第2話 ドームの夜
あー、マジでつまんねぇ。
今日もオレが一番活躍したな。っていうか他の奴ら、やる気あるのか?
火の粉がパチパチと舞い上がる焚き火を前に、オレは適当な丸太に腰掛けて伸びをした。
「ふん、これが“異世界冒険”ってやつかよ。魔法は原始的だし、科学の勝ちってとこだな」
とか言いながら、チラッと仲間たちの様子を観察する。
まずは、あのドワーフ女――ドルナ。
ちょっと強がりすぎじゃねぇの? 今日の戦闘でも大して活躍してなかったのに、今は焚き火の光も届かない暗がりで素振りしてる。ふらついてんぞ、おい。
「そんなに頑張っても、オレには追いつけないって」
そう言いながら、口には出さずニヤリと笑う。いや、出しても良かったけど、めんどい。
次、勇者のレオン。あいつ、岩の上でなんか瞑想してるぞ。
剣、弱ぇくせに考えることだけは一丁前。つーかそれで強くなれたら苦労しねぇだろ。
「それ、マインドフルネスってやつ?」
って声かけたら多分マジで返ってくるから放っておく。オレ、真面目系面倒。
そして、召喚士のルイス。
こいつはノートみたいな紙束に、なんかガリガリ書いてる。あれか、今日の冒険日誌ってやつか。几帳面かよ。まぁ、どうでもいいけど。
「ってか、お前、それ書いて何になるん?」
って聞いたら、「誰かが見てくれるかもしれませんし」ってニッコリされた。
最後にヒーラーのリア。
さっきからルイスの横にぴったりくっついて「この字なに? これ?」ってやってる。なに、急に知的欲求芽生えた? 子供かよ。いや、子供か。
オレは火に枝をくべながらため息をついた。まったく、みんなバラバラで面白い。けど、どいつもこいつもオレの足元にも及ばねぇ。
「よぉ、リア。あんまり紙にツバ飛ばすなよ。消えるぞ、文字」
「ええ!? ご、ごめんなさいっ!リア近すぎた!」
リアが焦ってとびのいた。
かわいそうに。けど面白いから放置。
そのとき、ポツ……ポツ……と空から冷たいものが落ちてきた。
やれやれ、雨か。
「そろそろテント張るか」とレオンが言って立ち上がったけど、オレはそれを手で制した。
「いや、いい。オレがやる」
「え?」
みんなの視線が集まる。
いいぞ、注目だ。見とけ、これが異世界ハックってやつだ。
オレは地面に手をついて魔法を発動した。
魔力に化学式を織り交ぜ、炭素を結合。合成。
パッ、と空間に透明なドームが形成される。
素材はポリカーボネート系。硬質プラスチック、透明、高耐久、断熱性も良し。まさに、科学の勝利。
「……なんだこれ」
レオンがまじまじと見上げる。
「ドーム。ほら、雨も風もシャットアウト。快適快適」
「これ、どうやって……」とルイスがつぶやく。
「まぁ、ちょっとした化学魔法ってやつよ。分かんないだろうけど」
オレ、どや顔。
一行は半信半疑でドームの中へ入る。
暖かい。静か。雨音だけが、外から遠くに響いている。
「すごい……」リアが目を輝かせた。
「だろ? オレって天才だし?」
みんな、オレをちょっと見直したような目で見てる。
まぁ、それでいい。つか、当然か。
けど、そのときルイスがまた言った。
「……それでも、魔王は倒せません」
静かな声だった。けど、ドームの中ではやけに響いた。
「なんだよ、またそれか」
オレはため息をついた。こいつ、いつも言ってるんだよな。魔王はヤバいって。どんだけビビってんだ。
「見たんです。子供の頃に。近くで。あれは、桁が違いました」
……ふーん。
「気にすんなって。こっちは理系チートだぞ?」
オレは軽口を叩いたけど――どこかで、ちょっとだけ引っかかった。
ほんの少しだけ。
ほんの少しの、違和感。
オレはそれを笑い飛ばし、丸まって眠りに入った。