孤立する“鬼畜オヤジ”と決意
翌朝。
幸太郎……もといカガミ・コウタロウという中年の姿をした男は、屋敷の階段を重たい足取りで降りていった。
「おはよう……って、誰も返事しないのか」
薄暗い廊下には、まばらにしか人の気配がない。
手近な使用人に声をかけてみれば、さっと目をそらして走り去られてしまった。
「……相当、嫌われてるのか。ってか、確かにこの体はゲームの“鬼畜オヤジ”らしいし……仕方ないのかも」
彼は口元を歪め、思わず苦笑した。
屋敷の大ホールに出ると、広々とした空間が目に映るものの、そこかしこに埃がたまっていて雑然としていた。
「こんなに散らかってて……どうなってんだ。金はあるっぽいのに」
彼は床に落ちた紙くずを拾いながら、小さく首を振る。
そこへ、遠巻きに使用人の一人が困った顔で言葉をかけてきた。
「ご、ご当主様。今朝の朝食なら、すでに片付けましたが……」
「え……片付けたって、普通、主人が起きるまで残しとくもんじゃ……いや、いいんだ。どうせ俺のこと嫌なんだよな」
使用人は申し訳なさそうに頭を下げつつも、どこか怯えたまま後ずさる。
幸太郎は胸の奥に妙な痛みを覚えた。
「これは、前の“鬼畜オヤジ”としての行いが余程ひどかったってことか。ゲームでの主人公みたいに好かれまくるとか、程遠いな」
頭をかきむしりながら、彼は窓の外を見つめた。
「でも、ゲームだと、この世界の女の子たちを好き放題に……って設定だったよな。俺はそんな真似、絶対できない。けど……あのエロいシーンを思い出すと、ちょっとドキッとするのも事実。俺、最低か?」
実際のゲームCGにあった、ヒロイン達を強引に押し倒すシーンや拘束して好き放題するシーンを思い出してしまっていた。
猥想で頭が一杯になり、妙に自己嫌悪が襲ってくる。
「まぁ、ゲームの攻略情報なら一通りわかってるし……なんとか普通の仲良しルートでいけないものか」
彼は何度もうなずき、まずは身なりを整えようと決意した。
つや消し状態の髪をとりあえず櫛でとかし、汚れの目立つローブの代わりに、クローゼットにあった少しはマシな外套に袖を通す。
「うわ……鏡見ると完全に中年……でも、まぁ、さっきよりはマシか。いっそ屋敷も掃除して……イメージ変えてやる」
大きく息を吐き、使用人たちに「今日は大掃除を手伝ってくれないか?」と声をかけたところ、皆こわばった表情で首を縦に振った。
「俺、やるからには本気でやる。もう鬼畜路線はゴメンだ」
そう言い切ってから、彼は埃をかぶった床に跪き、黙々と磨き始めた。