第12話 成長の証
《ルイスの冒険譚・抜粋》
あれから半年が経った。
魔王城の目前、黒い森を抜けた荒野に立つ五つの影。それはかつて敗北を喫した勇者パーティーの姿だった。しかし、彼らはもはやかつての彼らではなかった。
前方から姿を見せたのは、参謀と呼ばれる魔族──ツゲラ。
レオンは、微かに笑って言った。
「来るぞ」
ツゲラが数珠を撫でながら宙に浮かび、嘲るように語る。
「また貴様らか……。心臓が止まったはずの勇者が蘇るとは。魔の理も揺らぐものだな。面白い。」
だが、それに答える者はなかった。ただ、一人──ルイスが静かに筆を走らせていた。
「風の詩、解き放て」
風の精霊が生まれ、駆け抜ける。
「炎の詩、燃え上がれ」
羽根のような炎がツゲラを包もうとする。
「水の詩、打ちつけろ」
雨のような刃が突き刺さる。
ーー半年前にレオン達一行から離れたルイスは、その足で魔法学院に向かった。文字や文章、それと召喚術を結びつけることができるのではないか。そう考え、高位の召喚士たちと研究を続けたのである。
ツゲラは首元の数珠に魔力を込め、それらを「相殺」して消していく。
一つ、また一つと光が消える。だが、数珠の玉はまだ百以上あった。
「ふん、芸術ごっこか。くだらん」
ツゲラの目がルイスへと向いたその瞬間、レオンが短く叫ぶ。
「今だ!」
タクマが地を蹴った。その体が薄い水色のもやに包まれる。タクマの速度は人間技ではなかった。
レオンの言葉はただの指示ではないーーその強い言葉は、仲間の能力を一時的に強化する。彼は、エンチャンター剣士へと近づいていた。
タクマは一気にツゲラの目前に躍り出る──が。
「小賢しい」
ツゲラが呟くと同時に、その周囲に熱の壁が生じた。
灼熱領域。空気が揺れ、地面が焼ける。風が焦げる匂いを運ぶ。
タクマは咄嗟に身を翻し、剣の斬撃をギリギリで避ける。
「ちっ、熱ッ……!」
瞬く間に、体内の水分が蒸発していく。全身が乾き、視界がかすむ。
「タクマ!」
リアが叫び、駆け寄る。彼女の手には小瓶が握られていた。水と塩を合わせた、独自の点滴魔術。それをタクマの腕に注ぎ込む。
「水分だけじゃダメ、塩分も必要……私たちの体の仕組み、もうわかってるから!」
ーールイスから文字を教わったリアは、自分の使える魔法を書き出し続けた。そしてそれらの共通点から分類を行った。リアは知の体系化を身に着けつつあった。
さらにタクマの前世での知識と合わせ、リアは未熟ながらも魔法世界に医術を誕生させたのだ。
リアの魔力が流れ込み、タクマの意識が戻る。
しかし──その間にツゲラの剣はリアを狙っていた。
「間に合わん……!」
その瞬間、剣の軌道が逸れた。
──ドルナだった。
「こっちだ、魔族」
彼女は、巨大な盾を構え、静かに立っていた。盾には引力の刻印が灯っている。敵意を感知し、自身へと引き寄せる特異な防御スキル。
「私は、守る側を選んだ」
ツゲラの剣が何度も盾を打ち鳴らす。その度に火花が散り、ドルナの脚が震える。それでも彼女は動かない。
その背後から、タクマが立ち上がる。
「──ありがとな。今度はオレの番だ」
タクマは杖を背中に収め、二つの拳を握った。杖に魔力が集まり、拳へと注がれる。
「科学も魔法も拳も、全部合わせたらどうなるか──見せてやるよ」
タクマの拳が、ツゲラの腹部にめり込む。
「がっ……!」
「オラオラオラ!魔術師は遠距離で戦うと思ったか?あいにくと物理で殴る楽しみを覚えちまってな!」
何発も、何十発も。
ツゲラは相殺魔法を発動しようとするが、距離が近すぎて発動できない。
最後の一撃。
タクマは、渾身の魔力をこめた拳を打ち下ろす。
「終わりだ、ツゲラ!!」
ツゲラの身体が地に沈み、数珠が砕け散った。
静寂の中、風が一筋吹き抜ける。
こうして、かつてツゲラに敗れたパーティーは──半年の時を経て、完全に蘇った。
そして彼らの先には、ついに。魔王の居城が、その黒き尖塔をそびえさせていた。
《抜粋ここまで》




