触れてくれる

ずっと夢見てきた神楽との生活

手に入れることが出来ても満足感が足りない


何故俺の前で泣いてくれない

昔は俺の前では泣いてくれたのに、俺が眠っていないとお前は涙を流さない

その涙を拭うことは俺には出来ないのか!!

何度も目を開けて神楽の頬を濡らす涙を拭おうと思ったか

でも、それは出来ない

その涙を流させているのは・・・・俺のせいだ・・・

泣かないでくれ・・・お前を守るから・・お前を・・絶対守るから・・

お互いの思いを知らず知らず二人はすれ違う



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ