第5話 無敵の参謀
副参謀ヨゲラを余裕で倒した一行。
次なる敵が現れる。
道は、二手に分かれていた。 一方は川沿いを行く道。早く進めるが、魔物に見つかりやすい。 もう一方は、森の中の細い獣道。時間はかかるが、敵の目を避けやすい。
「川沿いで行こうぜ」 オレは即答した。 「ここからの時間短縮はデカい。無駄を省けば、それだけ早く魔王城に着ける」
レオンが険しい表情で首を振る。 「見つかったら終わりだ。確実なのは森だ」
「は? 何の確実性があるんだよ。タイムロスってわかってんのか?」 「効率より、全滅のリスクを避けたい」
珍しく強く主張するレオンに、オレはイラつきを隠せなかった。
「お前、魔王の参謀にビビってんのかよ? ヨゲラ倒しただろ?次もいけるって」
険悪な空気が流れたが、レオンは一歩引いてうなずいた。「……わかった。川沿いで行こう」
結果、オレの選択が、最悪を招いた。
◆
開けた河原に出た瞬間、空気が変わった。 風もないのに肌がぞわついた。空間が、静かに、冷たく歪んでいた。
「よくぞ来たな。勇者一行」
頭上の岩の上に立っていたのは、漆黒のローブをまとった男。 長い髪。鋭い眼光。首には異様なまでに大きな数珠。
「参謀、ツゲラ……!」
レオンが、剣を引き抜いた。
「相殺魔法の使い手か」「そう。我が魔法は全てを無に還す」
オレは鼻で笑った。
「じゃ、試してみようか」
水の魔法で霧を出し、そこに電撃を叩き込んで爆破。だが、ツゲラの放った白い閃光が爆風を打ち消した。
「ちっ」
ならばドライアイスの槍。硫化水素の雨。どれもツゲラの白い魔法の奔流に触れた瞬間、音もなく霧散した。
ツゲラは涼しげな顔で立っている。
「通用しないか……なんでも相殺できるんだな」
レオンの声が響いた。「タクマ、見てみろ! あの数珠!」
ツゲラの首の数珠。その一つひとつが、淡く光っている。そして、魔法を打ち消すたび、一つずつ、その光が消えていく。
「数珠の光……カウントか!」
ルイスが叫んだ。「でも、千以上ある……!一つ消すごとに、一発って……」
「要するに、千発当てれば勝てるってことだろ?」 オレはニヤリと笑った。 「じゃあ、お披露目といこうか。オレの切り札――核融合魔法だ」
杖を構える。 「魔力変換、位相収束、燃料はここに……!」
詠唱とともに、空間が揺れ、青白い光が収束する。中心に、小さな太陽が生まれた。
が――それは数秒で消えた。
「……っ」
もう一度。だが、やはり失敗。三度目も、四度目も、光は現れては消えた。
「な、なぜだ……理論上は……!」
オレは初めて焦った。核融合からの無尽蔵なエネルギーで圧倒する計画が。
「温存しすぎたな、タクマ」レオンの声が低く響く。
「くっ……!」
ツゲラが不敵に笑う。「その顔が見たかった」
一瞬で距離を詰めてきた。剣が閃く。死を覚悟した。が、ツゲラの動きより一瞬早く。
「行けッ!」レオンが叫び、ルイスが鋼鉄の精霊を召喚。ドルナに防御力を付与。ドルナが斧を手に飛び込んできた。
金属がぶつかる音。ツゲラの剣を、ドルナの斧がはじいた。だが衝撃で俺の杖は折れ、右腕に激痛が走る。
「ぐっ……!」
ドルナは吹き飛び、意識を失って倒れた。
「ドルナ!」
リアが回復魔法を放とうとするが、ツゲラの風の刃に吹き飛ばされる。ルイスもその衝撃を受け、魔法詠唱の途中で気絶。オレの体は動かない。
かろうじて立っているのは、レオンだけだった。
剣を構え、ツゲラと対峙する。
「さて……君が最後か、勇者」
ツゲラが静かに歩み寄る。剣と剣がぶつかる直前、レオンの瞳に、かすかな決意が宿った。