噂話ほど無責任なものはないと令嬢は思っている
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人の噂話ほど、無責任なものはないと思う。
学園の食堂の中、いつもの定位置に座ったマーガレットは、今日もそこかしこから聞こえる噂話にそっと聴き耳をたてる。
「シーリア伯爵の…」
「まぁ!私はトライドル侯爵の…」
「えぇ!!…っと、失礼しましたわ。それで…」
「ほら、マーガレット。また手が止まってる」
「あら、失礼」
周りから聞こえる噂に集中しすぎるあまり、大体毎日マーガレットはカトラリーを持ったまま微動だにしなくなる。
そうなると、こうやって目の前に座る婚約者は、そっと意識を戻しに来るのだ。
(もうっ!せっかくいい所だったのに)
マーガレットの趣味は、「情報収集」。
淑女が嗜む趣味としては、決して褒められたものではないけれど、それでも情報が命な貴族社会では、先んじて情報を仕入れるというのも生きていく上で必須である。
そのため、この趣味にあまり良い顔をしない両親も、マーガレットに止めるようには強く言えなかった。
そんなマーガレットの最近の楽しみは、ある噂を聞くこと。先程から耳に入る噂に集中していたのも、それが原因である。
「ねぇ、エリオット。貴方、シーリア伯爵令嬢とトライドル侯爵令嬢に、言いよっては散々遊んで捨てたんですって?」
「はっ!?っゲホゲホゲホ…なんていうことを言うんだ!」
そう。先程から噂話として持ち上がっていたのは、マーガレットの婚約者であるエリオット・シューグナー侯爵令息。光の加減で薄青にも見える銀の髪に、冬の朝の澄んだ空気を思わせる水色の瞳。整った容姿のエリオットには、マーガレットという婚約者がいるのにも拘わらず、あの手この手で奪おうとする令嬢が多い。
ただ、エリオット自身が真面目な性格であるのと、婚約もエリオットからの熱心なアプローチの末に結ばれたもののため、そういった令嬢がどんなに秋波を送っても一切靡かなかった。
それゆえに、せめてとばかりに噂話だけが早馬のように駆け巡っている。
「ふふ、分かってるわよ。大丈夫」
「本当に止めてくれ。心臓に悪すぎる」
「そう言えば、マリオはどうしてるの?」
「最近も帰ってこない。全く、早く婚約者を見つければいいものを…」
苦虫を噛み潰したようなエリオットの様子に、そっと苦笑を返す。エリオットの弟であるマリオは、1学年下でエリオットと似たような容姿をしている。その為、こちらも令嬢からの人気が高いのだが、本人が奥手の為に群がる令嬢達を上手くあしらえず、よく廊下や食堂で囲まれている。
しかも、家に帰れば山のような釣書が待ち構えており、勉強するという理由でなかなか家に帰らず、とうとう寮生活になってしまった。
ただ、マーガレットは知っている。彼がなんだかんだ言いつつ、囲まれている時には困ったフリをしていること。釣書の件も、ただ選ぶのが面倒なだけということ。
たまたまではあるが、移動教室の際にマリオが困った風を装いながらも、得意気に同級生へ話しているのを聞いてしまった。
だから、マーガレットは得意の趣味を使うことにした。
「この間、マリオ様がパルム子爵令嬢と…」
「え、私はフィード侯爵令嬢と…」
「うそ!私はリクシア伯爵令嬢が…」
今日も今日とて、食堂の中で噂話は回る。
マリオのお相手として名前が上がったのは、シューグナー侯爵が釣書の中で目星を付けていた令嬢たち。令嬢たちには事前に承諾を得ているし、むしろ彼女たちも乗り気なのだから、後はマリオが自分で何とかすればいい。
だって、所詮は噂話。
無責任な代物なのだから。
(その後の食堂内にて)
マーガレット「本当に。噂話というのは、無責任なものよね。エリオットの噂なんて、あっという間に無くなったわ」
エリオット「マーガレット。僕は、こんなに用意周到な無責任を知らないよ」
☆☆☆
今回は、真面目で社交界の噂に疎いエリオットと、それを趣味とするマーガレットのお話でした。
マーガレットの情報関係の手腕を認めて、マリオの件は侯爵も一枚噛んでます(笑)
そして、マリオは例えていうなら、中一くらいの「あー、俺はそんな気ないんだけど告られるんだよね。なんでなのか分かんないんだけどー」みたいなタイプ(笑)
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