第7話 癒えぬ傷
敗北を喫した一行。
物語が停止し、再び動き出す。
僕の名前はルイス。勇者パーティーで召喚士をしている。
あの敗北から数日が経った。僕たちは、ようやく辿り着いた森の村で傷を癒していた。
木々に囲まれたこの小さな集落は、静かだった。騒がしい交易もなければ、戦乱の影も届かない。だが、そんな穏やかさも、今の俺たちには居心地が悪かった。
タクマは広場の焚き火の前で、黙って座っている。ずっとだ。朝も昼も夜も。彼の目は炎に焦点を合わせているようで、どこか遠くを見ているようだった。
「オレの理論は完璧だったんだ。核融合に必要な温度も圧力も、計算上は……」
小さく、ぶつぶつと呟いている。焦げたように黒くなった杖は、そばの石に立てかけられていた。先端は砕け、精密な装飾も魔力の回路も、ひしゃげて意味をなしていない。
レオンは村の子供たちと話していた。言葉は少なかったが、その目はどこか鋭く、誰かの心の奥を探るように見えた。
ドルナは一人で訓練場の丸太を斬っていた。斬って、また斬って、また斬る。自分を罰しているかのように。
そして、リア。
彼女は、村の診療所で傷ついた村人たちの世話をしている。だけど、その表情には戸惑いがある。
「ねえルイス。……傷は治せても、苦しそうな顔は消えないの」
そう言って、僕を見た。
僕は、書く手を止めた。
《ルイスの冒険譚・抜粋》
ドルナは黙々と訓練を続けている。斧の軌道は荒れていた。
タクマは焚き火の前から動かない。杖は折れて使い物にならない。
リアは診療所で回復魔法を使ったが、患者の表情は晴れなかった。
《抜粋ここまで》
「お母さんのやり方を見てたの。どうやって手を当てるのか、何を唱えるのか、それを真似してたら、治るようになってたの」
リアの声が、村の夜の静けさの中に溶けていった。
「見様見真似で、できるようになったの?」
「うん。でも……今は、わからないの。なんで、治らない人がいるんだろうって」
レオンは何も言わなかった。ただ、彼女の言葉を受け止めるように頷いた。
僕は、会話をそっと書き留めた。
淡々と。事実として。感情ではなく、出来事として。
その夜、僕たちはそれぞれの場所で眠った。ドルナは毛布もかけずに訓練場の隅で倒れ込んでいた。タクマは焚き火の前で、灰になった薪を見つめたまま動かない。リアは診療所の片隅で毛布にくるまりながら、まだ何かを考えているようだった。レオンは高台に登って夜の森を見ていた。
そして、僕は手帳を開き、今日も記録した。
けれど、何かが足りない気がしていた。
これで、伝わるのか?
この旅の意味も、彼らの悩みも、僕の思いも。
何を、どう書けばいい?