第3話 暗闇の牙
転生者で魔法使いのタクマ。
勇者のレオン。
戦士のドルナ。
召喚士のルイス。
ヒーラーのリア。
一行は旅を続ける。
「……で、なんでまたこんなジメジメしたとこ通ってんだっけ?」
洞窟。
長い、暗い、じめじめ、そしてクッセェ。まさに、地獄。
「最短ルートです。次の村までは、地上を回ると三日かかるので」
ルイスがしれっと言う。
「なるほどな。でも三日かける価値あっただろコレ」
「文句言うくらいなら戻ってもいいぞ」とレオン。
「まさかぁ、そんなこと言うとでも? お前らが心配で一人じゃ帰れねぇよ」
俺はニカッと笑ってみせる。レオンはため息。ルイスは苦笑。リアは小さく拍手。ドルナは無視。いいねぇ、安定のチーム感。
とはいえ――
この洞窟、思ってたよりも不気味すぎる。
岩肌はぬるついてるし、天井からは水がポタポタ落ちてくる。しかも、音が変なんだよ。反響の仕方が不自然っていうか。何かが、いる。
オレは杖で自分の松明を軽く叩いた。パチッと火花が立ち、洞窟の壁に影がゆらめく。
「……来るぞ」
先頭を歩いてたレオンが立ち止まる。
次の瞬間、天井から――バサッ! と何かが落ちてきた。
コウモリ……いや、違う。でけぇ、鋭ぇ、なんかグロい。
「魔物っ!? 何体もいるッ!」
リアが叫ぶ。すぐに十体近くが群れをなして襲いかかってきた。
暗闇の中、羽音が四方から響く。まるで脳に直接ぶち込まれるような気持ち悪さ。
「よし、ぶっ飛ばすか」
オレは手をかざし、水素と酸素を一点に圧縮する。
圧縮、圧縮、臨界点――!
「待てタクマ!!」
レオンが飛び込んできた。オレの腕をガシッと掴んで止める。
「爆発させたら洞窟が崩れる!」
……チッ、正論。くそ、やる気なくした。
その隙に、魔物の一体がオレの松明に突っ込んできた。バシュッ! 火が消えた。真っ暗。
「くそっ……ルイス! 光の精霊だ!」
レオンの声だけが聞こえる。すぐにルイスの詠唱が始まる。
「来たれ、光よ――!」
洞窟にふわっと灯る小さな精霊の光。……だが、それも一瞬だった。
魔物の一体がルイスに襲いかかり――ズシャッ!
「うああっ!!」
「ルイスッ!!」
リアの叫びとともに、また真っ暗になる。
「待ってね、今リアが治すから…!」
リアの魔法の光がほのかにルイスを照らす。彼女の手が震えている。
目の前にあるのは必死な絆だ。……なんか泣けるじゃん。
けど、余韻に浸ってる暇はない。
次から次へと魔物が襲ってくる。
ドルナが斧を振るい、視界もない中で防御を固める。
「来るなら来やがれ、てめぇら……!」
あいつの勘、マジで鋭ぇな。気配で捉えてやがる。けど、限界も近い。
「なぜだ! なぜ奴らは、暗闇でもこちらの位置がわかる!?」
レオンが叫ぶ。焦りが滲んでる。
……その瞬間、ピンときた。
「ソナーか」
そうだ、あいつらは音で探ってきてる。コウモリの魔物なんだから当然だ。
だったら、こっちもやればいいじゃん。
オレは杖を取り出し、魔法回路を組み直す。
魔力で超音波を発生、反射、解析。――完成。
「フルアクティブ・ソナーオン。」
視界が“音”で広がった。
空間のあらゆる物体の位置と動きが、手に取るようにわかる。
「……なるほどね。全部見えた」
オレは空気中の二酸化炭素を集め、冷却しドライアイスを生成。
固体CO₂を鋭く尖らせる。トゲ。無数に。
「そんじゃ、始めますか――」
一閃。オレの杖から、白銀のトゲが雨のように放たれた。シュバババババ!!
あっという間に魔物たちは串刺し。翼を貫かれ、声もなく崩れ落ちる。
沈黙。残ったのは、ただの闇と、仲間の息づかいだけ。
……あー、やっぱ無双って気持ちいい。
「ふぅ。やっと静かになったな」
レオンが立ち上がり、壊れてなかった松明に再び火をつける。
「まったく、お前の魔法は心臓に悪い」
「いやー、派手なのが好きなんだよね、性格的に」
オレはしれっと返す。
リアはルイスに寄り添って、安心した顔をしている。
ドルナは斧を肩に乗せて無言。汗が伝ってる。
ルイスは……まだ痛みをこらえてるが、笑った。
「ありがとう、タクマさん」
「礼ならあと5回くらい言ってもいいぞ?」
「……ありがとう、タクマさん」
一行は再び松明の光のもと、ゆっくりと歩を進めた。
オレ? もちろん先頭だよ。
誰より先に、“やばい気配”に気づけるからな。