お別れの結婚式①
そして二年後神楽15才、閃17才
成人した神楽をすぐさま閃は嫁に欲しいと柳燕に申し込み
了承を得た
そして春の日差しがまぶしい日に二人は婚儀をあげた
婚儀では、一つの杯に酒をつぎ、お互いの左手小指を少し切り、一滴の血を垂らす
それを互いに一口ずつ飲みあう
こうすることで肉体を越え、相手の一部になるという古めかしい伝統行事である
貧困で婚儀の衣装などそろえることが出来なかったが、二人は幸せだった
村の者達も楽しい話題に沸いた
久々にこの村に楽しい時間に包まれた
王宮からの使者が来るまでは・・・・・
ダダダダダダダッ
土煙を上げて4,5頭の馬が駆けてくる
駆けてくる馬に盗賊団だと思った村の者達は我先にと逃げ出していく
神楽は頭に簪を付けているぐらいでこれといったおしゃれをしていたわけではないので
すぐさま直径5センチほどの自分の身長より長い棒を掴み、飛び出した
それに並んで閃も剣を持って飛び出す
駆けだしてくる馬の進路方向に立ち神楽は真っ向から立ち向かった
棒の先端で地面を突き、その勢いで自分自身の体を宙に浮かせる
高さは3メートル程の空中で馬の上に乗っている者達を確認すると
地面に突いていた棒を引っ張り一振りした
流れるような動きに反応が出来ず馬の上からたたき落とされた鎧を着た者達は地面へと落下する
馬は乗り手が急にいなくなったことに怯えそのまま走り去ってしまった
馬がまいあげた土煙が収まると
地面にたたき落とされた者達は次に襲ってきた剣と棒に身動きが出来ない
「一体何者だ・・・盗賊なら容赦はしない」
閃の容赦のない声と首に押しつけられる剣に
「ひっ」と兵士が頼りない声を上げる
「わ、我々は、しゅ、主人の命により璉国太子閃様を捜しに参りました!!」
「えっ、」
閃の持っていた剣が首元から離れた
それをいいことに兵士達は声を上げた
「放せ!!!我々は三老、凱長官の命により我らが主、寀朱様から太子閃様を探しに参った者のである。お前のような平民が触れて言い存在ではない!!さっさと放さぬか!!それと閃様を出さぬか!!」
村の者が怯えていることをいいことに強気に出てくる兵士達
「出すもなにもそこにいる。」
その兵にくってかかったのは神楽だ
「な、なにを!!」
首にあった剣の持ち主に目を向ける
狼狽える瞳とかち合うと、信じられないと思った兵は
「何を言う、小娘が!!このような貧弱そうな者が王太子であるはずがない!!」
「だそうだ、閃。玉を見せてやれ。」
閃は胸からかけていた小さな紅玉を出した
母が唯一王宮から持ち出せた物だ
寵妃の証として父親の柳瞬王が渡した物だ
「っっ失礼しました。ご無礼をお許しください」
打って変わって、平伏をして閃に許しを請う姿に閃は持っていた剣を降ろした
そして背を向けて歩き出した
「閃どこに行くの?」
「俺には関係ない・・・・。俺や母さんを城から追い出した者達に何故俺が会わなければいけない。さっさと出て行け。」
背中からありありと分かる怒気に神楽は溜息をはいた
神楽は平伏している兵士の横に片膝を付いて
「兵隊さん。閃に何の用があってきたのですか?」
「知らなくていい!!また俺から大切なモノを奪うと「だから逃げるの?閃らしくないよ!最後まで逃げない。それがあなたでしょう。大丈夫。傍にいるから。どんなことがあっても、どんな敵がきても、大丈夫だよ」
背中を向けたまま声を荒げる閃に対して、神楽は柔らかく答える
男としての威厳が全くなくなるような台詞に
閃は大きな溜息をはいて
「何の用だ・・・・」
渋々ながら振り返って兵に聞いた
「はっ、ありがとうございます。この度78代目国王陛下が御崩御なされました。閃様の兄上様です。他の王太子様方も崩御されまして、王家の血筋を残す男児が閃様、唯一とあいなりました。そこで、血筋を残すためにも、閃様には王宮に戻られ、玉座について頂きたいのです。」
まさに青天の霹靂だった
王太子として8番目、役にも立たないとしてあれだけの仕打ちを受けながら
王家の血筋が危ないと、無実の罪であるが反逆者の烙印を押されている閃を玉座につけたいという
「ふははっ、ははは!!」
高らかに笑い出した閃に見守っていた村人達、兵士達は呆然とする
神楽だけはじっと閃の心を心配していた
「っっふざけるな!!!!お前らが何をした!!俺の母さんに!俺の父さんに!!忘れたとは言わせない!!なのに今更、玉座だと!!俺はお飾りの人形じゃない!!」
怒気を全面にぶつけられ、ひっ、といつもの閃を知っている村の者さえ声をあげる者までいる
閃は叫び終わると走り去ってしまった
「ねぇ、兵隊さん。そこの家が私の家なんだ。そこで休んでて。大丈夫、閃は私が説得する」
兵士達を村人達に任せ、閃がいるあの場所へと走り出した