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王の竜玉  作者: ito
14/87

男の決意

今回はかなり残虐シーンが入ります。気分を害する恐れもあります。

気分を害しても一切の責任が取れませんので、自身の責任としてお読みください。




そして次の日

二人は晴れた空、村を出た

村から貰えた二頭の馬に跨り、都に向かった

離れていく村に神楽は哀愁を感じた

産まれて育った場所、義母と支え合った場所

閃と共に育ち、笑いあい、泣いて、喧嘩して、共に歩んだ場所を離れていく

心細さから溢れそうになる涙を唇をかみしめ、涙を堪えていた

閃は神楽の馬の横につけ


「今のうちに泣いておけ・・・、大丈夫。俺が傍にいる」


神楽が声を押し殺して泣いた


神楽は村が米粒ほどの大きさになっても何度も何度も振り返って見つめていると

村から煙が上がった

その煙はあまりにも黒く、大きな雲だった


神楽の心臓がドクンと嫌な音を立てた

その煙は何度も嫌と言うほど見たことがあった

村が焼かれる煙にあまりにも似ていた


「・・・せ・・ん・・」


小声で震える声に閃も何事かと神楽の視線を追った


「!!!!」


空を黒々と染める雲に、赤いものが混じる


「・か、義母かあさん!!!」


神楽は乗っていた馬の進路を変えた

おもいっきり胴を蹴り、馬は駆け出した


閃も続いて馬の胴を蹴ろうとしたが、


「お止めください!どうせ、賊にでも襲われたのでしょう。助ける必要などありませんよ」


見下したような兵の言い方に


「ふざけるな!!自分の国の民が苦しんでいるのにそれを野放しにすることが王の仕事か!!」


一括した閃は神楽の後を追った


あまりに遠くにきすぎていた

どんなに馬を駆けようとしても、先ほどから一歩も進んでないような気がする

気持ちだけが焦り、視界が滲んでくる



「はぁはぁはぁ・・・・」


村に戻ってきた

いや、村だった場所に戻ってきた


今日の朝に出てきた村はもうその場にはなかった

全てが灰と煙になり、空を黒く染め上げていた


「か、義母さん!!義母さん!!」


神楽は馬から飛び降り走り出した

生まれ育った場所なら目をつぶっていても、歩いていける場所だがこんなにも変わり果てた姿に頭が混乱する

道ばたに黒こげになった物言わぬ存在になった者達が多く倒れていた


駆けた先に家はあった

全てが灰となった状態であった


入り口だった場所に立ってみた

手を伸ばせば立て付けの悪い扉があるはずなのだが今は、手は空を切る

一歩踏み出すと焼ける匂いがする

何度も嗅いだことがある人の焼ける匂い

ドクンドクンと心臓の音がやけに大きく響く

全身から冷や汗が出てくる


ゴクンとツバを飲み、一歩踏み出した

変わりすぎた家に呆然とする


「か、義母さん!!」


バタバタと探し回った

この匂いを否定したくて、一生懸命捜した


そして見つけた

台所の釜の近くに丸まった状態で黒々となり、煙をあげていた

それが人であったかも疑わしいが

その黒々としたものは、神楽が朝に最後に義母に渡した羽織の一部を纏っていた


匂いが鼻をつく

胃からこみ上げてくるものに止めることが出来ずに吐き出した

どれだけ吐き出しても、この不快感はとれない

瞳からはあふれ出す涙が止まらなかった

そして、神楽は意識を手放した

もう何も、考えたくなかった


「神楽!!」


神楽が倒れていくのを見つけた閃はすぐさま駆け寄った

急いで仰向けにし、頬を叩く

反応は何も返ってこない

ただ、涙だけが次々と溢れては頬を濡らし、焼けた地面に落ちていった


閃は顔を上げ周りを見渡す

そこには第二の母である柳燕だったはずのモノがある

閃も息をのむ

柳燕の下には幼い固まりが二つある

村の子供達だったのかもしれない

それすらも分からないほど、直視するにはあまりにも残酷な光景だった


閃は家から離れ、まだ焼けていない木の下に神楽を連れ出した

周りには生きている存在が全く感じられない


昼間のこの時間帯なら、茶を飲みながら休憩している者達の声が何処かしら聞こえてくるはずだ

だが、今はパチパチと何かが燃える音と崩れ去る音しか聞こえない


「誰がこんな事を・・・」


閃の握りしめた拳から血が滲み始めた

 

神楽を一人で寝かせておきたくなかったが、存命している者を捜すため

神楽に布を被せ、その上に木の葉をまいて、カムフラージュを行って村の中を歩き出した


家の近くの家を一軒一軒探し回ったが、人の存在は何処にも感じられない

そう思って神楽の元に戻ろうとした時だった



「ギャーーーーーーー」


人の悲鳴が聞こえて閃は走り出した


そこは村の外れの森の傍だった

大柄の男達の足下に村の者が倒れている

男達が持つ剣からは赤い雫が点々と地面を赤く染め上げている


閃は自分の体の中で血が逆流する思いだった

すぐさま駆けだして斬りかかりたい思いだったが男達の話によってそれは中断された


「こんな村潰すだけで金が手にはいるのかよ」


「そうらしいぜ。なんでも、お偉いさんのガキがここにいるらしくてよ。そいつの過去がバレちゃいけないらしくて、この村潰せとよ!」


「とんだ災難だぜ、この村にとったらな!」


「ああ、それを頼んできたのもこの国のお偉いさんだからな!」


「まぁ、俺たちにとっては、この村のちんけな金と大金が入るからいいとするか!!」


「あはははは!!」


閃は愕然とした

この村に起きた災難は自分がいたせいなのか

俺が玉座なんか望んだからこの村は襲われたのか


頭がガンガンと痛む

目眩まで襲ってきた

呼吸が荒くなりうまく立っておくのが難しい

膝をつき倒れてしまいそうになった


「あ!そう言えば、あと女一人殺せと言われてたな」


「あぁそうだ、なんて名だったけ?か、花梨かりん?違う、ほら・・・」


「うーーん、!あっ、神楽だ!」


男達の声に閃の意識は戻ってきた


「何でも、その女、ガキに言い寄ってやがる、尻軽女だとよ!」


「そりゃあいい!!殺す前に俺たちで味わってやろうぜ!」


「いい女なら高く売れるかもしれないな!!」


未だに続く神楽を卑下する言葉と下品な笑い声に閃はこれほど狂暴な気持ちを持ったことはない

腰に差していた剣をスルリと引き抜くと

男達の前に身をさらした


「お!!まだ殺しそこねがいたらしい!!」


「あいつ、俺たちに向かってくるつもりらしいな!!」


「剣なんて持って危ないでちゅよ!」


「ぎゃはは、気持ち悪い!やめろって!」


もう、閃には何も聞こえてはいなかった


「・・・・には・・・すな・・」


ポツリと呟いた言葉に全てを聞き取ることは出来ない


「うん!?」


「怖じ気づいたのか?」


不審がる男達に閃は顔を上げ言い放った


「神楽には手を出すな!!!!!!!」


一気に駆け出し、間合いを詰め先頭の男の右腕を切り落とした

腕が舞い上がり、血が飛び散る

我に返った男達が叫び声を上げた


男達は閃に一斉に攻撃に転じた

閃はそれを流れるように交わし、次々に男達の右腕を切り落とした


痛い痛いと泣き叫ぶ者

自分の腕を一生懸命肩にくっつけようとする者

腕を持って泣いている者

腕を持って逃げ出した者

周りが真っ赤に染まっていることに何のためらいもなかった


敵がもう襲ってこないことを確認した後、閃は駆けだした

神楽が心配だった

自分がいない間に何者かに襲われていないだろうか

その思いが、足を一歩、一歩前に前に押し出した


元に戻ると、神楽はまだ意識を取り戻してはいなかった

胸が上がり下がりをゆっくりと繰り返している

呼吸は落ち着いている

だが、溢れる涙だけが眠っている神楽の異常信号であった


その涙を払おうと指を伸ばした

だがその指が真っ赤に染まっている

慌てて閃は自分の手を見つめる

そこには真っ赤に染まった自分の手があった

服には自分の血ではない、赤い血のあとがあり

自分の顔についたぬめりに手を当て、取ってみるとそれもまた、赤い血であった


閃は自分の手を服に擦り付けた

どんなに擦っても赤い液体は取れはしない

まるでこびり付いたように、閃の手を真っ赤にしている


「と、とれない、取れないよ、神楽・・もう・・れられない・・・神楽・・君にもうれられない・・・だけど、守る。君をどんなことがあっても守ってみせる・・・。だから、傍にいてくれ・・・」


閃は両手を組み合わせて祈るようにして眠っている神楽の前で泣いた

自分が産まれてきてしまったことに対して、

育ててくれた者達への悲しみ、

愛する者を危険にさらしてしまう事になっても傍にいて欲しいという己の貪欲な気持ち、

全てに申し訳なさに閃は泣いた


その後、兵達がまた迎えにきた

血まみれの閃に驚いたが、怪我の血でないと分かるとすぐに着替えさせた


神楽は未だ意識が戻らなかった

王宮に着くまでの2週間の旅の間も眠ったきり起きることはなかった


兵が女を抱えた状態で入城することを何度も止めたが、一向に譲らず、閃が運び通した

王宮に着いてからも眠り続けた神楽を閃は後宮の一番奥の楼閣に運んだ

まだこの場所で信じられる者は誰一人としていない

いや、信じることは出来ないだろう

村を襲うことを命じた者がこの王宮にいる

絶対に許すことが出来ない


そんな場所で神楽が眠り続けることはとても痛い

存在があっても、声がない、触れてくれる手が動かない、全てを癒してくれる笑顔がない

閃の心は氷のように冷たくなる


「誰一人として、この部屋に近づけることは禁じる。近づいた者は重罪として罰する」


後宮の女官達に厳命した閃は神楽の部屋に何重もの鍵をかけた

神楽に逢うことが出来るものは自分だけでいい

神楽の世話も何もかも、自分がやろう

そして、神楽の幸せだけを守っていこう

他がどうなろうとかまわない

神楽の笑顔を奪うものは絶対に許さない


握りしめた手をさらに強く握り

一番外側の鍵をかけ、これから始まる玉座につく茶番劇に参加してやろうと心に決意する




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