表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/21

“鬼畜オヤジ”制裁騒ぎ

 「本当にご主人様が食堂に来られるとは、思いませんでした」

 屋敷の一角にある食堂で、ミウがテーブルを拭きながらうれしそうに言った。

 「いや、俺も……今までメシすらまともに一緒に食べられなかったなんて、なんか寂しいよな」

 幸太郎は椅子を引き、恐る恐る腰をおろした。

 食卓には簡素なスープとパンが用意されている。

 「鬼畜とか噂されてるわりには、質素な食事だよな……」


 彼がそうつぶやくと、ミウははっとした顔で布巾を握ったまま立ち止まる。

 「ず、ずみません。もっと豪華にすべきなんでしょうけど、料理長が“あの人は贅沢してもすぐ文句を言うから”と、あまり協力してくれなくて……」

 「いや、いい。俺はこういう地味めの食事のほうが実はありがたい」

 幸太郎がそう言うと、ミウは少し笑って椅子を引いた。

 「じゃあ、私も隣でいただいていいですか。なんだかご主人様と一緒に食べるの、初めてなので」

 「もちろん、むしろ一人で食べるのも寂しいし」

 彼が恥ずかしげに答えると、ミウは嬉しそうに小さく胸の前で手を合わせてから腰を下ろした。


 スープを一口すすったあと、幸太郎は周囲を伺いながら小声で言葉を続ける。

 「実はさ、俺……ほら、この姿になる前は違う世界にいて……」

 と言いかけて、彼は慌てて口を結んだ。

 ミウは首をかしげる。


 「ん? 違う世界って、どういう……」

 「あ、いや、まあ……なんでもない。とにかく俺は、今までのやり方が酷すぎたってことを言いたいんだ。だから少しずつ変えたいんだよ」


 そう打ち明けると、ミウはにこっと笑みを浮かべる。


 「うん。私、あまり難しいことはわかりませんけど、今のご主人様はすごく優しいと思います。みんな、気づいてくれたらいいのにな」

 「そうだな……でも俺、まだ皆に警戒されてるんだよな。どうすればいいんだか」


 彼が肩を落とすと、ミウは隣からそっと手を伸ばし、彼の手の甲を軽く包む。

 「焦らず行きましょう。あたたかい言葉と行動は、きっと伝わるはずです」

 その瞬間、幸太郎はメイド服の袖越しに感じるミウの肌のぬくもりに、どきりとした。

 「あ、ありがとう。俺……頑張るよ」

 「はい。一緒に頑張りましょう」


 そんな和やかな空気を破るように、廊下のほうで「きゃっ!」という小さな悲鳴が上がった。

 「今の声、誰だ?」

 幸太郎とミウは慌てて椅子を立ち、扉を開けて廊下に出る。

 そこには、別のメイドが青ざめた顔で立ち尽くしていた。


 「ご、ご当主様っ。変な噂を聞いてきた男の人が玄関で騒いでて……『鬼畜オヤジに制裁を下す』って……」

 メイドが怯えながら説明する。

 幸太郎は唇をかみしめながら苦い思いを飲み込んだ。


 「やっぱり……あの悪評が広まってるのか。とにかく落ち着こう。俺が話しに出ていく」

 「で、でも……あの相手、見た感じかなり気が荒いようで」


 メイドがおずおずと幸太郎の服の袖を引っ張る。

 ミウはそんな彼女の背中を撫でながら、幸太郎を見つめて言った。

 「ご主人様、私も一緒に行きます。危なそうなら私が止めますから」

 「いや、ミウが前に出るわけには……でも、一人より助かるか。頼むよ」

 そう返してから、彼は内心で(これが女性に頼ってばかりの情けなさだよな……)と心の中で眉をひそめた。

 だが、今はそんなプライドを張ってる場合でもない。

 「よし、とにかく玄関へ行こう」

 幸太郎はミウを伴って廊下を進み、声のする方向へ急いだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ