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第三話「異世界の言葉は難しい」

「あーっと。はいはい、これがこうで……こういう意味ね……それでこうなると。は?」


 現在俺は言語習得に難儀している。

 これ、英語以上に難しくね?

 転移してから一週間、マイの紐をしながら生活していた。

 まだ学園の外には出ていない。


 マイいわく――


「ここの治安はそれほど……いえ、スリは横行しているので気を付けてください」


 らしい。まあ、それだけならよかったんだが。


「黒髪黒目がこの世界では珍しいようで人攫いにあうかもしれません。私が女だったからという可能性もありますが万が一ということもあります。人気のない場所にはいかないようにしてください」


 出れるわけねえじゃん。

 てかマイ攫われかけたんだ……いや攫われたのかもしれない。

 今は窓から見える異世界風景で満足しておこう。

 護衛術くらい身につけないと外にはいけない。

 捕らわれの姫みたいだ…。

 いや、捕らわれの紐か……。

 誰かが階段を上がってくる音が聞こえる。ここに来るのはマイとあと一人しかいない。


「(ジン、精が出るな……いや、頑張っているな)」


 ガイオスが飲み物を持ってきてくれたようだ。

 こうしてよく顔を見に来てくれる。

 現地人と交流できるっていうのは言語習得にかなり役立つ。それもあるけど会いに来てくれるのは普通に嬉しい。さすがに知り合いがマイだけってなると寂しいからな。


「あ、ガイオス。あー(頑張ってます、はいありがとう)」

「うむ。(ありがとう。はいがんばっています)だな」「

「なるほど(ありがとう)」


 頭を撫でてっていうよりわしづかんでから部屋を出て行った。

 お父さんみたいだ。ちょっと痛いが励みになる。

 っと、忘れる前にメモだ。

 ガイオスがもってきてくれた飲み物はうっすいレモン水みたいなもんだけど、魔術でキンキンに冷やしてくれているからマズくわない。おしゃれな店で出てくるお水みたいな感じ。行ったことないけど。

 しかし、マイが言ってた通りこの世界の食事は薄味だった…かなり。あとこの地域は特別おいしくないらしい。

 現代社会で生きて舌の肥えた俺なんかじゃ到底満足できない味だった。

 まあ、食えないこともない。

 それに――


「餓死しないだけましと思いましょう。それに毎日三食食べられるこの環境は天国みたいなものですよ」


 文句なんて言えないじゃん。そんなの…。

 風呂には入ってない。マイの洗浄魔術に頼りきりだ。服ごときれいになるから着替えいらず。早く覚えたい。

 魔術については就寝前に少しずつ教えてもらっている。

 ……進歩はない。まだ一週間だ長い目で見よう。


「少し、魔力が増えてきていますね。この増え方は……もしかしたら転移した時にいくらか使っていたのかもしれません」


 魔力はあるみたいだった

 最大量については師匠に聞かないとわからないらしい。多かったらいいな。マイほどではなくてもいいからさ。


 ゴーンゴーンゴーン


 午後の三つ鐘だ。授業が終わって廊下が騒がしい。

 この世界に時計はまだない。鐘が時間を知らせる合図だ。

 朝の一つ鐘が1日の始まり、それから一つずつ増えて6つでお昼だ。

 そこからまた一つに戻って九回なったら1日の終わり。

 魔術でどうにかなっているらしいからずれはない。

 が、定期的に魔力の供給が必要らしく、100日置きに行われるそれに民衆はお祭り騒ぎで祝うそうだ。

 祝う必要あるか?って思ったけど娯楽の少ないこの世界ではことあるごとに何かしら理由づけて騒いでいるらしい。

 ストレス解消の一種みたいなもんだろう。

 そういう時が一番攫われやすいようだ、マイが言ってた。


「(ジン居ますか?)」


 鐘が鳴って少しした後、工房にマイが顔を出した。

 マイにはできるだけ現地の言葉で話してもらうようにしている。

 勉強になるからな。


「(はい、います)」

「(少し時間を頂けませんか?学園長が帰ってこられたので挨拶に行きましょう)」


 聞き取りはできるようになってきた。がこれはちょっと難しいな。

 挨拶……時間,ちょっと。学校。帰る……行く。

 空を見て考えてたら、母国語が飛んできた。


「やはり、まだ早かったですかね?」

「(いえ、お願いします)」

「(わかりました)ですが。ひとまずついてきてください。学園長に紹介しますので」


 そういえばまだあったことなかったな。

 これからここで世話になるなら挨拶しとかないといけないか。


「(学園長は優しい方ですが、ちゃんと挨拶だけはしましょう)」

「(はい)」


 わかりやすくゆっくりと話してくれるのはありがたい。


 知ってる単語が多ければニュアンスでわかる。英語とかと同じだな。


「(えーっと……)話すのが難しそうであれば私が翻訳しますので安心してください」

「(わかった、ありがとう)」


 いつまでもおんぶに抱っこではいられない。早く習得しよう。

 授業が終わったばかりだからか人が多い。やはりちらちら見られている。

 俺のことを珍しく思っているひとが少々、マイを恐れていそうな人が多数。

 道を開けて挨拶のポーズをしている人もいる。

 異世界式あいさつの右手をポンポンしないやつは敬礼みたいな感じらしい。

 一週間一緒に歩いてるといつもこんな感じだ。慣れてしまった。

 お、ここからは初めて通るとこだな。

 この学校は広すぎる。マイでも行ったことのないエリアがあるらしい。

 こっちに来て一週間経ったけどマイがよく使う教室を案内されただけでそれ以外はいったことがない。

 行きたいが絡まれたら鬱陶しそうだし。


「貴族と平民が一緒に勉学をしていますが、中にはいい顔をしない方々もいます。大抵私の顔を見れば逃げていきますので、自己防衛のためでしたら名前を出すことを許可します。威張ってはダメですからね」


 ……番長?

 結構自分の事わかっているらしい。いざという時は使わせてもらおう。

 ほどなくして中々立派な扉の前まで来た。


「(ここです)」


 釣り看板みたいなのがあるけど……読めないな。

 マイは軽くノックをした。ドアに魔術陣が組み込まれていてノックと共に反応している。

 何これすごい。


「(マイです。新しく雇った助手の紹介に来ました)」


 数秒立って、重そうな音を立てながら扉が開いた。見た目と違って重そうだ。

 部屋に入るとそこには……ほとんど何もない。部屋の奥に学園長が執務をするのであろう机と来客をもてなす用の椅子が二脚あるだけだ。

 学園の内装とは驚くほど違う。質素。その言葉ががよく似合う部屋だ。

 奥の机でメガネを掛けた小太りのおっさ……中年男性が机に向かいなんやらの資料を見ている。

 おそらく学園長だろう。


「(ガイオスから聞いている、掛けなさい)」

「(はい。ではジンはこちらに)」

「(は、はい)」


 さて、この世界で三人目、それに結構なお偉いさんとの初対面だ。緊張する。

 そして俺は椅子に向かう途中で床とキスをした。


 そりゃないだろ……。

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