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言葉選び

作者: ほんじじ
掲載日:2026/02/18

 関口美恵は感じのいい新入社員だった。

 よく笑い、よくうなずき、相手の目をきちんと見て話す。


 声も明るい。

 姿勢もいい。


 ただひとつ致命的な欠点があった。

 言葉選びがだめなのだ。


 名刺交換のときが特に危ない。


「佐藤博と申します」


「あ、博打の“博”ですね!」


 にこやかに、はっきりと。

 佐藤は一瞬止まり、それから「博多の博です。博多出身です」と苦笑いした。


「中村潔です」


「不潔の“潔”ですね!」


「……清潔です」


「田中強平です」


「強盗の“強”ですね!」


「いや、その例えは……」


 本人に悪気は一切ない。確認のつもりなのだ。笑顔で言うから相手も怒るに怒れない。

 上司の村田は毎回胃がきりきりしていた。


 そして今日。

 相手はわが社の大得意先、鈴木雄一社長。

 同席予定だった女性社員が風邪で欠勤。やむなく美恵を連れていくことになった。


(さすがに今日は大丈夫だろう……)


 村田は自分に言い聞かせる。


 鈴木社長は噂の多い人物だ。女好きだのクラブ通いだの。

 ただ、あくまで噂。商談は常に紳士的だ。


 応接室。


「社長、本日はありがとうございます。こちら新人の関口です」


「よろしくお願いします」


 鈴木は穏やかに微笑み名刺を差し出した。


 白地に黒の文字。


 鈴木 雄一。


 美恵は両手で受け取り丁寧に目を落とす。


(頼む、余計なこと言うな……)


 村田の背中に冷たい汗。


「あ」


 美恵が顔を上げた。


「雄って……」


 一瞬の静寂。


「おしべとめしべの、おしべですね」


 応接室が固まった。




 終



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