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ニーナ失踪

 ドタドタと重い足音を立てながら、幸太郎と椿は廊下を全力で駆けていた。階段を昇りきった先にあるニーナの部屋の扉は、鍵もかけられず半開きのまま。


 「ニーナ、いるか? 開けるぞ!」


 返事はなく、幸太郎が部屋に飛び込むと、書類や本が散乱し、窓が大きく開け放たれているのが目に入る。夜風でカーテンがばたばたと音を立て、室内を不安に揺らしていた。


 「……これは、何かあったとしか思えないな」


 椿も険しい表情で部屋を見回す。

 「荒らされたような形跡がありますね。ニーナさんご本人が逃げたのか、それとも……」


 幸太郎は、床に落ちたニーナのノートを拾い上げる。そこには何か書かれているようだが、今はページを開いている余裕などなかった。


 「くそ……まさか侵入者に連れ去られたのか? だとしても、なんでニーナを狙う……」


 胸の奥がざわざわと騒ぎ始める。ニーナは今まで“鬼畜オヤジ”の汚名を背負う幸太郎に対しても、控えめながら好意的に接してくれていた司書だ。思わず奥歯を噛みしめる。


 「まずは屋敷のほかの場所にも誰か潜んでいないか確認しよう。ニーナが室内にいないとなれば……外へ逃げたか、あるいは連れ去られたかのどちらかだ」


 「ええ。ロゼッタやミウにも知らせなければ。動ける人を総出で捜索しましょう」


 椿は短刀の柄に手を置き、素早く踵を返す。幸太郎も負けじと後を追おうとするが、窓に近づくと外の気配を感じて思わず息を呑んだ。


 「暗くてよく見えないけど……裏庭のほう、何か動いたような……?」


 だが、はっきりとした人影はつかめない。とにかく今は屋敷全体を警戒し、ニーナの行方を探すしかなかった。


 「幸太郎様!」

 廊下から、また別のメイドの声が聞こえる。うろたえた足音が近づいてきて、息を切らしながら報告する。


 「きゃっ……失礼します。ニーナさんの姿がどこにも見えなくて……窓ガラスが割れてる場所もあって……」


 「わかった、落ち着け。椿、手分けだ。ロゼッタたちがいるはずだから、みんなで手を組んで捜す。ニーナが屋敷の外に連れ出された可能性が高い」


 そう言い残し、幸太郎は急ぎ階段を下りはじめる。部屋から出てきた椿も、メイドに声をかけながら次々と指示を飛ばした。


 (ニーナがいない……こんな形で巻き込まれるなんて。やっぱり狙いは俺……? それなら絶対に取り戻さなきゃ!)


 胸をえぐるような焦燥感に突き動かされ、幸太郎は玄関ホールを駆け抜けていく。奥ではロゼッタが騎士団の仲間と合流し、ミウもメイドたちを落ち着かせようと懸命になっていた。


 「とにかくニーナを探せ! 外の方まで目を光らせてくれ!」


 みんなに呼びかけながら扉を開け、夜の風を浴びる。

 闇に沈む屋敷の庭や塀のあたりをじっと見すえるが、確かな足取りは見つからない。


 「……ニーナ……お願いだから、どこか無事でいてくれ……」


 全身をこわばらせながら幸太郎が門へと足を向けると、物音を立てて駆け寄ってくる椿が声を上げる。


 「今、裏口のあたりで人影を見かけたという情報がありました! でも、具体的には捕捉できていないそうです」


 「……くそ、手際がいいな。徹底的に屋敷周辺を探そう。ミウとロゼッタにも伝えて、一瞬たりとも油断しないように」


 息を切らしながら全員で連携を図り始めるが、夜の闇は深く静かで、簡単には足取りもつかめない。まるで敵がこちらをあざ笑うかのように、不気味な沈黙が辺りを支配していた。


 (ニーナ、無事でいてくれよ……。必ず助け出すから……)


 幸太郎はぎゅっと拳を握りしめ、走り回る騎士や使用人たちに何度も声をかけながら、屋敷内外の捜索を続ける。窓ガラスやニーナの部屋の惨状から見ても、ただ事ではなかった。


 ──そんな緊迫した空気のまま、夜はさらに深まっていく。

 ニーナの行方がわからないまま、屋敷には張り詰めた緊張感が重くのしかかっていた。

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