表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/4

その後

再会の夜。

ライブ会場の裏口で、ユウリとナオは無言のまま抱き合った。

ひとことも交わさずに伝わったものがあった。

それは、時を越えた“信頼”だった。


その日からユウリは、少しずつかつての記憶と向き合っていった。

訓練の日々、任務の重さ、失われた家族――そして、自由を知らなかったあの頃の自分。


だが、彼にはもうひとつの人生があった。

里親に育てられたあたたかい時間、友達と笑った学校生活、名前も知らない通学路の花の匂い。


ユウリは、ふたつの人生のあいだで立ち尽くしていた。


そんな彼に、ナオは言った。


「ユウリが選ぶなら、どっちでもいい。

でも、どちらも“君”が生きてきたんだ。

それだけは、忘れないで」



しばらくして、ユウリは静かな街にある高校へと通いはじめた。

記憶を取り戻しても、スパイとして生きる道を選ばなかった。

国に戻れば、また命令が待っている。だが、彼の心が望んだのは、

「誰かのために生きること」ではなく「自分として、生きること」だった。


彼は、音楽に惹かれていった。

テレビから流れてきたナオの歌。

その“声”こそが、自分をここまで導いてくれたから。


小さなギターを手に入れ、曲を作り、放課後の部室で歌ってみる。

誰かの心に、何かが届けばいいと願いながら。


ある日、ナオから連絡が来た。


「今度、ユニットで新曲出すんだけどさ。コーラス、やってくれない?」


彼は戸惑った。けれど、心のどこかで、それを待っていた自分がいた。


レコーディングの日。

スタジオでマイクを前にしたとき、ユウリは初めて「自分の声」をまっすぐに響かせた。

かつて誰かに仕えるために生きていた少年が、自分自身の声で、未来を奏でた瞬間だった。


その曲のタイトルは――「ただいま」。

どこに帰るのかではなく、誰に向けて帰るのか。

その答えを、ユウリはもう知っていた。


誰かの過去に縛られながらも、

自分という“今”を選び取っていくことは、決して弱さではなく、

静かな、強さ。


ユウリの人生は、再びはじまった。

今度こそ、自分の足で、自分の名前で。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ