鬼畜エロゲ世界への転生
「うわ……またこんなにエグい展開に……。でも……どこか興奮するっていうのは、俺、どうかしてるのかな」
深夜の部屋に小さな独り言だけが響いた。
加々美幸太郎はモニターを見つめながらゲームのマウスを操作していた。
画面にはファンタジー世界の女の子たちが酷い目に遭わされていて、それがいかにも鬼畜系な展開になっている。
「まさか、こんな無理やりの展開、リアルじゃできるわけないよな」
彼はため息まじりに画面をクリックした。
「……でも、こういうキャラを完全攻略してハーレム作るのが、このゲームの醍醐味だったよな」
そうつぶやきながら、幸太郎は一瞬だけ自嘲するように笑った。
「結局、俺、現実じゃ女の子とまともに話せないし。こんな鬼畜エロゲにハマるなんてな……」
画面に映る美女たちは、どれも好みのタイプばかり。
しかし、その方法があまりに理不尽で残酷なやり方なのが、心に引っかかっていた。
「もし本当に、こんな異世界ファンタジーに行けたら……どうなるんだろう」
彼はコーラのペットボトルをあおり、潰れたまぶたを少しだけ開き直した。
そのとき、窓の外からクラクションが響いた。
「やべ……こんな時間なのに。腹減ったし、コンビニ行こう」
急いでフード付きのパーカーを引っかけ、階段を駆け下りた。
そしてアパートの外へ出ると、わずかに涼しい風が吹きつける。
夜の闇の中、車のヘッドライトが妙に眩しかった。
「ちょっと急ぎで買い物して戻ったら、また攻略再開しよう」
そんなことを心で呟きながら、彼は横断歩道を渡ろうとした。
しかし、次の瞬間、鋭いブレーキ音と共に景色が横に流れて、意識が一気に遠のいていく。
「え……嘘、俺……死んだのか……」
かすかに思ったその一言を最後に、すべてが闇に閉ざされた。
いつの間にか、彼は知らない天井を見上げていた。
「痛みが……ない。けど、ここ、どこだよ」
ゆっくりと体を起こしてみると、古めかしいベッドに横たわっている自分の姿が目に入る。
いや、正確には、自分とは程遠い、太ってやや薄毛のオヤジの体。
「は……はあっ!? なんだよ、この腹っ!」
何度かお腹を揺すってみても、その中年太りの肉感は消えてくれない。
「なんでこんなブヨブヨの身体に? そんな馬鹿な」
動揺しつつも辺りを見渡すと、ビロードのカーテンや飾りの彫刻が並んだ、まるで豪華な洋館のような部屋だ。
幸太郎は必死に頭を働かせようとするが、さっきまでの交通事故の記憶が脳裏をよぎっている。
「あの瞬間に死んで……それでこの世界に来ちゃったわけか?」
彼は言葉にならない混乱を飲み込みながら、鏡の前に立った。
そこに映っていたのは、どこからどう見ても、悪趣味な鬼畜ルートを地で行くエロゲの中年男だった。