第4話 雨を操る者
オレたちは冒険を進める。
レオンが顔を上げた。険しい表情のまま、周囲の風の流れに意識を集中する。
「……来る。ヨゲラだ」
空気が、一瞬で重くなった。
魔王直属の副参謀、ヨゲラ。その名を聞くだけで普通の冒険者なら逃げ出すレベルの相手。レオンの言葉に、一同の背筋が凍る。
「炎と、鋼鉄の皮膚……」レオンが低く告げた。
オレはニヤリと笑う。「へぇ、面白いじゃん」
オレは杖を高く掲げ、空に向けて光の魔法陣を描いた。
――シュウウウ……。
音もなく、何かが空へと放たれる。ただの光の粒に見えたそれは、誰にも意味がわからなかった。
◆ ◆ ◆
数刻後、パーティーは開けた平野に到着した。
ヨゲラは、待っていた。
「人間どもォ……燃え尽きろォ!」
咆哮と共に、口から真紅の炎を連続で吐き出す。まるで火山の噴火のような威力に、前線に立つことすら困難だった。
「リア、退がれ! 前に出すぎだ!」レオンの指示に、リアは躊躇いながらも下がる。
「こいつ、近づけねぇぞ……」ルイスが呻く。
そのときだった。
「……雨、降らせよ」
オレは再び呟き、杖を一振りする。
――ザァァァァァ……
突然、空が泣き始めた。大粒の雨が一帯に降り注ぐ。
「っ!? これ……」
「さっき空に撃ったのは、人工降雨の種。上空の湿気を強制的に凝縮させた。ちょっとした“化学兵器”ってやつだ」
ヨゲラの炎は次第に勢いを失い、濡れた地面に蒸気が立ち上るだけになっていた。
オレは笑みを浮かべ、ヨゲラに突進する。杖の先端から鋭く音を立てて水流が発射された。
――シュバッ!
ヨゲラの鋼鉄の皮膚が、スパッと真っ二つに切り裂かれた。彼の目が見開かれる。
「水に、細かいダイヤモンドの粒を混ぜた。いわゆるウォータージェットカッター。物理法則は裏切らないぜ」
ヨゲラが叫ぶ間もなく、その巨体は崩れ、炎と共に霧散する。
残されたのは、赤黒く輝く、ゼリーのような物体。
「……魔の源だな」
レオンが慎重にそれを拾い上げ、特製の封印袋にしまい込む。
「これがある限り、奴らは不死身のようなものだ。だが、これは同時に魔物たちの欲する“動力”でもある。強敵を倒した証だ」
「つまりこれ、けっこうレアってことね」とドルナが言う。
「そう。薬の材料にも使えるし、研究にも価値がある」
「この先、敵はどんどん強くなる…」とルイス。
オレは空を見上げた。まだ雨が静かに降り続いていた。
「敵がどんなに強くても、対策ができりゃ、勝てるさ」
その言葉に、一同が一瞬、黙った。
だが、誰よりも静かだったのはレオンだった。彼の瞳には、微かに複雑な色が浮かんでいた。