2部
夜明け前の薄明かりが監獄の壁をぼんやりと照らす中、デコーダーは冷静に周囲の状況を見渡していた。鉄格子の影が長く伸び、不気味な静寂が支配している。彼は声を出すことなく、心の中で次の行動を緻密に組み立てていた。手元のワイヤートラップの配置図を思い浮かべながら、脱獄のための罠と対策を頭の中で反復していく。
監獄の廊下では、警備員たちの足音が響いていた。だがその足音のリズムが突然乱れ、緊張が走る。裏社会から送り込まれた協力者たちが密かに動き出し、監獄の結界を破るべく魔法の施術を始めていたのだ。警報が鳴る前の静かな緊迫感が空気を満たす。
「計画通りだ。ここからが本番だ」デコーダーは心の中で呟く。彼は仲間を持たない孤独な狩人。だが、今回は例外として、目的のために必要最低限の接触をするだけだ。力を合わせて脱獄を成功させる。しかし、互いの警戒心は決して緩むことはない。
やがて、鉄格子が魔法の力で少しずつ緩み、隙間が生まれる。狙い通り、数名の強力な異能力者たちが次々と外へと解き放たれていった。彼らの顔にはそれぞれの欲望と憎悪が滲み、これから起こるであろう混沌への予感が満ちていた。
デコーダーは鬼のお面をそっと手に取り、その冷たい笑みを自身の顔に重ねた。「さて、これからが面白くなる」と、低く呟いた。
混沌とした世界での新たな“鬼ごっこ”が、今まさに幕を開けようとしていた。
脱獄の混乱の中、解き放たれた異能力者たちはそれぞれの思惑を胸に闇夜へと散っていった。監獄の外では、静かな街がまだ眠りについている。だが、その静けさは長くは続かないことを誰もが知らなかった。
デコーダーは人混みを避け、街の闇に紛れ込むように歩みを進めた。彼の足元には無数のワイヤートラップが仕掛けられている。狡猾に、確実に。強者との直接対決を避け、狩りの舞台を自ら作り出していく。地面に埋め込まれた地雷型の魔法陣は、獲物が触れれば容赦なく足を砕く。
街の片隅、裏社会の隠れ家では、新たな同盟が形成されつつあった。sランク犯罪者の一人が静かに言った。
「奴が脱獄した。これは俺たちにとって、最大のチャンスだ」
隣に座る男は冷ややかに答える。
「互いに利用し合うだけだ。裏切りは必至。だが、その混乱の中で俺たちの力を示すことができる」
闇の中で交わされる言葉は、やがて街全体を巻き込む大きな嵐の予兆となる。デコーダーはその波の中心で、誰にも止められぬ存在として踊り続ける。
そして、遠くの監視塔では、レイチェルが新たな情報を受け取っていた。混乱は始まったのだ。
「これは……ただの悪夢の始まりに過ぎない」彼女はそう呟き、拳を強く握りしめた。