お別れの結婚式②
閃は同じ場所にいた
荒れ狂う怒気が静めるかのように剣を振り続けていた
だが、それが逆効果となり怒気を増長させている
あまりの怒気に動物たちも逃げだし、鳥の声、虫の声さえしない
「そんな体の動きじゃ、体を壊すよ。」
がむしゃらに振り回していた剣を棒で受け止めた神楽が声をかける
受け止めた相手が神楽だと分かると、閃は込めすぎていた力を抜き
持っていた剣を落とした
覗き込むように下から見つめる神楽の瞳に
閃の目がドンドンと悲しみを映していく
「・・・・大丈夫か、閃」
神楽の声がきっかけに閃は神楽をきつく抱きしめた
神楽も閃の背中に手を回して、優しくトントンと叩き始めた
肩にある閃の顔から伝わる雫と慟哭を慰めるように
あれから一刻が過ぎ、いつの間にか夕刻となった
閃も落ち着いたのか神楽を抱きしめるだけで、さっきからピクリとも動かない
ただ、神楽の服を握りしめているところを見ると意識はあるようだ
「閃・・・起きてる?」
神楽が尋ねるが動かない
「・・・・ねぇ、閃・・・・離縁して・・・」
これには閃はがばっと起きた
目を大きく開いて小さな神楽の肩を掴む
その手はわずかながら震えていた
「・・・な、何・・・言ってるんだ・・」
震える唇から途切れ途切れの言葉が出てくる
今は精一杯伸ばしても撫でること難しくなった閃の頭に神楽が手を伸ばす
「伸びたね、閃・・・私よりこんなに大きくなって・・・立派な大人になったね。」
「神楽!!何言ってるんだ!!」
「閃・・・玉座について・・・あなたなら良き王になれるよ・・・」
「俺は王にはならない!!あんな場所にも戻らない!!離縁もしない!!」
「閃、覚えてる・・・お義母さんと近くの村が襲われたときに薬師として行ったときのことを・・・」
数ヶ月前に近くの村が盗賊に襲われた
村は全焼、女子供老人関係なく殺され、生き残った者は片手で足りるくらいだった
その後3人で村人達の墓を作った
三人で手を合わせながら、神楽は嘆いた
戦争が続く世の中に、助けられなかった命に
力なき自分たちにどうすることも出来ない世界に
「閃、あなたも言ったよね・・・戦争を無くしたいって・・・あなたが玉座につけば・・戦争を止められるの・・・止めることが出来る力を得られるの・・・平和な時代が作れる・・・あなたなら出来る・・・」
神楽の瞳から雫を頬を伝った
「・・か、神楽・・」
「あなたは玉座につくべきだ・・その隣に私はいちゃいけない・・・大丈夫。離縁された女でも、こんな強すぎる女、誰も娶りたいなんて思わないわ・・・」
この時代離縁されると言うことは、
不出来な女という烙印を押されることであり、次の結婚が望めなくなってしまう
泣きながら笑みを浮かべる神楽を愛おしいと閃は思えた
「・・い、イヤだ・・・傍にいてくれ・・・」
抱きしめようとする閃の手を振り払い、間を開けた
「閃、天命に従って自分の道を歩んで・・・玉座に座って・・・あなたの作る世界で生きていくから。大丈夫。閃、大好きだよ。大好きだから・・・」
右手を伸ばして別れの握手を神楽は差し出した
「・・・神楽・・・」
閃はその手を握れなかった
両目から溢れる涙に視界がゆがんだ