第9話 鼓動を取り戻す
村での静養も終わり、僕たちはまた旅に出た。地図で示された目的地は、魔王城へと続く峠道。そこを抜けねばならない。
だが道の途中、奴が現れた。
「久しぶりだな、勇者の諸君」
森の影から、参謀ツゲラがぬるりと現れた。相変わらず、不気味な笑顔。首にはあの、無数の玉がついた数珠を巻いている。
「ツゲラ……!」
ドルナがすぐさま前へ出て、斧を構える。僕も急いで精霊書を開こうとしたが、手が震える。
怖い。
前回の戦いが、まだ体に残っている。
「よしよし、今回こそ楽しませてくれよ?」
ツゲラが斬りかかる。ドルナが斧で受け止め、反撃する。レオンが指示を飛ばし、リアが支援の魔法を唱える。
タクマは――後ろで、安全そうな岩陰にいた。
彼は杖を新調していたが、杖を握る手はわずかに震えている。眉間に皺を寄せたまま、距離を取ったまま、魔法を放ち続けている。以前のような派手さはない。
オレの魔法は、無敵なんだぜ――あの頃のような勢いは、もうどこにもなかった。
「ドルナ、ここは俺が引きつける。君はルイスと連携してくれ!」
レオンが叫ぶ。ドルナが振り返る。
「はあ?レオン、あんたの剣じゃ無理だってわかってるでしょ!」
「……大丈夫。俺に考えがある」
でも、その言葉は届かなかった。いや、信じてもらえなかった。
パーティーの連携が一瞬乱れた。ツゲラはその隙を逃さなかった。地を蹴って一気に距離を詰めると、全体重を乗せた一撃を振り下ろした。
レオンは剣で受け止めたが、そのまま地面に強く叩きつけられた。倒れたまま動かない。
「レオン!!」
リアが駆け寄り、ヒールをかける。青白い光が彼の体を包む。
けれど――
「……ダメ、反応がない」
リアの声が震えていた。
出血は止まった。骨も癒えている。でも……心臓が、動いていない。
「ふふははは! 勇者が死ねば、パーティーは終わりだな」
ツゲラは悠々とレオンの傍らの魔の源を拾い上げた。
「もうお前たちには興味がない。旅は終わりだ。解散してそれぞれの村に帰るんだな」
そして、闇の中へと姿を消した。
沈黙が広がった。誰も、何も言えなかった。
ただ、レオンの顔に手を当て、リアが必死に祈っていた。
僕も涙が止まらなかった。何もできない自分が、悔しかった。
そのとき、タクマがポツリと呟いた。
「……心臓が、動いてないって、言ったよな」
彼は焚火のような瞳で、レオンを見つめていた。
「オレの世界ではさ、心臓が止まった人に電気ショックをかけるって習ったんだ。学校で。AEDって言って……」
「……それって、魔法?」
「科学だ。けど、電撃魔法なら似たようなことができるかもしれない」
タクマの目が少しだけ、昔の光を取り戻していた。
「やりましょう」
リアが立ち上がった。
「タクマの魔法と、私のヒール……合わせればきっと……!」
「でも、電撃を体に当てるなんて危険すぎる。電撃とヒールのぴったりなタイミングも必要だ」
「レオンが死んだままでいるより、よっぽどマシ!」
タクマが構えた。彼の電撃魔法が、レオンの胸元に放たれる。
ビリ、と小さな火花。
その直後――リアが叫ぶようにヒールを放った。
「戻ってきて、レオン!!」
沈黙。
一秒。
二秒。
三秒。
「っ……!」
レオンの胸が、微かに動いた。
呼吸。まぶたがピクリと動く。
――生きてる。
リアはその場で泣き崩れた。タクマは無言で立ち尽くしていた。
そしてボクは、その光景を震える手で、紙に書き記した。
《ルイスの冒険譚・抜粋》
レオンが倒れ、心臓が止まった。
リアは泣きながらヒールをかけた。でも効かなかった。
タクマは、前の世界の知識を使って、電気ショックの話をした。
二人で力を合わせて、レオンは戻ってきた。
彼の胸が、また動いた。リアは泣いていた。
ボクも、ちょっと泣いた。
《抜粋ここまで》