表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/15

第4話 雨を操る者

オレたちは冒険を進める。

レオンが顔を上げた。険しい表情のまま、周囲の風の流れに意識を集中する。


「……来る。ヨゲラだ」


空気が、一瞬で重くなった。


魔王直属の副参謀、ヨゲラ。その名を聞くだけで普通の冒険者なら逃げ出すレベルの相手。レオンの言葉に、一同の背筋が凍る。


「炎と、鋼鉄の皮膚……」レオンが低く告げた。


オレはニヤリと笑う。「へぇ、面白いじゃん」


オレは杖を高く掲げ、空に向けて光の魔法陣を描いた。


――シュウウウ……。


音もなく、何かが空へと放たれる。ただの光の粒に見えたそれは、誰にも意味がわからなかった。


◆ ◆ ◆


数刻後、パーティーは開けた平野に到着した。


ヨゲラは、待っていた。


「人間どもォ……燃え尽きろォ!」


咆哮と共に、口から真紅の炎を連続で吐き出す。まるで火山の噴火のような威力に、前線に立つことすら困難だった。


「リア、退がれ! 前に出すぎだ!」レオンの指示に、リアは躊躇いながらも下がる。


「こいつ、近づけねぇぞ……」ルイスが呻く。


そのときだった。


「……雨、降らせよ」


オレは再び呟き、杖を一振りする。


――ザァァァァァ……


突然、空が泣き始めた。大粒の雨が一帯に降り注ぐ。


「っ!? これ……」


「さっき空に撃ったのは、人工降雨の種。上空の湿気を強制的に凝縮させた。ちょっとした“化学兵器”ってやつだ」


ヨゲラの炎は次第に勢いを失い、濡れた地面に蒸気が立ち上るだけになっていた。


オレは笑みを浮かべ、ヨゲラに突進する。杖の先端から鋭く音を立てて水流が発射された。


――シュバッ!


ヨゲラの鋼鉄の皮膚が、スパッと真っ二つに切り裂かれた。彼の目が見開かれる。


「水に、細かいダイヤモンドの粒を混ぜた。いわゆるウォータージェットカッター。物理法則は裏切らないぜ」


ヨゲラが叫ぶ間もなく、その巨体は崩れ、炎と共に霧散する。


残されたのは、赤黒く輝く、ゼリーのような物体。


「……魔の源だな」


レオンが慎重にそれを拾い上げ、特製の封印袋にしまい込む。


「これがある限り、奴らは不死身のようなものだ。だが、これは同時に魔物たちの欲する“動力”でもある。強敵を倒した証だ」


「つまりこれ、けっこうレアってことね」とドルナが言う。


「そう。薬の材料にも使えるし、研究にも価値がある」


「この先、敵はどんどん強くなる…」とルイス。


オレは空を見上げた。まだ雨が静かに降り続いていた。


「敵がどんなに強くても、対策ができりゃ、勝てるさ」


その言葉に、一同が一瞬、黙った。


だが、誰よりも静かだったのはレオンだった。彼の瞳には、微かに複雑な色が浮かんでいた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ