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りんちゃんと優しい仲間たち

作者: リュウ
掲載日:2025/10/16

 志望校に合格した僕は、高校生になった。入学した理数科は1クラスのため3年間同じメンツということが少し不安にもなったが、とても落ち着いた雰囲気だった。

 親しい仲間がいない寂しさはあったが、中学校までの浮いた空気がなくて楽だった。ちなみに40人いるクラスのうち、女子は8人。その女子たちも騒がしさはなかった。

 校則が厳しく、事前申請していても検査のたびに髪色を念入りに見られることは辛かったが、他に違反はないことから明るい茶髪が生来の髪色と信じてもらえるようになった。

 僕は高校に入っても変わらず読書が好きで、図書委員に入りよく本を借りた。朝礼前や休み時間もよく図書室に足を運んだ。

 そうして読書をしながら、ふと由嘉さんのことを思い出すことがあった。しかしそれは辛い思い出ではなく、懐かしい気持ちに変わっていた。中学校最後にクラスメートになれて、一緒に過ごせた時間は宝物だ。

 由嘉さんも商業高校で楽しく過ごせていたらいいな。そんなことを考えた。イクラのような考えだが、由嘉さんの新しい制服姿もきっと可愛いのだろうという想像もした。

 そうだ、高校でイクラに振り回されてはいないだろうか。そんな変な心配もするのだった。

 こうして高校が別々になっても考えるくらい、由嘉さんは僕にとって特別な存在なのだろう。その思いもあり、新しい恋をする気にはなれなかった。

 部活は、中学の頃から気になっていた科学部に入った。毎日は活動していない部活ということもあり、勉強との両立はしやすかった。それに、理系の勉強にもなった。

 科学部の部員は部長以外全員男子だった。この部長であり唯一の女子部員の怜子先輩は、僕と同じく理数科であり、両親が医師を勤める産婦人科医院を継ぎたいと話していた。

 誰に対しても落ち着いていて勉強熱心な怜子先輩に、僕は憧れと敬意を抱いた。しかしそれは異性としての意識ではなかった。一方、怜子先輩に思いを寄せている科学部の先輩もいた。怜子先輩自身は全く気づいていない様子だったけど。

 僕は部活する中で怜子先輩に

「祖父が開業した小児科医院を継ぎたいと思っています」

と話すことがあった。

「そっか。一緒にお医者さんになれるように頑張ろうね。そしたら、私が取り上げた子を診てあげてね」

怜子先輩はそう話していた。そうして、小児科医になる夢がますます強くなるのだった。

 その怜子先輩が医学部の大学受験に合格したと知ったときは、とても嬉しかった。そしてその学校に興味を持ち、自分も目指すようになるのだった。


 そして怜子先輩を追うようにして、僕は医学部への現役合格が叶った。このときは頻繁ではないが、たまに怜子先輩と連絡する機会があった。同じ大学の医学部に入れた報告に対して、怜子先輩は「お互い夢に一歩近付けたね」と、とても喜んでくれた。

 と言っても大学は人数が多いので、怜子先輩と直接顔を合わせることは少なかった。それでも、大学生活でわからないことがあったら相談できた。このような先輩と出会えたことに喜びを感じられたため、高校受験の選択は適切だったと思えた。

 勉強が大変なことは高校受験の時と変わらない。いや、もっと大変だったが、その度に祖父のことを思い出すのだった。僕には小児科医を継いで喜んでもらいたいという夢と目標がある。だから何でもできるというわけではないが、心強く思った。

 実際長期休暇のときはよく祖父に会いに行った。祖父はすでに医師としては引退したが、たくさんアドバイスをもらえた。そして

「凛太朗が医院に来てくれる日を見届けられるよう、頑張って長生きせんとな」

と話していた。僕の頑張りが、祖父の寿命を延ばすのだろうか。もしそうだとしたら嬉しい。


 月日は流れ、僕は30歳になる年に祖父が開業した小児科医院の医師になった。まだ母さんが院長を務めているが、姉さんと昌雄君夫妻の子どもの通う小学校の検診をできるようになったことが、とても嬉しかった。祖父も健在で、医院に勤めるようになった僕を温かく見守ってくれている。

 5年前に結婚したハゼと凛子に最近子どもが生まれたという報告も嬉しかった。そして、その子を取り上げた先生が怜子先輩だったことも。

 今思い返せば、ハゼって中学時代から凛子のことが好きだったよなと思う。凛子はハゼの思いに気付いていなかったようだが、一緒にいて安心する相手としてハゼと人生を共にする道を選んだようだ。

 そういう僕はというと、大学でも病院勤務でも医師になるための勉強に夢中で、恋愛や結婚をしている暇はなかった。それに、未だに初恋が忘れられずにいた。

 未練がましくてみっともない話だが、その慰めのために無理に他の相手を作ることは、その相手に対しても自分の気持ちに対しても失礼だと思ってきた。

 そうして小児科医院に勤務するようになった3ヶ月後、新しい事務員が来るという話があった。病院と異なり医院では事務員と接する機会も多いから、温かく迎えないと。そう思うのだった。

 新しい事務員を迎える日、僕と同年代の女性がやってきた。僕は、その姿にどこか懐かしさを感じた。そして、勝手に変な期待を膨らませるのだった。

「これからお世話になります。金子由嘉と申します。よろしくお願いします」

ああ、やっぱり由嘉さんだった。15年ぶりに会うがすぐにわかった。僕はそのことが嬉しかった。

「医師の朝倉凛太朗です。これからよろしくお願いします」

僕の挨拶に、由嘉さんは

「え、朝倉君⁉︎」

と、少し驚いていた。

 ああそうか。この医院は「ひかりこどもクリニック」という名前だから、僕が勤めているとは知らなかったのか。祖父が自分には娘しかいないことを考慮して、誰が継いでも困らないように医院名に名字を付けなかったのだ。

「あら、お知り合い?」

看護師長の叔母がそう聞いた。

「はい。僕の…中学時代の同級生です」

僕はそう答えた。さすがに初恋の相手とは明かせなかった。しかし母さんは気付いたようで、穏やかに微笑んでいた。

 僕はその日の昼休みに由嘉さんに

「仕事の後、時間ある?」

と聞いた。

「ええ」

由嘉さんはそう答えたので、近くのカフェに行くことになった。それから僕は由嘉さんと2人で話すことが楽しみな一方、緊張感も抱くのだった。

 そしてその日の仕事が終わり、静かなカフェの席に由嘉さんと向かい合って座った。

「久しぶりやね。うちの医院に来てくれてありがとう」

僕はそう挨拶したが、なんだか緊張する。由嘉さんも緊張しているようで、話しにくそうにしていた。そして

「そう言ってもらえて嬉しい。最悪、辞めさせられるかと心配になった」

と苦笑いした。

 そうしていると、頼んでいたメニューが来た。

「朝倉君って、相変わらずよく食べるね。この後、夕食もあるんやろ?」

由嘉さんはそう微笑んだので、場の空気が少し和やかになった。

「うん、僕は何も変わってへんよ。由嘉さんも、あまり変わってへんような気がする」

僕はそう話した。一目で気付いたほど、由嘉さんは可愛い中学生の面影があった。

「そうかな?確かに派手に遊ぶことはなかったけど」

由嘉さんがそう話したので僕は思わず、

「ここに来るまでの話、聞いてもいい?」

と尋ねた。その話に、由嘉さんは頷いてくれた。

 由嘉さんは商業高校を卒業した後、医療事務を目指して専門学校に2年通った。それから僕が勤務していた病院とは異なる病院に就職したが、人間関係がギスギスしていて仕事しづらくなったという。そして、一昨年にその仕事を辞めてしまい、気分も落ち込んでしまったと話していた。そんな中、必死に求職活動して決まった再就職先がこのひかりこどもクリニックだとわかった。

「そうやったんや。話してくれてありがとう」

僕はそうお礼を言った。

「朝倉君がお医者さんになっとるとは思わんかったけど、理数科に進学してたから納得した」

由嘉さんはそんな話もしていたから

「え、覚えとったん⁉︎」

と驚いた。

「うん。…あの、中学時代は本当にごめんね」

由嘉さんがそう言ってきた。

「そんな。由嘉さんが謝ることないよ」

僕はそう言った。しかし由嘉さんは

「実はね…本当はあの時、朝倉君のことが気になってたの。でも、付き合ったら周りから何されるだろうと怖かったし、これが恋と呼べるものなのかわからないのに付き合うのもおかしいって思ってたの」

と明かした。

「そうやったん⁉︎」

僕はそう驚いた。そして

「じゃあ、今からでも間に合う?僕、由嘉さんのことを忘れられずにいた」

と改めて告白した。

「えっ、そうなの⁉︎」

由嘉さんがそう驚いた。そして

「すぐに付き合うことはできへんけど、こうして仕事以外でも会ってもいい?私、彼氏いたことないから付き合い方とかわからんけど」

と続けた。

「それはお互い様やよ。急がんから、仕事以外でも一緒にいたい」

僕はそうはにかんだ。

 それに中学時代とは異なり、今の職場環境はとても穏やかだ。叔母をはじめ、看護師は僕の親世代の女性ばかりだし、前から勤めてきた事務員には若い女性もいるが既婚者だ。

「ありがとう。これからよろしくね」

由嘉さんはそう微笑んだ。

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