次なる作戦
屋敷に戻った幸太郎たちは、急ぎ広間に集合し対策会議を開くことになった。ニーナは応急手当を受け、ベッドで横になる。アリシアとミウも駆けつけ、ロゼッタと椿を含めた主要メンバーが勢ぞろいする。
「ニーナさん、思ったより軽いけがでよかった……もう少し遅かったら大変でしたね」
ミウは涙ぐみながら安堵の声を漏らし、椿は深い息をついて同意する。
「何者かが本当に無理やり連れ去ろうとしたのは間違いありません。ご主人様を狙う理由があるのか、ニーナさんを人質にしようとしたのか……」
ロゼッタは机に広げた地図の上に、情報を書き込みながら言う。
「門の近くで倒れていた男を騎士団が取り調べているところよ。その男、バルド・デュアルテって名の貴族の下働きらしいけど……どうもこの国の正規の貴族筋とは別ルートで動いているって話ね」
幸太郎はその名を聞いて、ぎゅっと拳を握る。
「バルド・デュアルテ……俺はゲームの知識で知ってる。あいつはとにかく手段を選ばない最悪の奴だった。女だろうが領地だろうが、徹底的に踏みにじるような……」
アリシアが厳しい表情で唇を結ぶ。
「確かに、私も悪評だけは耳にしていたわ。噂だけでも胸が悪くなるような話ばかり。あなたを陥れるためにニーナさんまで巻き込むなんて、絶対許せないわね」
椿が視線を落とし、静かに言葉を足す。
「ご主人様、どうか指示を……このまま放っておけば、また誰かが狙われます。私たちも動かないと」
幸太郎は大きく息を吸ってから、強い口調で答えた。
「……わかった。もう逃げてばかりじゃいられない。必ずバルド・デュアルテを突き止めて、こんな卑劣な行為を止める。俺だって、みんなを守りたいんだ」
ロゼッタは地図を指し示しながら、皆を見回す。
「じゃあ具体的な作戦を立てましょう。アリシアと私は貴族のつながりを探って彼の居所を洗い出す。椿は剣術仲間から裏情報を集めて。ミウは屋敷でニーナの看病と雑務の補佐を」
幸太郎はそれを受け、テーブルに手をついて深くうなずく。
「俺も全力で情報をまとめるよ。あいつを野放しにしておくわけにはいかない。前の“鬼畜オヤジ”と呼ばれていた自分を変えたいんだ。ゲームで見たあの悲惨な展開は、現実では絶対に繰り返させない」
ミウが頷きながら、「はい、私もお手伝いします」と決意を示す。アリシアは扇子を軽く握りしめ、椿は静かに刀の柄を確かめるように触れる。
(ニーナは助かった。でも、ここが始まりだ。バルド・デュアルテ――ゲームの悪役そのままの存在をこの世界で放置すれば、最悪のシナリオに転がりかねない)
幸太郎は胸の奥に熱いものを感じながら、仲間たちと視線を交わす。広間に揺れるランプの光が、それぞれの決意を照らし出していた。
こうして“鬼畜オヤジ”と呼ばれた男は、真の紳士として戦う覚悟を示したのだった。