夜の不安
夜が近づき、屋敷のあたりが薄暗くなってきたころ。
幸太郎はふと、屋敷の窓辺から外を見つめ、どこか不安そうに息をついた。
「なんだか胸騒ぎがするんだよな……あの日、アレンが来たみたいに、また誰かが襲ってくるってことはないだろうか」
独り言に答えるように、玄関のほうから控えめな足音が響く。
顔を見せたのは、留学生姿の椿だった。和風の袴をまとい、いつも通りの凛とした雰囲気を漂わせている。
「ご主人様、こんばんは。こんな時間に窓を開けていらっしゃるなんて、少し冷えませんか」
穏やかな声に、幸太郎は肩の力を抜きながら振り返った。
「椿か……いや、ちょっと外の空気を吸ってたんだ。そっちはどうしたの?」
椿は胸元で手を合わせ、静かに笑みを浮かべる。
「夜の稽古を終えて戻ったところです。先ほど庭を回ったら、人影こそなかったのですが、落ち葉が妙に乱れていて……何かあったのではないかと気になりました」
「落ち葉が乱れてる……風で散らかっただけならいいんだけどな」
幸太郎は微かなざわつきを感じつつ、窓から夜の闇を見やる。これまで散々、悪評から来るトラブルを経験してきただけに、嫌な予感を拭えなかった。
「ありがとう、椿。いちおうロゼッタにも注意をまわしておくよ。俺も今夜はあんまり部屋にこもらないでおこうと思う」
「そうなさってください。もし何かあれば、私もすぐ駆けつけますので」
彼女は一礼し、廊下へと向かう。
見送りながら、幸太郎は少しだけ息を吐いた。
(ゲームのイベントじゃ、こんな雰囲気の夜にいきなり襲撃フラグが立ったりするんだよな。まさか現実になるとは思わなかったけど、もう逃げないって決めたんだ)
居間へ戻ると、そこには弱いランプの灯がともされ、暖炉の火が小さく揺れていた。
「皆が安心して休めるように、俺がしっかり見張っておかないとな」
呟いたその矢先、廊下のほうから小さな物音が聞こえる。
ほんのかすかな音だったが、静まり返った屋敷では際立っていた。
「……まさか、もう動きがあるのか?」
幸太郎は外套を手に取り、急いでロゼッタの詰所へ向かうことにした。廊下を足早に進みながら、体がわずかに震えているのを感じる。
(ミウやニーナまで巻き込むわけにはいかない。どうか何も起きなければいいんだけど)
夜の屋敷はどこか冷え冷えとしていて、足音が妙に響く。
幸太郎は心の奥でざわめく不安と、いままでより強くなった「守りたい」という気持ちを噛みしめながら、廊下の闇を進んでいった。




