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過去の被害者の存在と謝罪への決意

 騎士団詰所の近くの小さな空き地に移動して、幸太郎たちはロゼッタの取りなしで簡単に状況を確認することになった。

 男は名をアレンと名乗り、最近、ある女性が「鬼畜オヤジにひどい目に遭わされた」と泣いているのを見て我慢できなかったという。

 「けど、その娘は詳しいことを話してくれなくて……ただ、悲しそうに“あの男だけは許さない”って言うばかりだったんだ。だから俺がやってきたんだよ」


 アレンが憤りをこめて話すのに対し、幸太郎は苦い顔のまま言葉を探す。

 「……ほんとに、過去の鬼畜行為が原因だろうな。俺に心当たりがないわけじゃないけど、でも、俺は今の俺で……」

 「少なくとも、最近は何もしていないと思う」


 横からロゼッタが口をはさむ。

 「王都巡回の記録を見ても、彼が暴力を振るった報告は入ってない。むしろ、ここ数日は屋敷の掃除をしていたとか、メイドに礼を言っていたとか……そんな情報しかないわ」

 「お、おいロゼッタ、それって……俺のこと調べてるのか?」

 「騎士団として当然でしょ。あなたの悪評、なかなか広まってるもの」

 幸太郎は思わず苦笑した。


 ミウが申し訳なさそうにうつむく。

 「でも、その女性がつらい思いをしているなら、なんとか助けてあげたいですね。ご主人様、何か手がかりはないんでしょうか」

 「うーん、正直……この身体の前任がどんな相手に酷いことをしたのか、全部はわからないんだ。けど、もし直接話す機会があるなら、ちゃんと謝罪したい。できることなら償いたい」


 アレンはそれを聞いて目を丸くした。

 「……口先だけじゃない、って言いたいのか。変に思われるかもしれないけど、どうしてそんなに必死なんだ?」

 「いや……俺は変わりたいんだ。もう鬼畜みたいなことはしたくないし、人を傷つけずに生きたい。そうしないと、自分が許せないから」


 幸太郎が力なく笑うと、アレンは剣の柄に添えていた手をそっと離した。

 「お前みたいなオヤジを本気で殴ってやろうかと思ってたけど……どうも真剣そうだな。じゃあ、その娘と直接会って話をしてくれないか」


 ミウが安堵の息を吐き、幸太郎の腕をぽんと叩く。

 「よかった……話し合いで解決するなら、まだ希望ありますよね」

 ロゼッタは腕組みをしながら、やや憮然とした顔でうなずく。

 「騎士団としても、これ以上勝手な暴力騒ぎは困るし。もしその女性を探し出して話をしてくれるなら、私たちも協力するわ」


 アレンは少しだけ表情をゆるめて、うつむく。

 「……悪かった。勝手に乗り込んで、目の前で見たメイドさんまで守ろうとする姿を見て、少し考えが変わったよ。でも、信じるかどうかは、今後のあんた次第だ」

 幸太郎は胸をなでおろしつつ、なんとも言えない複雑な思いを抱えながら口を開いた。

 「わかってる。俺はもう一度、自分のやらかしたことと向き合わなきゃいけない。だから、その人と話せるようにしてみるよ」


 そう宣言すると、ミウもニコリと笑みを向ける。

 「はい、私も一緒に探しますね。もし相手が怖がっているなら、私が間に入りますから」


 アレンも深くうなずいた。

 「じゃあ、しばらくは互いに情報を探そう。俺だって、その娘がどこまで被害に遭ったか詳しくは知らないんだ。会えたら連絡する……いや、どうやって連絡すればいいんだ?」

 「そっか、俺の屋敷……カガミ家に。いつでも構わないよ」

 アレンは何か釈然としないまま顔をそむけた。

 「了解。もし自分が間違ってたら謝るけど、あんたが本当に鬼畜なら、その時は容赦しないからな」

 そう言い残して、彼は大股で去っていく。


 幸太郎は残されたロゼッタに向けて、おそるおそる声をかけた。

 「ごめん、また面倒かけたな」

 「いえ、仕事だから。あなたが大人しくしてくれるなら問題ないわ」

 彼女のそっけない返事に、幸太郎は苦笑した。


 ミウがその横で、心底ほっとしたように息をつく。

 「でも、話し合いで済んで本当によかったです。やっぱりご主人様は変わろうとしてると思いますよ」

 「ありがとう。俺、いろいろ調べてみる。もし過去に傷つけた相手がいるなら……なんとか解決したい」


 ロゼッタは複雑そうな目をしたまま、騎士団の同僚らしき部下に軽く指示を出している。

 「あなた、変わったと周囲に思わせたいなら、こういう事件こそ大事よ。騎士団や貴族が見ている場で、ちゃんとケリをつけなさい。そうじゃないと、汚名返上なんて難しいわ」

 幸太郎は深くうなずいた。

 「わかった。必ず自分で解決してみせる」

 彼のその言葉にミウは穏やかに微笑み、ロゼッタは少しだけ目をそらしながら、

 「……あなたが本当にそうなるのを期待してるわけじゃないけど。ま、頑張れば」

 そう呟いて、くるりと踵を返す。

 幸太郎は傷ついた外套を手で押さえながら、胸の中に決意を込み上げさせていた。

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