7.味方と核心
「ラファエラ…?これは一体───」
「ロベルトさん!ごめんなさい私今ラファエラさんの体を借りてる?清野加奈って言うんですけど、このままだとエラたんが捕まっちゃうんです!」
「…は?」
明らかに動揺して怪訝な表情のロベルトに自分の語彙力のなさを呪う。けれどここで協力して貰えなければ完全に詰みだ。
「自分を助けたいんです!お願いします!協力してください!!」
必死に頭を下げる加奈の気迫にロベルトは戸惑いながらも頷いてくれる。一縷の希望が見える。けれど残された時間は多くない。
「えっと、まず───」
「ちょっと失礼。」
慌てて状況を説明しようとする加奈を制止し、ロベルトは加奈の額に手を置いた。
「思考解読。」
僅かな時間の後、驚いた表情をしてから「成程」と言ってロベルトは手を離した。
「事情は理解した。信じ難い事だが事実のようだ。こちらこそラファエラを救おうとしてくれて感謝する。」
「えええ?今ので分かったんですか??」
「オレの特殊能力の一つだ。直近の記憶しか読めないのが難点だがな。」
頼もしいを通り越して少し怖い。
「凄っ。何で今まで使わなかったんですか。」
「君と一緒だ。俺が自分の能力を知ったのはつい最近の事だからな。恐らくその話と今回の件も関係があるはずだ。」
「え!?ちょ、詳しく!」
移動し始めるロベルトの横を小走りについていく。「歩きながらになるぞ」と断りを入れてから、彼は話し始めた。
「俺が15歳の時に倒れたのは知っているだろう?それまでは健康だったし、異変もなかった。」
「はい、ラファエラたんとラブラブしてました。」
「そっ!れ、は、いいから!とにかく病気になる直前にあった事と言えば能力判定だ。」
この国では15歳になると神殿で個々の能力を検査する。その能力に応じた職を選ぶ者も多い。
加奈はラファエラはどうだったのか記憶を辿り、結果を聞いていなかった事を思い出した。検査はしたものの王家の婚約者には伝えられないと神官長直々に言われ、そうなのかと素直に納得していた。
「あれ?でもラファエラは教えて貰ってなくないですか?」
「俺もだ。普通では有り得ない。」
君のように力技で自身の能力を知るのも有り得ないぞ、と言われ加奈は笑って誤魔化す。なんかスミマセン。
「それに考えても見てくれ、俺やラファエラの能力はかなり強力だ。使い方は難しいが国を率いていくのには歓迎されるはず。それなのに俺様は事実を知らされなかったた。おかしいと思わないか?」
「確かに…。」
「俺は違和感を覚えたが、病気を理由に神殿に監禁された。面会は謝絶されどうにも出来なかった。」
そこでちょうどモニカの傍に到着し、額に能力を発動する。
「モニカ嬢は領地への援助継続をダシに脅されていたらしい。君と対面し、薬を飲んで倒れる手筈が弟が失くしたらしく、ケチャップで誤魔化せと言われたようだ。」
「無茶苦茶するなぁ…」
「王太子ではあるが、その、弟はあまり───」
「ポンコツですもんね。」
「ま、まぁ、国を率いるには多少心配にはなる性格だ。」
ジト目で「優しいですね」といえば「君は言葉を選んでくれ…。」と言われてしまう。解せぬ。
ロベルトは給仕の男にも能力を使うが「彼はリカルドに頼まれて君の近くにいただけらしい」と言って歩き始めた。
「ともかく、弟が心配ではあったが、ラファエラが隣で支えるなら何とかなると思っていた。彼女の素晴らしさは誰よりも知っている。」
「でも!ラファエラは」
「彼女は王妃になるべき人だ。最も尊き女性に。それに、俺はいつ死ぬかも分からなかった。」
眉を下げ微笑むロベルトは、悩んで国とラファエラのために、全てを飲み込んで諦めたのだろう。儚げなイケメン、尊い。
人の間を縫うように移動したロベルトはリカルドにも能力を使う。黙り込んだ彼は「これで繋がった」と呟き駆け出す。加奈は「どうしたんですか!?」と慌てて後を追った。
「予想もしなかったのは癒しの能力を持つ彼女が独断で俺を完治した事だ。」
「独断…?」
「彼女は能力判定を受けたその足で俺を治癒した。正式な申請や手続きをすっ飛ばし勝手に行ったらしいが、お陰で妨害もされず完治できた。」
「流石、猪突猛進…。」
「彼女は重要な事も教えてくれた。治癒と同時に部屋に置いていた鏡が割れた。…この男から贈られた品だ。」
足を止め肉々しげに睨むロベルトの視線の先には見覚えのある人物がいた。彼は柔和な表情で微笑んでいた。