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【ホラー】マンション【ショートショート】

作者: スケキヨ

短いホラー。

 人生で一度だけ、本気で自殺しようとしたことがある。

 

 単位が足りなくて卒業できないかもしれなくなって、父と母と、母方の祖父母に叱られた。


 一番つらかったのは、祖父母が母を酷く責めたことだ。

 「お前の教育が悪いからこうなった」「母親ならしっかり子どもを見張れ」とか、ばかみたいな理屈で怒鳴られている母を見て、これはもう命で責任を取るしかないと思った。

 

 深夜、飛び降り自殺をするために家を抜け出した。


 理由は分からないが、いつか自死する日が来るとしたら、投身にしようと決めていた。


 どこか飛び降りて死ねそうな建物を探して夜の街をうろうろと歩いたが、なかなか適した物件は見つからなかった。

 背の高い建物自体はたくさんあったのだが、どこも入口が閉まっていて入れなかった。もう歩道橋でいいかなとも思ったが、真夜中過ぎでも車が多く、走行の邪魔になるのが嫌だったので断念した。


 困り果てていたとき、ふと向かいのマンションのことを思い出した。生まれたときからずっとあるマンションだ。


 入口をくぐってすぐのところにエレベーターがあって、B1から10までボタンが並んでいた。迷わず10を押して10階に行った。

 腹ぐらいまでの手摺があって、見下ろすと下は草ぼうぼうの花壇だった。あんまりにも草が生い茂っていたので、飛び降りても一命を取り留めてしまうのではないかと不安になった。

 完全に頭が真下になるようにしたらうまくいくだろうか、防御姿勢を取って怪我で済んでしまうのではないか、そんなようなことをしばらく真剣に悩んだ。

 1時間ほど悩んで、飛び降りるのを辞めた。



★★★

 結局、卒業できた。

 単位はぎりぎりだし、卒論は物凄くおまけしてもらった。母が方々に頭を下げてくれたのだ。一生足を向けて寝る事はできない。

 

 ひとつ分からない事がある。

 

 あのとき、だいぶ正気を失っていたから気が付かなかったが、なんでわたしはあのマンションに入れたのだろう。


 わたしは自動ドアをくぐって、エレベーターで10階に行った。

 でも、あのマンションはオートロックなのだ。



★★★

 祖父母は今日も「曾孫はまだか」と母を責めている。

 あの時いちかばちか飛び降りておけばよかったのかもしれない。

 件のマンションはもうない。随分前に更地になった。今度駐車場ができるらしい。



 じいさんは「大学に行けないなら死ね」とかしれっと言う野郎でした。

 読んでくださってありがとうございます。

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