第2話「初めまして異世界2」
書いている最中苦痛でしたので舞人の話し方を変えました
衝撃を受けてから五分経って、俺はマイに連れられ廊下を歩いている。
「なんかじろじろ見られてる気がするんですけど」
道行く人の数は少ないながら、その全員がこっちを見てくる。
「その格好はこっちでは珍しいので気になるのでしょう。高く売れますよ。私の場合は身ぐるみはがされて高級洋服店のショーケースに並んでいました」
「かんがえときますぅー」
マイってとんでもない、異世界ライフ送ってきたんだな。尊敬の念しかねえ。
「それに私はこの学院で有名人なので人を連れているのが珍しいってこともあるんでしょう」
「へ~有名人なんですね」
そういえば、日本人の黒髪黒目って異世界では稀有な存在らしいし、もしかして俺も有名人に…。
「あと、この学校って貴族の人が多くてですね」
「やっぱそういうのあるんですね。やっぱり突っかかられたりしました?」
貴族と平民の軋轢とやらはよくあるストーリーだ。歴史から見てもそうだな。
「はい。入学試験の時にいろいろ言われたので試験会場を更地にしてやりました。死傷者は出ませんでしたが浅はかな考えだったと今では思います。心も体に寄ってきているのでしょうか・・・」
……この人に絶対喧嘩売っちゃだめだ。気を付けよう。
「私の場合推薦していただいたのがかなりの有力者だったので事なきを得ましたが……もしジンが試験を受けるなら気を付けたほうがいいですよ」
「そんなことしませんて」
この人日本で何してた人なんだ。怖いから聞かないでおこう。
「学校内に部屋があるなんて珍しいですね。ここでは普通なんですか?」
今俺たちはマイの私室に向かっている。魔術書のカバーをもらうためだ。
本は今俺の服の中だ。今腹に銃弾が撃たれても生き残る自信がある。
「いえ、普通は寮に入るんですが……生徒が怯えるからと準備室を一室与えられました」
マジで喧嘩売っちゃだめだ。
「なかなかいいですよ。授業ギリギリまで寝ることができますので」
「そういうとこきっちりしてると思ってました」
見た目で判断するのはよくないと思うが、口調もそうだし中身……の話はやめとこ心を読む魔術とかあるかもしれないし。
「誰でもできることならば寝ていたいと思いますよ?あなたは違う人ですか?」
「いや、同感です」
「ですよね。誰もが憧れるシチュエーションです」
怖いけど、茶目っ気もあってどちらかというとかわいいなこの人。
「つきました。ここで待っていてください」
目にあるのは木製の扉だ。魔術陣が刻み込んである。
マイが触れると光って回り、鍵が開く音がなった。
触れたい…この異世界に触れたい……。
「入らないなら触っていてもいいですよ?私でしか作動しませんからそれ」
女神!早速触れ……られない。ちょっと浮いてる。扉にくっついているわけじゃないのか。
そういえば触ったって言ってもかざしただけだったか。
なるほど。いつか作ってみたいな。教えてもらおう
扉を見ているうちに部屋の方を見てしまった――が、黒い壁があるだけだった。触れても壁だ少し冷たい。
これも魔術か?いいな異世界。すごいぞ異世界。
「ちょっと邪魔なのでどいてくれませんか」
壁がしゃべたああああああ!!!
ではなくその奥にいるマイが話しかけてきただけだった。
「これも魔術ですか」
「少し違います。これは結界と言ってまた体系が違うものです。知りたいならこれもお教えしましょう」
「はい!お願いします!」
いいな、すごくいいぞ。これぞ異世界。
「と言っても。あなた自身では使えないでしょうね、魔力がぜんぜん足りません。はい、これカバーです。合うか試してみてください」
「……ありがとうございます」
魔力……また魔力……。
カバーはぴったりだった。
「はい、いい感じですね。次に行きましょう」
俺はいい感じじゃないよ……。俺は背を丸くしながらついていく。
異世界って凡人に厳しいな。
「マイってどれくらいの魔力があるんですか?」
同じ日本人なんだから、魔力も同じはず……。
もしかしたら努力すれば同じとこまで行けるかもしれない。
「そうですね。私の師匠いわくこの世で最も多くの魔力量をもつ生物の魔神龍――」
はい。チート。絶対追いつけない。
「の三倍。おそらくそれ以上と言っていました」
「……そうですか」
チートっていうか。神じゃんそれ
「どうやってその魔力を?」
「わかりません。師匠に拾われたのはその魔力量のおかげですから、もともと持っていたのでしょう。なぜかはわかりませんが」
無自覚系主人公じゃん。
「しかし、この馬鹿げた力のおかげで転移魔術の研究ができるんです。恵まれた体に感謝ですね」
「俺がそこまでになるにはどうすれば?」
「さあ、私にはわかりませんね。師匠なら知っているかもしれませんが」
さっき紹介してくれるって言ってたしその師匠とやらに期待しよう
「ちなみに師匠の魔力量ってどんなものなんですか?」
「うーん。私と比べるのは無駄ですし……」
やっぱりそうなんだ。チートだもん。わかってた
「師匠の曰く”私を上回るのはただの一人だけだ”って言ってました。その人は今この世界にはいないと言っていたので実質世界一ですね。私なんてすっぽんですよ」
凄そうなマイがスッポンて…チート主人公の師匠だもんな。それくらいはあるか…それくらいって言っていいのか?
「俺はなれますかね……」
「無理ですね。千年以上生きられれば何とかなるかもしれませんが」
……不老不死の霊薬とかないかな
「人なりに頑張ります」
「はい、努力すれば何と……魔力量の成長は十二歳ほどで伸びにくくなるんでした」
つんだ……。
「で、でも死に物狂いで鍛錬すればどうにかなりますよ!師匠にも頼んでみますから!」
っく……女神がやさしい……。
「もしくは世界のどこかにある魔力量を底上げする霊薬だあると聞いたことがあります」
「ほんとですか!?」
「はい、飲んだ人が体から血を噴き出して絶命したって話も聞きましたが…」
悪魔だ。魔女だ。
予想してた異世界ライフはどこへ……。
「(マイ、話はできたか)」
落ち込んでいると後ろから声が聞こえてきた。
振りかえってみるとさっきの大男が立っている。
さっきは気づかなかったけど、ちびりそうなくらい威圧感ある…。
「(ガイオス、はい。ご配慮ありがとうございました)」
「(よい。そのものに合う服をいくつか持て来た。それでは歩きにくかろう)」
多分この世界の言葉だろうけど。何を言っているのかわからない。
マイは大男から服を受け取って僕に紹介してくれた。
「この方はガイオス、私の研究を手伝ってくれています。これからは彼と一緒にいることが増えるでしょう」
「そ、そうですか……」
「ふふ、見た目はあれかもしれませんがすごく気さくな方ですよ。怯えないであげてください」
大男はガイオスというらしい。二メートルはあるんじゃないか?
黒い肌に白髪の短髪、サングラスをしている。
「あ、えっと。よろしくお願いします」
手を伸ばしてみたけど反応がない
「ここでの挨拶は右手を開いて左肩を叩きます」
マイは見本を見せてくれた。
世界が違うんだもんな。そういうことも気を付けないと。
元の世界でも国が違えば侮辱のしぐさになるものもあるというし。
「それから(よろしくお願いします)がお願いしますです」
俺は挨拶をしながら教えてもらった言葉をたどたどしいながら伝えてみた。
ガイウスは口角を少し上げながら返してくれた。本当に優しい人みたいだ
「(同郷のものが来たのは行幸だな。もう少しで叶うのではないか?)」
「(はい。ですがまだ調整が必要なようです。これからもお願いします)」
うん、何を話しているのかわからない。
でも険悪な雰囲気はしないしな。俺のことは気にしないでくれ。
挨拶をしてガイウスは帰って行った。
「さて、とりあえず着替えますか。工房に戻りましょう」
「着替え……それ俺のために?」
「はい、いくつか見繕ってくださったようです」
三着くらいの厚みはありそうだ。
「持ちますよ」
「ありがとうございます。袋に入れて持ってきて……部屋にないか見てみますね。確か昔使ってた採取用のものがあったはずです」
なんの採取に使ってたかは、聞かないでおくか…ありがたく受け取ろう。
少ししてマイが出てきた。
「これなら入りそうですね」
手に持っている袋は意外ときれいだ。身構える必要はなかったな。
「これは冒険者時代に色んな魔物の……」
「それ以上は聞きたくないです」
俺は言葉の続きを手のひらで制した。それ以上聞いちゃうと使えなくなる可能性がある。
「そうですか?ちゃんと洗ってあるのできれいですよ。ほら匂いもしません」
すんすん……確かに嫌なにおいがしない。というかいい香りがする。…それ以上考えるのはやめておこう。俺は紳士だ。
「それではここに」
口の広げられた袋に服を入れて、それを受け取った。
「ありがとうございます。助かりました」
「このくらい大丈夫ですよ。行きましょうか」
俺たちはさっき通った道を歩いて工房に向かった。
「そういえば寝床の事考えていませんでしたね」
「そうですね、どこかあてはありますか?」
マイは鼻下に指を当てて考えている。
「……野宿でもしますか?」
「な、なるほど」
やっぱ、そうなるか……。
「ここは学校内で暖かいですが外は寒いので凍死するかもしれません」
「すみません、お金貸してください」
借金が増えるが背に腹はかえられない。
「冗談です、工房に寝具が置いてあるのでそこで寝てください」
「そんなのあったんですね」
さっきは見てない二階部分が生活スペースなのか。部屋があるのに何か別の用途にでも使ってんだろうか。
「はい、部屋に戻るのが面倒な時に使っていました」
「マイって意外とだらしないんですね」
「楽できるなら楽したいんですよ。いろいろありましたから人生のご褒美です」
……なんもいえないよ。そんなの。
この五年どんな生活してきたかわからないが、それでも常人のそれとは比べものにならないくらいはハードだったはずだ。
幸せになる資格がある。ならなければいけない人だ。
俺もやれる範囲でこの人の願いを叶える手伝いをしよう。
「でも、いいんですか?そんなとこ使わせていただいて」
「最近は使っていませんでしたし大丈夫ですよ。いろいろ不便はあるでしょうが我慢してください」
「我慢なんてそんな。俺は使わせてもらう側なんですから文句なんて言いませんよ」
寝具があるだけましだ。もっと苦しい思いをした人がいるんだから。
「それはよかったです。トイレは学校のものを使ってください。体の汚れは毎日私が魔術で奇麗にしましょう」
「そんな魔術もあるんですか」
「はい、生活に便利な魔術から教えるつもりです。早くできるようになってくださいね」
「善処します」
また少し笑ってくれた。
この世界に来てからまだ一時間ちょっとしか経っていないのにいろんなことがうまくいっている気がする。
親切な人から施しを受けられているし、悪い人間にもまだあってない。
マイのような厳しい状況にもなっていないし、順調な滑りだしだと言える。
たとえ魔力がゴミカスだったとしても。
憧れていた詠唱魔術が存在しなくても。
この異世界で生きていけるならそれでいいじゃないか。
「ああ、それから」
なんだろう
禁止事項でもあるのか?
「この地域の食事はちょっとあれですし薄味なので覚悟しておいてください。」
そんなこんなで想像の遥か斜め上、いや斜め下の異世界ライフが始まったのだった。
……なんか、思ってたのと違うなあ。
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