第1話 爆臭詠唱デビュー戦!〜転生スキル【体臭:強】、異世界でめっちゃクサい〜
ようこそ、異世界スメル譚へ!
転生したら“体臭”でした――というおバカな導入から始まりますが、
物語はただのギャグじゃありません。
“魂”、“因果”、“ありがとう”が紡ぐ、感動と覚醒のスキル冒険譚です。
初回はテンポ重視でド派手にいきますので、ぜひ楽しんでください!
※感想・ブクマ・レビュー、どれか一つでも超励みになります!
空が、くさかった。
いや、正確には──地面のど真ん中に、半透明のスライムの亡骸が横たわっていた。そしてそのスライムは、蒸気のようなものを上げながら、確かに……くさかった。
「うおっ、やっぱり臭い……!スメル、あんた何してくれてんのよぉおお!」
爆発音とともに少女が地面に着地した。栗色の三つ編みが揺れ、真紅のマントがはためく。杖を手にしたその少女の名はティナ。見た目は清楚。中身は魔法バカ。
「いや、オレじゃない!オレは詠唱しただけで……!」
「その詠唱が臭かったのよ!」
少女の叫びとともに、異世界の草原にしばらくの沈黙が走る。
スライムは跡形もなく蒸発し、残されたのはぷるぷると震える地面と、異様な硫黄のような匂い。
──スメル。
それが、この物語の主人公である“スキル”の名だった。
そう、彼は人ではない。スキルである。しかも体臭のスキルである。
(くそっ……どうしてこうなった……)
スメルは内心でそう唸りながら、ティナの頭の中でこっそり呟く。
(てか、ちょっとは褒めろよ……今の、スライム一撃だったろ?)
「うん、まあ……倒せたのはすごいけど……でもくさいのよ!その後ろの牛さん倒れてるし!」
「モ〜……」
通りすがりの荷馬車用の牛が目を回して倒れていた。完全にスメルの爆臭が巻き込んだ形だ。
「まったくもう!詠唱の途中で“回れ、舞われ、周れ”とかやめてよね、なんでそんな演出入れたのよ!」
「いや、語感が良かっただろ?しかも“廻れ”にしとけばもっと神秘的だったのに……って、あ、ダメか。アニメで字幕が難しいな……」
「何の話してんのよおおお!」
叫びながら、ティナはスメルのスキルウィンドウをぺちぺちと叩く。だが、空を叩いてもスメルに物理的ダメージはない。彼はスキル。物理攻撃無効だ。
(ティナって、なんだかんだで可愛いよなぁ……あ、今の内心、絶対伝わってる……)
「伝わってるわよッッッ!」
ティナの顔が真っ赤に染まる。耳まで真っ赤だ。だけど、どこか嬉しそうなのがまた可愛い。
……だが。
その瞬間、空気が変わった。
「……スメル、なんか来る」
ティナが呟くと、風が止まり、草原の先の森がざわめいた。
木々が不自然に揺れる。
──バサァッ!!!
黒い影が跳ねた。
「……マジで!?森熊!?いや、あれ火を吐いてるから“ファイヤーベア”じゃん!」
ティナが慌てて距離をとる。
先ほどのスライムとは比べ物にならない巨体。赤い斑点が浮かぶ毛並みに、火花を散らす咆哮。
「ティナ、落ち着け!今こそ俺を使え!新しい詠唱、今こそ披露する!」
「え、今ここで新作詠唱!?どんだけフリーダムなのよ!」
「いくぞッ……!!」
(素数の数、深き回転を知れ──)
ティナは一歩前に出て、杖を構える。
スキルウィンドウが開かれ、スメルが起動する。
「集え、集え、集え……穿て、穿て、穿て……周れ、廻れ、巡れッ!」
詠唱とともに、地面が幾何学的に光り始める。五芒星でも六芒星でもない、何かもっと複雑で……神秘的な図形。
「“スメル・フラクタル・エクスプロージョン”!」
──ズバァァァアアアアンンン!!!
火炎を浴びていた森熊が、スローモーションのように吹き飛び、草原に大穴が空いた。
ただし、爆風とともに広がったのは、異様なまでの悪臭。
「……ギルド……ギルドに登録行ってきますッ……!」
ティナは叫びながら走り去る。
スメルはその背を見送りながら、風に漂う硫黄の香りと共に呟いた。
(俺の、異世界生活が始まった……)
──その日、ひとつの草原が消えた。
地図からではなく、臭気により“消された”のだ。
「すぅ〜〜……はぁ〜〜……」
空気を読まない少女が、胸いっぱいにスーハーしていた。
「……よし。気絶しなかった。これで耐性Lv.2ね」
「意味わかんねぇよ……なんで嗅いでんだよ……ッ!」
スメルがあきれたようにティナの頭の中で呟いたが、彼女は至って真剣だった。
「耐えられるなら味方も一緒に戦えるじゃない。そしたら、パーティー組める!」
「臭い前提で組むな!そこは改善を考えてくれよ!」
「だってあんたスキルじゃん?臭いっていうアイデンティティなくなったら……」
「俺、消滅する……!?」
不穏すぎる未来を感じて、スメルの内部データにエラーが点滅する。生まれ変わったばかりのスキルにしては、やけに繊細なハートの持ち主だった。
「とにかく、ギルド行こうギルド!爆臭スキルは登録しておかないと!」
ティナがぱたぱたと草原を駆ける。その背中には、爆風でなびくマントと、謎のスキルスロットが光る。
(……しかし俺は思うのだ。どうして俺は、こんなスキルになったのか)
スメルには思い出がない。
記憶の底に微かに残るのは、“ありがとう”の声と、誰かを助けたいという漠然とした願い。
その思いだけが、彼をスキルとして目覚めさせた。
(スキルってさ、普通はしゃべらないんだよな……)
他のスキルは無言で効果を発動し、使用者に合わせて力を貸すだけ。
だがスメルは違う。
意思があり、記憶があり、なにより──ツッコミが激しい。
「ねぇスメル、ギルドでの登録名、なんて名乗る?」
「……え、【体臭:強】じゃないの?」
「いやいやいや、それじゃギャグ枠確定じゃない!」
「えっ……違うの?」
「違うわよッ!あたしの相棒は、世界一カッコいいスキルにしてあげるんだから!」
(おまえ、いい奴かよ……)
ちょっとだけ、涙腺が刺激された気がした。
この世界で“ありがとう”をくれた最初の存在は、ティナだった。
彼女の“詠唱”を通じてしか、スメルは力を行使できない。
逆に言えば、ティナがいなければ、スメルは“存在できない”。
この“因果のペアリング”が、この物語の始まりだった。
──街が見えてきた。
赤茶色の屋根が連なる中規模の都市。
空に広がる雲の下、冒険者たちが喧騒と笑い声を届けてくる。
「おかえり〜ティナちゃ〜ん!」
門番が手を振ってくる。どうやら顔なじみらしい。
それに対してティナは満面の笑みで手を振り返す。
「ただいまっ!今日はすっごいスキル拾ったの!」
「またヤバいの連れてきたのか……?」
「前回の召喚爆発は忘れて♡」
門番が目を伏せた。多くを語らないその表情から、ティナの過去のやらかしが伝わってくる。
そのまま彼女は、ギルドの建物へと駆け込んだ。
──ギルドの中は、いつもに増して騒がしかった。
酒の臭い、汗の臭い、剣と魔法の気配。そして──
「セリアさーん!スキル登録お願いしまーす!」
「あら、ティナちゃん。……今日はどんな“珍スキル”かしら?」
受付カウンターから現れたのは、長身でボリューム感あふれる美人。ギルド受付嬢・セリア。
その胸囲、ティナの二倍。
いや、三倍。
いやいや、もっとある。
「なんで今日もそんなにボンキュッボンしてるのよ!」
「さぁ?このくらいは普通でしょ?」
言いながらセリアが身を乗り出すと、重量の都合でカウンターの木がギシギシ鳴る。
ティナのこめかみがピキッと音を立てた。
──空気が焦げる。
「セリアさん、スキル登録……しようとしてますよね?」
「そ、そうよ。お姉さん、真面目にやるわよ。で、どんなスキルなの?」
ティナが杖を構え、スキルウィンドウを展開。
──次の瞬間、ギルド中が沈黙に包まれた。
「……なんか……臭くない?」
「誰か、生ゴミ魔法でも発動したか?」
「いや、これは……!!」
セリアが目を細め、驚愕した。
「“未鑑定スキル”。しかも、分類不能。前代未聞……」
「すごいのよ!スライムがひと嗅ぎで爆散したの!」
「いや、戦果として言ってるけど、被害報告のほうが多い気がするのよね……」
その後、数十分に渡ってスメルのスキル登録と調査が行われ──
結論として、こう記された。
──スキル名:【???】
──仮称:【スメル】
──分類:存在拒絶型/臭気干渉型/覚醒スキル疑惑あり
──備考:意識あり/言語発話あり/スロット内通信可/他者認識されにくい
──登録ランク:……保留(現在世界に類例なし)
「……俺、ギルドからヤバい扱いされてね?」
「大丈夫よ!私がいる限り、どんなスキルだってヒーローになれる!」
ティナの笑顔が眩しくて、スメルは黙った。
(ありがとう……)
それは、転生して初めて自分が思った“ありがとう”だった。
──ギルド登録騒動の翌朝。
ティナは目をこすりながら目覚めた。
スキル登録は終わったものの、スメルの詳細は未だギルド内で“要監視枠”扱いである。
「おはよう、スメル〜……」
「おう。お前、寝言で“臭いは正義”って10回くらい言ってたぞ」
「えっ、マジで? うわー、夢の中でスキル演説してたかも!」
(こいつ、夢の中で詠唱するタイプだ……)
「ということで今日は、ギルドの依頼受けよう!」
「いやいや、もうちょっと穏やかな日常から始めようよ! 俺の臭いで死人出るぞ?」
「“臭いで死人”とかワードパワー強すぎ!」
結局、ティナに押し切られて、ギルドの依頼掲示板の前に来てしまったスメル。
朝から賑わうギルドの酒場は、依頼者と冒険者でごった返している。
「ふふ〜ん、初級依頼っと。……お、これこれ! “地下遺跡のスライム掃除”!」
「またスライムかよ!? 俺、前回、分裂して倍に増やしたぞ!?」
「分裂のあとに臭気で全滅させたでしょ!?」
「いや、ギルドの床まで溶けてたんだけど!?」
掲示板の横では、他の冒険者がひそひそと噂していた。
「おい、あれが噂の爆臭少女か?」
「一日で3件、依頼を無に帰した伝説の新人……!」
「ていうか、スキルがしゃべってるって本当?」
(なぜだ……なぜ俺はこんなにも噂されている!?)
「いっくよー!スメル! 爆臭、起動準備っ!」
「やめろ! ここギルド内! 室内戦は禁止って書いてあるだろ!?」
ティナが杖を構え、詠唱を始める。
「集え、集え、集え……回れ、舞われ、周れ……!」
地面が揺れ、空間に幾何学図形が浮かび始めた。
「バカッ! 詠唱すんな! そのまま撃つ気だろ!? ギルド壊れるぞォォォッ!」
――そして。
「待ちなさーいッッ!!」
怒声とともに、セリアがホールのカウンターを飛び越えて突っ込んできた。
彼女の巨乳がまるで空気抵抗のようにバフンと揺れた。
「ギルド内詠唱、爆臭スキル発動、飲酒エリアでの魔力干渉……全部アウトです!!」
「えー!? えー!? 今ので詠唱完了してないよぉ!? いけたでしょ!? 8割くらいは!」
「だからそれがアウトなのよォォォ!!」
セリアがティナのマントを引きはがすと、スメルが悲鳴を上げた。
「ぎゃあああっ! 擬態布のマントが! 臭いが漏れちまうー!」
瞬間。
――ドオォン!!!
室内でスライム爆発のような臭気弾が炸裂。
酒場全体が臭気で麻痺した。
「…………」
「…………」
「誰か……ギルドに空気清浄機を……」
「…………ある意味、攻撃より強いわよね、このスキル……」
その日、スメルのスキル登録ページには以下の記述が追加された。
──【臭気爆発事故:室内不可】 ※発動時、地形・空間・空気が変質する恐れあり。
──そして、それは偶然ではなかった。
(なんだ、今の反応……俺のスキル、進化しかけた?)
スメルの中に、確かに“何か”が走った。
脳裏に一瞬だけ浮かんだ、幾何学図形のような映像。
──それは、“因果式”。
(あれは、ひょっとして……)
ティナが黙ってスメルの方を見た。
「ねぇスメル。いま、何かが発動しかけたでしょ?」
「ああ……俺も感じた。なんか、式みたいなヤツが」
「やっぱり……!」
彼女は目を輝かせた。
「これ、きっと“因果式”よ! 世界に眠る、1001個の因果のトリガー!」
「なにその厨二病ワード全開なシステム!?」
「ほら、ちょうど今朝、夢で見たの。“ありがとう”が1001回集まった時、世界が反転するって……!」
「それ絶対フラグじゃん!! 中盤で世界崩壊するヤツじゃん!!」
「でもね……スメル、今の爆臭で、ギルドの皆を助けたの」
ティナの言葉に、スメルはぎょっとする。
「いやいや、助けてねーよ!? 全員倒れてただろ!?」
「スライム依頼。あれね、ギルドに潜伏してたの。荷物に紛れてたのよ。で、あんたの臭いで全部炙り出されたの」
「……マジか」
「偶然だと思う? それとも、因果が呼んだ奇跡?」
ティナが笑う。
その目には、自信と、期待と、ほんの少しの祈りが宿っていた。
「スメル。これ、たぶん第一因果式だったのよ」
「ありがとうを、ひとつ、もらえた瞬間だった」
スメルの心が震えた。
世界にとって、自分は“スキル”かもしれない。
でも、ティナにとっての自分は──
「相棒なんだな、俺……」
「うんっ!」
その日、因果式“第001式”が、世界のどこかに刻まれた。
そして、スキル【スメル】の物語が、動き出したのだった。
最後まで読んでくれてありがとうございます!
初回からスメルとティナが爆走してますが、ここからさらに加速します。
伏線? 感動? ギャグ? スキル爆発? → 全部あります!
次回:「スキル鑑定士、鼻をつまむ。」(仮)
お楽しみに!
お気軽に感想ください!ティナも喜びます(セリアも出番ほしがってます)